魔女は快眠を望む
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
正宗くんと話してから、私はずっと考えている。
平士くんが私の想いに応えてくれるかどうか、という問題ももちろんあるけど、万が一応えてくれた場合に、私は自分の体質と向き合わなくては行けなくなる。
以前恋をしたときにも、ここまで深く考えなかったのに……。
この体質は気づいたときには私が備えていたもので、どうしようもないことだと思っていたし、人間は私よりも早く死んでしまう、私とは異なる生き物だと諦めていたから。
でも平士くんと出会って、本来の人間と違う反応をする能力者のみんなと出会って、欲が出た。
この子たちと生きて、死にたい。
「はぁ……」
私とは、何者なのか。
どうして不老不死になんてなっていて、こんな能力が使えるのか。
私はもっと自分を知る必要がある。
「光希?」
「わっ、びっくりした……。どうしたの、平士くん?」
「何か悩んでるみてーだったから……何かあったのか?」
「うん……何かはあったけど、平士くんにはまだ話せないの。ごめんね」
「……わかった」
平士くんはやけに大人しく頷いた。
「怒らないの?私が言うのも何だけど、こんなに落ち込んだ空気を明からさまに出しておいて話せないって……」
「まあ、ちょっとモヤモヤはするけどさ。お前は『まだ』話せないって言っただろ。ってことは、俺に話すことを一回は考えてくれて、そんでいつかは話してくれるってことだ」
「そうだけど……」
「それなら待つよ。無理に聞き出すのもなんかちげーと思うし」
今は何だか、平士くんの優しさが染みるなあ。
「ありがとう」
そうして平士くんと寄り添っていたとき、正宗くんが慌てた様子で駆けてきた。
「ここにいたか!平士、すまないがみんなに集まるように言ってくれるか?」
「お、おう!」
それからみんなで会議室に集まった。
正宗くんは思い詰めたような表情をしている。
「戦場に、降りることになった」
詳しく話を聞くと、『世界』からの指示で近くの戦場に降り立ち、少し加勢することになったらしい。
おかしい。以前私が同行したときの旅ではこんなことなかった。
だって、戦場を目にしてしまったら、どう考えてもリセットに考えが傾いてしまう。
そういう一面的な判断をさせないためにも、印象強い出来事はなるべく避けるように航路が指定されていたはずだ。
……正宗くんが嘘をついているとは思えない。
たぶん、あの狸ジジイ共が企んでるんだろう。アイオンは知ってるんだろうか。
「直接手を加える必要はない。近隣住民を守ったり、手助けしたりするだけでいい。ただ……戦場の近くということに変わりはないから、戦闘向きでない能力のみんなはここに残ってくれ」
「……ちょっと待って」
「光希?」
「それ、『世界』側押し負けてるから助けてくれって言われたの?それとも、近隣住民の安全を確保してくれって言われたの?」
「それは……」
「そこがはっきりしないと、何も知らない現地の人に加勢を求められるかもしれないでしょ?」
「……具体的な指示は受けていないんだ。戦場を経由して来いとだけ……」
まずいな。
その言い方だと、いくらでも解釈のしようがある。
「例えば、深琴ちゃんの能力で結界を張ったとして、でもそれは住民の安全を確保できたとは言えない。私たちはずっとそこに滞在するわけではないし、どう考えても私たちが下手に介入して立ち去る方が悪影響だよ」
「……」
『戦場に寄った』という事実を作り、かつ近隣住民に悪影響を及ぼさず、どうにか丸く収めるには……。
「『世界』側が譲歩しない限り、戦が収束することはない。相手側を完膚なきまでに叩きのめして再起不能にするか、人も含め一帯を更地にしないと」
「そんな、あなた何を言ってるかわかってるの……?」
「うん。だから、そんなことはしたくないよね〜」
戦が起こってるのは『世界』の治世の悪さが原因だし、『世界』側に勝たせるようなことはしたくない。
力を与えている武器商人は別にいるだろうけど、戦争を起こしてでも反発されるほど、『世界』は落ちぶれている。
「今回戦場に降り立つことで怖いのはふたつ。一つは、深琴ちゃんが人間を守るための装置として使い潰されてしまうこと」
「私はそんなに柔じゃないわよ!」
「そういう問題じゃないんだよ。深琴ちゃんが一度無償で守ってくれたら人はそれに依存するし、万が一深琴ちゃんの力不足で生活が脅かされ始めたら、恩なんて忘れて、深琴ちゃんを責め始める……そういう人間もいるの。特に深琴ちゃんは奉仕精神が旺盛だし、一番使い潰されやすいタイプだと私は思ってるよ」
「光希、私のことそんなふうに思ってたの?」
「悪い意味じゃない。往々にして、奉仕精神が旺盛なのは良いことだから。でも今回は相性が悪い可能性が高いの」
「……」
深琴ちゃんは悔しそうに俯いている。
彼女は少しくらいキツくても何も言わずに耐えてしまう面もあるから、なおさら危ないのだ。
「そして二つ目は、攻撃にも使えるような能力者を、戦闘兵器として利用されること」
「!」
「心当たりがある人、いるでしょ?誰とは言わないけどさ」
炎の能力者はまだ名乗っていない。
こはるちゃんか、ロンくんか、暁人くんか……。
「本人の意志に関わらず、頼られたら断れない人が多いこのメンバーにおいて、そういう利用のされ方が絶対ないとは言えない」
洗脳電波はジャミングしておいてるけど、完全には防ぎきれてない今、思考が正常に働くのは私だけ。
私がしっかり考えて動かないと、全員が何かしら利用されちゃう。
「正宗くん」
「ああ」
「誰が降りても良い結果にはならない。だから、誰も降りないようにしよう」
「でもそれだと『世界』に反することになるんじゃない?」
「大丈夫。戦場に寄れって言われただけで、具体的な指示は受けてないんでしょ?しかも、正宗くんの口振りからして、全員が降りるようには言われてない」
それなら、と私は続ける。
「正宗くんには一旦『世界』軍の拠点に行ってもらって、到着だけ伝えてもらう。ただ、自分たちは助力のために来たのではなく、あくまで近隣住民の安全確保のためだとはっきりと意思表示をして」
「じゃあ……近隣住民の方はどうするの?私の結界は永続じゃないからって言ったのはあなたでしょう」
「そっちは私が何とかする」
「何とかって……」
「周りを森で覆って、一年くらい迷いのまじないでもかけとけばいいよ。攻撃はそんなに防げないけど、軍が入ってこれないだけでも違うはず」
「そんなこともできるの?」
「まあ、まじないの効果は一年が限界かな。あとは、建物の強化ね」
戦中であることを忘れられては困る。
私のまじないも確実ではないから、危機意識を無くされては、私に全責任が押し付けられかねない。
「あっ、平士くんだけちょっとついて来てもらえる?」
「俺?」
「そう。街の周りを森で覆っちゃうから、一応住民に説明はしておきたくて」
「ああ、任せろ!」
そうして、戦場へついてから船を降りるメンバーが決定した。