第一章:ノルンでの日々
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皿洗いは、思いの外楽しかった。
汚れが綺麗に落ちていく様を見ると、かつての人々が機械ではなく手で洗っていた気持ちもわからなくもない。
私は妙な達成感に満たされていた。
「今日は俺らの担当なんだし、本当にしなくていいんだぞ?」
「知ってる。私がしたいんだ」
「……そうか」
初めは申し訳なさそうにしていた宿吏も、最後には気にならなくなったようだった。
不知火も、乙丸も、ここぞとばかりに皿洗いをしている。
室星は……。
「あれ、室星は?」
「あいつなら、部屋で寝てるんじゃないか?」
「食べ終わる時には、もういなかった」
「ロンは食べたらすぐどっか行っちまうからなー」
メンバーが1人サボっているにも関わらず、皆、そんなに気にしている風ではなかった。
「呼びに行かないのか?」
「……」
3人は顔を見合わせる。
「まあ、あいつは言っても無駄だからな」
「いつも、起こしに行かないと来ない」
「悪い奴じゃないんだけどなぁ」
責めるでもなく、呼びに行くでもなく、この微妙に認め合っている感じは、何とも不思議だった。
呆れているのか、見捨てているのか、それとも、この関係性で上手くバランスが取れているのか。
少なくとも、宿吏は見捨てているような気がするが。
「そうか」
私は、それ以上の追及を避けた。
あまり他のグループを深掘りするのも良くないだろうと思った。
「これで最後だな」
私が最後の一皿を洗っているうちに、宿吏達は調理台や床の掃除を始める。
乾燥機のスイッチを押し、流しを拭く頃には、彼らも掃除を終えていた。
「じゃあ、」
私はこれで、と帰ろうとした時、大きく船が揺れ、爆発音のようなものが轟く。
「っ!?」
「何の音だ!?」
私はもっと、気にしておくべきだった。
内部犯が誰なのか。
もっと、周りを疑っておくべきだった。
「3人は別れずにこのままここで待機してろ。危ないから絶対1人で行動するなよ。私は様子を見てくる」
「はあ!?何言ってんだ、あんたも危ねえだろ!」
「危ないが、私の場合、そんなことを言っている場合じゃない。それに能力者だからな、何とかなる」
能力者なのは嘘だが、何とかなる手はある。
宿吏達の引き止める声を背に、私は音が聞こえて来た方向へと走った。
通りすがりに出会った能力者達には、必ず誰かと固まって待機するように伝え、結界を再度築くため、久我には同行してもらった。
「あなたも皆と待機していた方が良くないかしら?」
「私のことはいい。万が一久我が襲われでもしたら、命取りになる。何かあれば盾になる人間が必要だろ」
「!ちょっと、私はそんなに柔じゃ、」
「わかってる。私も能力者だから、何かあった時には守るって話だ。あんたは他の奴を守ってばかりだから、誰かがあんたを守んなきゃだろ」
「……」
久我はまだ不服そうな顔をしていたが、襲撃された現場に到着すると、険しい表情に変わる。
「こんなに派手にやられるなんて……」
「久我、結界を。あまり近づきすぎると落ちるから、気をつけて」
「ええ」
久我が結界を再構築し終えたのを確認し、ひとまずざっと確認する。
「一旦、皆のところに戻ろう。ここをこのままにしておくのも危ないし、結賀にでも応急処置をしてもらうかな」
「……そうね」
久我は、少し責任を感じているようだった。
自分がもっと完璧に結界を張っていれば、と。
「そう責任を感じることじゃない。あんたの結界は十分強固だ。相手が結界について熟知し、対策を練ってきたに過ぎない。今回の件、あんたは何も悪くない」
「……いいえ。私がもっとしっかりしていれば、皆に怖い思いをさせずに済んだわ」
「久我、いいか。よく聞け。元々この船は老朽化のせいで結界が弱まっていた。そこをあんたが修復してくれたおかげで、私達は安心して暮らせてる。結界の件で言うなら、悪いのはあんたじゃなくて『世界』だ」
そう言うと、久我は少し呆れたように笑う。
「あなた、そんなこと言ってたら不敬罪で捕らえられるわよ。……でも、ありがとう。ちょっと元気出た」
「……そうか」
元気付けようとして言った冗談ではなく、本音だったが、まあそれでも、久我が少しでも元気になれたなら良かったかな、と思った。