魔女は快眠を望む
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あれから私と平士くんは『世界』に能力を返し、各地を転々としている。
私と同じような力を持った魔女が数例『世界』に報告されているらしく、その人たちを探すためだ。
「今日はこの街に泊まろうか」
「そうだなー。地図見た感じだと、ここからしばらくは宿もなさそうだし……」
平士くんと旅をし始めてから、私は極力能力を使わないように気をつけている。
一発で普通の人ではないとバレてしまうということもあるが、一番は「能力を使うことでより魔女としての器に磨きがかかっているのではないか」という仮説が出たからだ。
お婆様から能力を譲り受けたばかりの頃は、ここまで色々と力を使いこなすことはできていなかった。
それが今ではある程度のことは何でもできるようになっている。
これが、何度も力を使い続けたことで、私の器自体も鍛えられているのではないかという仮説に至った経緯だ。
「私の力を使えば野宿なんて何てことないんだけど……」
「それは言わない約束だろ?力はしばらく使わないようにしようって決めたんだから」
「……うん。ごめん」
「野宿も楽しいかもしれねーけど、こうしてお前と色んな宿を回るのも楽しいよ」
「ありがとう。平士くんも元々旅の一座にいたんでしょ?」
「おう。だから尚さらこうして色んな場所を巡れるのが楽しいのかもしれねーな」
一緒に旅をするようになってから、平士くんとは色んな話をした。
平士くんがこれまでどんなところで育ってきたとか、どんなことが好きかとか。
関係をこれ以上深めようとしてなかったから、聞くのをやめていた色んなこと。
「また平士くんの笛聴きたいな」
「宿だと怒られるかもしれねーから、明日出発したら、開けた場所でまた吹いてやるよ」
「ありがとう!」
平士くんの演奏する笛の音は、治癒の力でもあるのかというくらい癒される。
私たちは手近な宿に入って食事を済ませ、部屋を借りた。
「ふぅ……」
私は入った瞬間思わずベッドに飛び込む。
旅を始めてからよく歩くし、体力も以前よりついたと思うけれど、まだまだだ。
「光希もかなり体力ついたよな。前だったらここより前の街までで力尽きてたのに」
「ふふ、そう言ってもらえて嬉しい〜。でもまだまだ平士くんには敵わないよ……。もっと頑張らないと」
「無理しなくていいよ。光希のペースで体力つけていこうぜ」
「ありがとう」
疲弊した体に鞭を打ってお風呂を済ませ、私はまたベッドにダイブした。
平士くんに一緒にお風呂に入ろうと誘われたけど、私は一刻も早く休みたかったから今日は申し訳ないけど断った。
「あ〜〜〜〜〜ピュンって飛んで行けたら楽だけど、数千年滅多に歩いてこなかったツケが……」
ベッドで大の字になっている私を見て平士くんが笑う。
「今日はちょっと多めに歩いたから疲れただろ?マッサージしようか」
「えっ、いいの?でも平士くんも疲れてはいるでしょう?」
「これくらい大したことねーよ!」
ほら足出して、と平士くんに促されて、私はお言葉に甘える。
「うっ、あ〜〜、そこ……気持ちい……」
マッサージされながら、あまりの気持ちよさに仰け反る。
だんだん眠気もやってきた。
「あ〜〜……そういえば、ずっと聞きたかったことがあるんだけど」
「うん?」
平士くんはマッサージの手を止めずに耳を傾けてくれている。
「私の感情を見た時、すごくドロドロしたものやドス黒いものだったと思うんだけど……どうして受け入れてくれたの?」
「あ〜……」
私の中に渦巻いている感情は、いいものだけではないのはもちろん、私を住処から追い出そうとした人間への憎悪もあったはず。
平士くんは同じ人間として恐怖を覚えなかったのか、ずっと気になっていた。
「それはな、」
「んっ、」
平士くんがマッサージの指圧を強める。
「確かにお前の中には黒い感情が渦巻いてた」
声色が優しい。
「でもその感情を紐解いていくと、光希が感じてる寂しさが見えたんだ」
「寂しさ……?」
「うん。だって何度も色んな人間に追い出されたなら、いっそ空に家を作っちまうとか、誰も入って来れないように壁を作るとか、それくらいできたはずだろ?それでもお前は誰かと関わる機会を切り捨てなかった」
確かにそれはそうだ。
私はどこかで、誰かが受け入れてくれることを期待していた……?
「だからさ、光希のそういうドロドロした感情も全部、誰かに自分を受け入れてもらいたくて、愛してもらいたくて、それでもダメで、っていうのを繰り返した結果なんだって思ったら、なんか、」
「……なんか?」
「可愛いなって思っちまった」
平士くんは照れ臭そうに笑う。
……私は今、絶対顔が真っ赤だと思う。
「平士くん、可愛いの基準おかしくない……?」
「いいんだよ。お前にしか言わねーし!」
平士くんは私の足を撫で、マッサージを終えた。
「はい終わり。ちょっとは楽になったか?」
「うん!すごいよ、してもらう前と全然違う。ありがとう〜……」
私は平士くんにハグをしたが、そこでもう眠気が限界まできていた。
「よく頑張ったな。おやすみ」
平士くんが額にキスを落としてくれる。
私もキスをしてあげたいのに、瞼がもう重たくて仕方ない。
「平士くんも、おやすみ……大好き」
「俺も、大好きだ」
キスの代わりに言葉を送る。
私は心が温かくなる心地よさに身を委ねながら、眠りについた。
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