魔女は快眠を望む
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数日して、私たちは戦場から少し離れた平原へ着いた。
「もしかすると、この船を『世界』軍への援軍と勘違いして攻め込まれるかもしれないから、深琴ちゃんは少しだけ気を張っておいてくれる?」
「ええ、わかったわ。あなたたちは自分のすることに集中して」
「ありがとう。頼もしいな」
私、平士くん、正宗くんの3人で船を離れる。
「じゃあ、そっちは頼んだぞ。くれぐれも気をつけてくれ」
「うん。正宗くんも気をつけて」
上空から二つの住宅街を確認する。
まず近い方に降り立ち、早速平士くんに能力を使ってもらった。
『住民の皆様へ、通りすがりの守護神から、戦争に伴う囲い森の作成及び住宅の素材強化のお知らせです。これより、こちらの街の周りにまじないをかけた森を作成いたします。この森によってこれから一年間外からこの街へ入ることが困難になります。なお、中から外へ出る分には問題ありませんので、ご安心ください』
「ありがとう、平士くん」
「でもこんな説明で理解してくれんのかな?」
「まあ、怪しさ満点ではあるよね。……だけど、これで即座に状況把握できない人はどうせいつか戦闘に巻き込まれて死んじゃうよ」
私のこの対処は、誰もを死なせないようにするわけじゃない。
私を信じて、常に自分の身を守ることを考えた人だけが助かる。
「うーん、もういいかな?」
平士くんはちょっと離れててね、と少し距離をとる。
私は自分の部屋から漁り出して持ってきた杖を取り出す。
持ってきておいた針で手のひらを少し斬り、血を地面に垂らす。
「大地よ、力を貸して」
杖の先端で垂らした地の周りに円を描き、トンッと一突き。
すると、その端からみるみるうちに木が生え伸びていく。
それらは街を囲むようにどんどん範囲を広げていき、ものの数分で街を囲う森が完成した。
「すごいな……」
「お待たせ、平士くん」
「お前っ、手から血が!」
「今回はまじない付きだからね。ただ森を生やすだけなら血はいらないんだけど」
オロオロする平士くんを宥めるように、私は笑ってみせる。
「大丈夫だよ。大した傷じゃないし、死にはしないから」
もう一つの街も同じ手順でお知らせをしてから森で囲う。
「あとは、正宗くんが上手くやってくれれば……」
私が様子を見に行ってもできることはないし、私たちは一直線に船に戻ることにした。
「ただいま〜」
船に戻ると、何か違和感を感じた。
誰も出てこない。一階に誰もいないだけ……?
「平士くん!」
嫌な予感がする。
私は平士くんの手を取って、船内を飛び回る。
みんなは屋上にいた。
たくさんの機械兵に囲まれて。
「みんな!」
私は急降下とともに、杖を地面に叩きつける。
小規模の爆発が起こってできた隙間にそのまま着地する。
「平士くん大丈夫?」
「あ、ああ!」
「光希、戻ったか!」
「正宗くん!先に戻ってたのね!」
正宗くんが戻ってるなら、さっさと船を飛ばした方がいい。
「私が退路を開くから、みんなは船の操縦室に向かって、船を飛ばして」
「お前は!?」
「私はこいつらを全機船から追い出すから、みんながいない方が何も気にせずにできるし、伏兵がいないとも限らないからみんなで行動して!」
杖をひと回ししてコンッと地面を突くと、風が巻き起こって数秒の間、機械兵が宙を舞う。
「走れ!!!!!」
みんなが走り去ったと同時に、機械兵がガッシャガッシャと落ちてくる。
まだ壊れた様子はない。
しぶといな、ちょっとめんどくさそう。
「まあ、壊せなくても追い出せばいいし」
私は地面に手を当てて、周りにある植物で機械兵たちの足を縛り付けていく。
ちょうど襲撃犯たちが壊してくれた穴があるし、そこから全兵下に落とそう。
下は平原だし、高度が高くなれば落下するより前に燃え尽きるかも。
「お覚悟、ってね!!」
植物をどんどん成長させ、機械兵を一括りにする。
こんな足場を崩すような方法、みんながいたらできない。
ボール状に植物でぐるぐる巻きにして風で浮上させる。
そのボールとともに私も宙に浮かび、高度が上がっていくのを眺めた。
「もう少し、もう少しね……」
みんなが操縦室に先に行ってくれたおかげで、船はどんどん高度を上げていく。
「これくらいかな!」
パチンと指を鳴らすと、機械兵の一機に火が付いた。
そのままボールは重力に従って落下していく。
遠くからでも、ボール状にされた機械兵全機が燃えていくのが見えた。
火の玉だ。
「よし……早くみんなと合流しよう」
私は浮いた状態のまま、操縦室に急いだ。
操縦室に着くまでの道すがら、私と平士くんが帰ってくるまでにみんながいかに奮闘していたかが、至る所から見てとれた。
崩れた道、破壊されたレンガ、焦げた草木。
私たちがまだ戻ってきていないからと、船を飛ばさずに待っていてくれたのだろう。
「みんな無事!?」
ドタバタと操縦室に入ると、みんな揃ってそこにいた。
「光希!」
私が入ってきたことに気づくと、女の子たちが私に抱きついてきた。
男陣も何人か目が潤んでいる。
「心配かけちゃったかな?ごめんね」
「ありがとう……」
深琴ちゃんは悔し涙も混ざっていそうだ。
自分が力を発揮できなかったこと、私に頼り切ってしまったことが悔しくもあり、申し訳なくもあるのだろう。
こういう人間ばかりだったら、私は平和に生きられたかもしれないのに。
「さあ、あとは『世界』に行くだけだね!」
何人か怪我をしていたが、重傷とまではいかず、何とか生き延びることができた。
あとは、『世界』に着くまでに、私が色々と意志を固めないと。