序章:合流
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正宗がノルンに乗って島を出て、数日。
私は島のセキュリティをかいくぐり、外へ出ることに成功した。
あらかじめ設定しておいた、乗船地点までは、自作のジェット機に乗った。
これは乗り捨て用。燃料が切れれば、自爆するように設計してある。
運転に気を取られ、あまり景色を見ることはできなかったが、島を抜け出せた時の爽快感といったらなかった。
私を縛っていたものが、全て解けていくような感覚があった。
ノルンへの乗船地は、更地を選択せざるをえない。
住民に見られて騒ぎになっても困るし、そもそも広い土地がなければノルンが着陸できないからだ。
だからこそ、私が乗ってきたコレが自爆しても、大丈夫なのだ。
「……」
私は黙って空を見つめる。
あと少しすれば、ノルンはここへ着陸する予定だ。
聞いたところによると、もうすでに10人の能力者が乗っているらしい。
例年の人数とは異なるが、これはアイオンの中にあったデータを確認していれば、おかしなことではないとわかる。
そして、ここに、加えて鈴原空汰が乗り込む予定だ。
ただ、アイオンが空汰を1人にするはずがない。
傍には能力者がいるはずだ。
そうなれば、船の中に能力者が11人いることになる。
最新のデータでは、それで数が合うことは確かだが、私の知る限り、宿吏と市ノ瀬以外で、能力を分散させた者はいなかったはずだ。
私はアイオンのメンテナンスを担当していたから、能力の譲渡など、何か動きがあればある程度わかる。
だが、別の能力についても分散させたという話は聞いたことがないし、そんな様子もなかったはず。
「!」
そう考えているうちに、ノルンの姿が徐々に近くなってくる。
着陸と同時に乗り込むと、不意に能力使用の気配がした。
「っ!」
間一髪ツタを避けると、今度は生身の人間が掴みかかってくる。
「ふっ!」
島の研究者の中でも武闘派の私なら、並の人間くらいは相手できる。
「うおっ」
掴みかかってきた腕をとり、背負い投げをかますと、男は呻き声を上げる。
「随分な出迎えだなァ?おい」
おそらく緑の能力者と思われる男は、少し焦った表情になる。
この様子を見るに、『世界』から情報のないこの船で、初めから事情を知っていた正宗は、「能力者は全部で9人だ」と言っていたのだろう。
それが仇となった。
正宗自身も、今回は例外的に能力者が多いことは知らなかった。
そんなところへ10人目が来た上に、さらに私が増えた。
そして、これからまだ増える。
不安になっても仕方がないし、このように警戒して対応するのも頷ける。
「とりあえず、正宗のところに案内してもらおうか」
正宗の名を出せば、2人の表情は一転する。
既に乗船している者の、しかも『世界』とのやりとりを行なっている正宗の知り合いともなれば、警戒を解くだろうと思った。
「あんた、遠矢の知り合いなのか」
「ああ。だから、正宗に会えば私が何者かわかるし、あんたらも安心できるだろ」
2人は顔を見合わせた後、私をノルンの中へ案内した。
会議室には、全部で9人集まっていた。1人足りない。
集まっている中でも、寝ている奴もいた。
「おう」
私が片手を軽く挙げると、正宗は口を開けたまま少しフリーズした。
「……はあ!?」
「あっはっは、最高のリアクションだなァ正宗」
「な、なんでアリサがここにいるんだ!?」
「なんでって、おかしなことを言う奴だな。この船に乗れたってことは、どういうことかわかるだろ?」
「まさか……」
正宗がどちらに解釈したのか。
私にも実は能力があったか、もしくは、研究者達の指示を受けて強引に乗り込んだか。
まあ後者だろう。
「少し、話をしようか。正宗」
「……わかった。みんな、少し待っていてくれ」
皆正宗を信用しているのか、素直に頷く。
私と共に外へ出る正宗を、訝しげに見る人間はいなかった。
「……説明してもらおうか」
「そうだな。実は───」
それから私は、アイオンとのことを話した。
そして、私がここへ来た目的、来ようと思った動機。
全て包み隠さず話した。
「正気か、アリサ?こんなことバレたらどうなるか……」
「宣戦布告はしてきた、基久にな。『あんたらの好きなようにさせてたまるか』って」
どんな結末が待っていたとしても、私はもうあの島にいるのはうんざりだった。
思惑通りに能力者達を動かそうとするおっさん達も、自然だらけのところに隠された機械達も。
本来あるはずだった文化の積み重ねを、これ以上ただ見ていることはできなかった。
この、生まれ損ねた文化、消されたはずの文化は、どんな生き物が作り出したのか。
データではなく、この目で見たかった。
最後のリセットが行われる前に。
リセットが行われた後のために。
「はあ……」
正宗は頭を抱える。
「定期連絡してるんだろ?私のことは好きに言えばいい。能力者と知り合った今、そう軽々しく私を連れ戻せないだろうからな」
目の前で連れ出せば、少なからず能力者に不信感を与え、場合によっては互いを能力者ではないのではないかと疑い、同士討ちに発展する。
1人になったところを連れ出せば、私は誰かに連れ出されたと、旅を中止しかねない。
『世界』に連れていかれたと説明すれば、既に述べたように不信感から同士討ちになりかねない。
今回が最後と思われるこの旅を、そのように中断することを、奴らは望まない。
「全部計算してるってことか……、つくづくアリサは上手い生き方をするな」
「正宗は苦労人だな、こういう奴がいるし、能力者をまとめるのも苦労してるんだろ」
正宗は何も言わず苦笑いした。