第三章:戦地へ
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それから数日。
私達は何度も街へ足を運び、久我や街の様子を伺った。
そして今日も、私は乙丸に「何かあったらすぐに伝えるように」と釘を刺し、また街へ向かった。
結賀とこはるは、最初の日以来、船に残るようになった。
街へ行くと、久我の顔色が昨日よりまた悪くなっている。
二条は心配そうにしていたが、あまり口は出せないらしい。
宿吏は久我を心配してご飯を作り、私は住人達の困り事に対処していた。
車が動かない、コンロが壊れた、電気がつかない、そういった機械関係のことなら、対処できる。
「はい。エンジンかけてみて」
「おお!助かったよ、ありがとう」
「今度はうちの洗濯機を見てくれ!」
「いいえ!次はうちのテレビよ!」
「待て待て、順番に行くからそう焦るな」
1つ終わればまた1つ、この街で機械の修理ができる人が少ないため、問題が山積みになっているようだ。
私があちらこちらへ走り回っていると、宿吏が昼ご飯を持ってきてくれた。
「忙しいみてえだな」
「ああ、宿吏か。……いい匂いがする」
「どうせ飯も食ってねえんだろ?ほら」
そう言って宿吏は弁当箱を差し出した。
「あら!そうだったのかい!?悪いことをしたねえ、今お茶を用意するよ」
住人達はそこまで気が回らなかったらしく、申し訳なさそうにお茶や甘い菓子を用意してくれる。
「ありがとう、悪いな」
「何が悪いもんですか!あんたのおかげで、みんな助かってるよ」
いや、悪い。
本来なら、『世界』が統一する世界でなければ、修理できる人間もきちんと存在したはずなのに。
妙に技術を進歩させたりするから、仕組みを理解して直せる人間が少なくなる。
これは、『世界』の人間として、私にも責任がある。
「……さて、続きだな」
それから私は、夕方頃まで街中を駆け回り、各家庭の家電や時には工場の機械の修理をして回った。
ようやく数が減ってきたその時。
『大変だ!』
乙丸の声が頭に響く。
『なんかよくわかんねえけど、変な奴らが船に───』
そこで声が途切れる。
まさか、結賀史狼が船に手を出したのか?!
「宿吏!」
「ああ!」
私は久我と二条には街に残るように言い、船に急いだ。
近づくほど、中から無数の気配があるのが感じられる。
「おい!無事か!?」
中に入れば、機械人形に囲まれる皆を見つけた。
空汰はこはると一緒だ。
結賀が懸命に能力で対抗してはいるが、厳しい。
やがて室星が「ここまでかな」と呟き、銃を取り出す。
「ロン、お前それ……!」
乙丸の驚く声に反して、室星は正確に人形に銃弾を叩き込む。
「くそっ!数が多いな……!」
宿吏は素手で殴りかかりながら、もう息が上がっている。
「空汰、無事か?」
「う、うん、僕は無事だけど……」
「ならいい。そのまま動くなよ」
「うん」
そう言って、私は薬の入ったケースを取り出す。
カプセルをひとつ飲み込めば、途端に体が疼き始める。
「……っく……!!けほっ、けほっ」
「!大丈夫か、東条!?お前、今何を───」
「っは、問題ない。敵に背を向けんなよ、宿吏」
私が手をかざせば、宿吏の背に結界が張られる。
「お前、それ……」
「話はあとだ。片をつけるぞ!」
私は空汰の周りに結界を張ったまま、敵の攻撃を防ぎつつ顔面に拳を叩き込む。
「室星!目を狙え!!この手の奴は目が弱点だ!!」
「へえ、そうなんだ」
弱点がわかると、それまで拮抗していた室星と人形は、圧倒的に室星が優勢になった。
室星の銃の腕は、かなりすごい。
粗方片付き始めたとき、不意の隙をついて人形の意識が結賀に向く。
結賀はかなり消耗し、座り込んでいた。
「駆くん!」
真っ先に駆け寄ったのは、こはるだった。
それまで能力を使うことを渋っていたこはるが、初めて能力を使う。
文明を燃やす、炎の能力だ。
「こはる……」
こはるの炎によって、残りの人形達も尽く倒される。
そうしてようやく敵がいなくなった頃、本体が現れた。
「久しぶりだね、こはる」
結賀史狼。
「旅人さん……?」
「父、さん……」
私も、宿吏も、皆消耗した最悪のタイミング。
室星は弾切れのようで、残念そうにしていた。
「……アリサ?アイオンの現責任者がこんなところにいていいのか?」
「うるせぇよ……」
「お前も随分無茶をする。その能力は評価するが、自分の身体を顧みないのは悪い癖だな」
「……人間やめてる奴に、言われたくないね」
喋るのもやっとのくせに、と結賀史狼は嘲笑う。
そして、皆が倒れ伏す中、悠々と結賀駆を連れ去ろうとする。
「こはる、おいで」
「だめ、こはる、行くな……!!」
「……っ」
どうしていいかわからず戸惑うこはるに、空汰が駆け寄る。
「……」
空汰がこはるの服の裾を引っ張ると、こはるは、いよいよ悩み込んでしまった。
「……そうか。あまり時間がないんだがな」
「!」
結賀史狼がこはるに触れかけた瞬間、何とか私の結界が間に合う。
「……仕方ない。また会おう、こはる」
そう言って結賀史狼は船を去って行った。