螢
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「私も歳をとったわね…」
部屋を飛び回る小さな光に皺だらけの手を翳しながら、桜は呟いた。
西国を支配する犬妖怪一族の跡継ぎである彼と結ばれるにあたり人と妖怪の壁はいくつもあったが、良い従者達と出会い、子宝にも恵まれた。
毎日が幸せだった。
------------殺生丸さま、
私ちゃんと輝けていましたか…?
「眠れぬのか」
戸の方へ目をやると、あの時と同じように白い着物で身を包んだ殺生丸が佇んでいる。
近頃は目も不自由で、視界はぼんやりと霞んでいるのだが、その美しい白は紛れも無く彼のものだ。
彼はやがて枕元へ来て腰を下ろした。
「螢が、どこからか迷ってきたみたいで」
「…そうか」
「ふふ、覚えてらっしゃいますか?」
「あぁ」
「懐かしいですね」
「……あぁ」
「ありがとうございました、殺生丸さま。
私、殺生丸さまの隣で生きる事が出来て本当に…」
本当に良かった、と絞り出すように呟く。
「……綺麗だ」
「? あ、螢、綺麗ですよね」
「桜、お前の事だ」
「!」
そう言われるのはあまりに久々で。
年甲斐もなく顔が熱くなる。
「もう、こんなお婆ちゃんを揶揄うなんて…ひどいですよ」
はぐらかすように笑うと、その頬に殺生丸の手がそっと触れた。
「綺麗に、輝いていた」
「え?」
「礼を言いたいのは私の方だ」
「殺生丸さま……」
「だから、安心しろ。私もすぐに行く」
僅かに、ほんの僅かに頬に添えられた手が震えている気がした。
はっきりと見えない彼の顔が、今までとは違う表情を宿している気がした。
「殺生丸さま……」
---------私のために泣いてくださるのですね…
それでも旅立つ私を心配させまいと……
「私、幸せです」
桜は柔らかく微笑むと、瞼を下ろした。
深い眠りが彼女を誘っている。
先立つ事に不安を抱えた少女はもういない。
瞬く螢の光だけが二人を照らしていた。
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