魔女は快眠を望む
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あれからずっと考えていたけど、『世界』に着いたら私は過去を見る必要があると思う。
地球の過去ではなく、私の過去を。
アイオンが提示した扉は二つあった。
未来を見る扉と、過去を見る扉。
私が以前同行した旅では、未来のことを判断するということで、満場一致で未来を見る扉が選ばれた。
今回は、過去を見よう。
「……見えてきたぞ」
以前来たときより木が増えたかな?
私は二度目だけど、みんなは初めてだから困惑している。
「さあ、行こうか」
到着してから、正宗くんを先頭に、迷わず森を進んでいく。
敵の気配もない。
襲撃犯はここまでは来ないのか?
「!」
アイオンのいる部屋に着くと、以前見たときよりもずっと、機械が錆びてしまっていた。
こんな状態で『世界』の統治を維持するのは無理だろう。
あとは欲深い科学者の狸ジジイたちだけだ。
『よく辿り着いてくれました』
アイオンの声が響き、姿が現れる。
そして暁人くんと千里くんの話や、今回の旅がこれまでと異なったことを教えてくれた。
『能力者ではないのは、』
アイオンは私とロンくんを指さす。
まあ、やっぱりね。
『光希は初めてリセットを拒否した年の能力者であり、今回私が選んだ能力者ではありません』
「その通り。前回ぶりだね、アイオン」
アイオンは相変わらず表情を崩さない。
「ロン、じゃああなたが内部犯だったの……!?」
張り詰めた空気。
「……」
ロンくんは何も言わない。
「飛ばそうか?外に」
『これからする話は、能力者に対して行います』
それを返事と受け取り、私は指で線をなぞるように宙に描き、ロンくんを島の入り口まで飛ばした。
「私は一回聞いてるから許容してね」
アイオンは私が記憶を保持し続けていることに驚く様子も見せず、淡々とこの世界のことについて話し始めた。
説明が終わり、みんなからの質問も終わったところで、お決まりのように扉が二つ現れる。
未来へ行く扉と、過去へ行く扉だ。
「私、過去へ行きたい」
私は真っ先に名乗りを上げた。
「前回リセットに参加したときは未来を見たの。だから、過去が見たい」
「でもあなたは今回は参加しないんじゃ……」
「……正直に言うと、これは私のワガママ。私が自分の過去と向き合いたいの」
『……私の最期の力です。行きたい方へ、どなたでも』
アイオンの表情が少しだけ変わった気がした。
「……ありがとう」
人数制限がなく、どちらにも行けるのであれば、私の心にあった最後の罪悪感も消える。
「じゃあ俺、光希について行く」
「平士くん!?」
「……俺についてこられるの、嫌か?」
正直、この過去を見てから平士くんとどうなるかを決めようと思っていたから、見られたくない気持ちもある。
でも、彼と一緒なら、私は必ず過去からこちらへ戻ってこれるかもしれない。
「わかった。すごく複雑な過去かもしれないから、覚悟してきて」
私は平士くんと手を繋いで、扉を潜る。
「!」
広がった光景は白黒で、色がなかった。
そしてそこには、もう記憶にない幼少期の自分がいた。
「私の、小さい頃……」
「かわいいな」
「もう、平士くん!」
平士くんの言葉に少し和みながら、先へ進む。
『ねえおばあさま、おばあさまは「まじょ」なの?』
「!」
あれ、いつからか私の部屋に飾られている肖像画の老婆だ。
もう誰だったのかも思い出せない……。
『おやおや、いったい誰がそんなことを言ったんだい?』
『おかあさまとおとうさまがいっていたの。だから、もうあいにきてはだめだって』
『それでも光希はここへ来てくれたんだねえ』
『だって「まじょ」ってわるいひとのことでしょう?おばあさまはぜったいにわるいひとなんかじゃないわ!』
『……』
老婆はその言葉に黙り込む。
あれ?この人、この後何て返したんだっけ。
いつの間にか、私と平士くんの手は離れていた。
『お前は純粋な目を持っている』
『おばあさま?』
『お前のような人間であれば、悠久の時をも耐えられるかもしれないね』
突如、老婆が少女の、私の頭を掴んだ。
「何を!?」
止めに入ろうとして、我に返る。
これは過去だ。今さらどうしようもない。
『私は、この地球のエネルギーの源を担う魔女さ。いつか地球の養分として吸収されることだけを待ち続ける魔女。……だが、もうそれにも疲れてしまった』
『ぅ、いたいよぉ、おばあさま……!』
『優しい光希。お前ならば、地球のために身を尽くせるかもしれない』
『おばあさま、おばあさま!』
老婆はみるみるうちに若返り、対して少女は急激に成長していく。
『お前のその純粋な心で、いつかこの地球が枯れ果てたとき、癒しておやりなさい』
成長した少女はその場に倒れ込む。
そこではたと気がついた。
この老婆がいるこの部屋……私が今使っている部屋だ。
私が今まで使っていた部屋は、元よりこの老婆のもので、私はその老婆から力を受け継ぎ、あの部屋を自分の部屋だと思って過ごしていたのか。
「そんな……じゃあ、私は、」
「光希?」
『「わたしは、」』
過去の中の私がこちらを見て、声が重なる。
『「私はこの地球の、養分として吸収されるためにこんな仕打ちを受けたというのか!?」』
老婆への怒りはもはやない。彼女も苦しい思いをしたはずだから。
私へ力を譲渡して、どこかで幸せに死ねていたらいいとすら思う。
だが私は?私はどうしたらいいのか。
また誰かに力を譲ったとて、それは負の連鎖に過ぎない。
それなら、私は……。