魔女は快眠を望む
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あの夢があってから、女の子たちは皆順調にいっているようだった。
平士くんも前より私に対して距離が近くなった。気がする。
あの夢が一月くんによるもので、私たちの意識がしっかりしている、ただの夢ではないことを平士くんは知っていた。
だからこそ、あれが平士くんの願望を表した夢ではないことがわかっている。
私の気持ちも、あのときに全てバレてしまっている。
まあ、意図的にバラしたんだけど。
「ねえ平士くん」
「ん?」
「最近距離近くない?」
「そ、そうか?」
「前はこんなに近くなかったと思うんだけど……」
平士くんにしてみれば、夢の中でハグまでしたのに釣れない態度だと思うだろう。
でも平士くんは私に好きって言ってないし、私も好きとは言ってない。
だって、私が平士くんの記憶を操作したことまでバレたら、平士くんはきっと私のことを好きじゃなくなると思うから。
「あ、そうだ。私、一月くんに用があるんだった」
「一月に?」
「うん。またね、平士くん!」
私は平士くんがついてこないように振り切って、一月くんを探して飛び回った。
「あ、深琴ちゃん!一月くん見なかった?」
「一月?一月なら屋上にいると思うわ」
「ありがとう〜」
時々人に尋ねながら一月くんがいると思われる方に飛んでいく。
そして、遠くに一月くんの後ろ姿を見つけた。
「あ!一月くん〜!」
「光希ちゃん?」
振り返った一月くんの前に降り立つ。
「もしかして僕のこと探してた?」
「うん。ちょっと聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?」
「そう。この間の夢、一月くんの能力でしょ?」
「そうだけど……」
「一月くんは距離が離れた多数の人に能力をかけられるの?」
そのことか、と一月くんは納得した顔になる。
「僕だけの能力だったらできないよ。あれは平と協力したんだ」
「平士くんと?」
「うん。平は遠くにいる人にも、みんなにも、同時に声を届けられるでしょ?だからもしかしてって思ったんだよね」
一月くんの話によると、平士くんの能力と一月くんの能力を掛け合わせた結果、遠くにいる人でも複数人でも、同時に能力をかけることに成功したらしい。
平士くんの能力は、そんな使い方もできるんだ。
「ありがとう、教えてくれて」
私はそう言って一月くんの前から立ち去った。
もしかして、私が追い求めてるものって、精神感応力?
広範囲に、複数人に記憶操作の能力をかけること。
私がここへ来た目的はそれだ。
どうしようかな……。平士くんから能力を奪ってもいいけど、私の体がそれに耐えられない可能性もある。
それで死ねたら万々歳だけど、もしも、睡眠不足の時に一度起こしてしまった大惨事のように周りを巻き込んでしまったり、私が人としての姿を保てなくなってしまったら。
それは避けたい事態だ。
「面倒なことになったなあ……」
こんな感情が芽生える前だったら、平士くんを誘惑してこの船から降ろして、平士くんが死ぬまでの間に対策を練ればよかった。
でも今は、平士くんに嫌われる可能性をこれ以上増やしたくない。
「光希?」
「!正宗くん」
悩みながら宙を漂っていると、正宗くんに呼ばれる。
「何かあった?」
「いや……飛んでるところ、久しぶりに見たから」
「あー、最近は平士くんの肩借りて歩くようにしてたからね……」
でも、考え事をするときはやっぱり重力を気にしなくていい方が楽だ。
前までは浮いてるのが普通の状態だったんだし。
「何か悩み事か?」
「うん……」
正宗くんはこの船の中では年長者だし、相談してみようかな……。
「ねえ、正宗くん」
「ん?」
「ちょっと話聞いてほしいんだけど」
私たちはあまり人に話を聞かれないように、かといって私や正宗くんの部屋に行けばこはるちゃんの誤解を招くかもしれないので、人の少ない場所を探した。
「それで、話って?」
「うん。正宗くんは、今好きな人いる?」
「えっ、す、好きな……?」
動揺してる。こはるちゃんのこと、やっぱり好きなんだ。
こはるちゃんの頑張りのおかげか、いい雰囲気だもんね。
「例えば、その人に嫌われちゃう可能性があるとして。でもその行動をした結果、自分は平穏を手に入れられるとしたら、どうする?」
「……」
動揺していた正宗くんも、私の真剣な表情に気づいて、真面目に耳を傾けてくれる。
「そうだな……その行動をしないと、絶対に平穏にはなれないのか?」
「それが一番手っ取り早い、っていうか……。他の方法もないことはないけど、」
『世界』から能力を奪うとか。
「でもそれは、とても危険なことだし、どっちにしても好きな人とは一緒にいられなくなっちゃうかもしれないの」
「難しいな……」
正宗くんはすごく真剣に悩んでくれた。
こはるちゃんが惹かれるのも、わかるなあ。
彼はすごく善い人間だと思う。
「光希が手に入れたいものによるな」
「え?」
「お前は、平穏が欲しいのか?それとも、幸せになりたいのか?」
「平穏か、幸せか……」
「ただ平穏が欲しいなら、その行動を取ってもいいと思う。好きな人に嫌われるのは悲しいが、……そうだな、酷い言い方をすると、何もその人が最初で最後になるとも限らない。また好きな人ができるかもしれないからな」
……でもたぶん、精神感応力が手に入れば、私はもう二度と人と会わなくなるだろう。
そうなれば、実質平士くんが私にとって最初で最後の好きな人だ。
私はこの不老不死という体質がどうにかならない限り、また人と関わることはないだろう。
「私はただ……」
もうあんな悲劇を起こさないように、眠っていたいだけ。
「ううん、もう少し考えてみる。ありがとう」
私が本当に望んでいるものは何か。
私とは、一体何者なのか。