第二章:変わりゆく関係
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
宿吏のランニングが終わり、私は一度顔を洗ってから市ノ瀬の部屋に行った。
宿吏にも声をかけたが、「怖がられているから」と近くのベンチで待つことになった。
「おーい、市ノ瀬ー?いるだろー!」
ドンドンと扉を叩くと、中から物音がする。
何かにぶつかったような音と、小さく「ひぃ!」という悲鳴。
「だ、誰ですか」
「東条 アリサだ。挨拶だよ、挨拶。この間できなかっただろ」
扉越しに聞こえていた声の主は、ゆっくりと、少しだけ戸を開ける。
少しの隙間に手を入れ、力のままに開くと、市ノ瀬はビックリして後ずさった。
「な、何なんですかあなた……」
「東条 アリサだ。よろしくな、市ノ瀬千里」
「……」
市ノ瀬は後ずさったまま戻ってこない。
「おーい、」
「……あなたと、仲良くするつもりはありません」
「私だけか?」
「……皆さんです。どうせ、敵同士になるのに……」
これだな、正宗が言ってたやつは。
「何故そう思う?」
「それは………………話す必要はありません」
「私はあるんだよ。話してみたら、案外勘違いかもしれないだろ?」
「ありえないですよ。新聞に書いてあったんですから。……あっ」
「新聞、ね」
「……」
そんな記事が書いてある新聞なんか出回るはずがない。
そもそも能力者が集められ始めたことは、その周りにいるやつしか知らないはずだし、ましてやその目的なんて知る由もない。
正宗が言ってたことは事実みたいだな。
「その新聞、どこにある?」
「知りませんよ……僕は見ただけですから」
その後、見た場所を聞いたが、その場には何もなかったはず。
つまり、誰かが回収したか、誰かが捨てたか。
だが、市ノ瀬以外に騒いでるやつがいないことが妙だ。
つまり、市ノ瀬が見たことを確認して、内部犯が回収した可能性が高い。そしてそれは、もう燃やしたか何かで残っていないだろう。
「市ノ瀬、確かにあんたはそんな記事を見たんだろう。だが、それがフェイクの可能性はないか?」
「え?」
「嘘の記事だよ。考えてもみろ、そもそも殺し合いをさせようとしてんのに仲良くこの船に乗せてる時点でおかしいだろ」
「……それは……」
「情が生まれて戦場で役に立たなくなる可能性が高まるだけだ。デメリットしかない」
「……」
「敵対させることが目的なら、一緒に生活なんかさせないだろ」
市ノ瀬は、少し考え始める。
バカじゃなけりゃあ、わかるはずだ。
「なんだか、よくわかりません……」
「?」
「頭に、モヤがかかったみたいな……」
あー……と思い当たる。
この船で絶えず稼働している洗脳装置。
深く考えすぎて自爆しないように、過去の経験から施されたもの。
それが今、仇となっている。
冷静に深く考えられる環境の方を整えておかないと、こういう弊害が出るのか。
「そうか。それなら、考えるのはそこまでにしておけ。だが覚えていてほしい。ここにいる奴らは、必ずしも敵対する相手じゃない。今は内部犯がいるから信用できないだろうが、あんたが信じられると思った相手は信じろ」
そう言うと、市ノ瀬は小さく頷いた。
じゃあな、と頭を撫でると、市ノ瀬は最初ほど怯えてはいなかった。