第一章:ノルンでの日々
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島での私は、あまり食に重きを置いていなかった。
食事は栄養を摂る手段に過ぎず、特別美味しさは求めていなかった。
時にはサプリメントで済ませることもあった。
が、しかし。
「……なにこれ」
今日の料理担当は不知火のグループ。
加賀見に「あっくんが作ったなら、美味しいと思うよ」と言われていた。
そんなに関心もなかったが、まさかこんなに美味しいとは。
「……不味かったか?」
「いや、すごい美味い。こんなに美味いもん食べたの、初めてだわ」
「それは大袈裟だろ」
「謙遜するなよ、宿吏」
少し照れ臭そうにする宿吏。
以前、小料理屋で働いていたことがあり、その経験が活きているらしい。
その横で、不知火と乙丸が不服そうな顔をしている。
「……薬草、また入れられなかった」
「いいんだよ、入れなくて!栄養も考えて作ってんだから必要ねえ」
「不知火、薬草持ってんの?」
「うん」
不知火は持っている薬草を見せてくれた。
「へえ、いいなこれ。味はともかく、栄養を手早く摂る分には役に立つだろ」
こういった類のものは、私が島でしていたような、食事をただ栄養を摂る行為として考えた場合に本領を発揮するだろう。
宿吏の料理にこれを入れるのは、さすがにまずい。
全く別の目的に特化した2つのものを混ぜ合わせて、いいとこ取りはできない。
「不知火の薬草は栄養面に特化したもので、味は考慮されない。だから、もし入れるなら体調悪い奴の飯に入れてやれ」
「そうする」
その時、その場にいた全員が「体調を崩さないようにしよう」と思ったことは、私は知らなかった。
薬草を褒められて嬉しそうな不知火に、乙丸は自分も嬉しそうに声をかけている。
それを見て、宿吏は少し苦い顔をしていた。
「2人はそんなに問題児なのか?」
「問題児っつーか、途中までならマトモな料理ができんのに、薬草入れやがったり調味料足しやがったりしてめちゃくちゃになんだよ」
「そういうことか。それは苦労するな、宿吏」
室星はおそらく、2人を止めることに対して積極的ではない。
宿吏1人で、2人を相手にしているのだろう。
そして2人には悪気がないとくれば、宿吏の苦労は手に取るようにわかる。
善意からの行動に対して怒鳴り散らすこともできず、突き放すこともできず、どうにか余計なことをさせないようにすること。
これはかなり至難の業だろう。
「グループは違うが、何か助けが必要だったらいつでも言えよ」
「……悪いな」
いつもは少食な私だが、宿吏の料理を完食し、お礼にと皿洗いを手伝った。