花ひとひら
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どれほど飛んだのだろうか。
空はすっかり暗くなり、月や星が空を彩っている。
与えられた数々の暴力による後遺症と疲労に桜の意識は朦朧としていた。
着物越しの殺生丸の体温と鎧の冷たさがどこか心地いい。
彼の匂いすら、桜に安らぎを与えていた。
ふいに、何も口に出さずに空を駆けていた殺生丸が上空でその足を止める。
「殺生丸さま…?」
殺生丸の顔を見上げる。
殺生丸は顎でくいと下を見るように促した。
首を傾げ、足元を見る。
「!!」
桜はその景色に呆然とし、すぐに満面の笑みが浮かぶ。
地上は一面月明かりに光り輝く白と桃色のコントラスト。
風に乗っていくらかの白が舞い踊っていた。
夜桜だ。
---------まだこんなに桜が咲いてる場所があるなんて!!
暗い地上に浮かび上がるそれは、まるで神秘的な絨毯のようで。
「すごい!!とても綺麗です!!」
桜は食いかかるように殺生丸の顔を仰ぐ。
殺生丸は、子どものように瞳を輝かせる桜に一瞬目を見開き、そして視線を地上に落としながら口を開いた。
「りんから聞いた。桜は自分のために桜を取りに行ったのだと」
「あ……はい。ご迷惑をおかけしてしまって、すいませんでした…」
高揚していた顔がしゅんと項垂れる。
殺生丸はそれに介さず、言葉を紡いだ。
「きさまは弱い」
真っ直ぐでシンプルな言葉。
だからこそ、余計にその厳しい視線と共に深く刺さる。
「ごめんなさい……」
唇をぎゅっと噛む。
だけど、殺生丸の目から逃れられることは出来なかった。
「そして、きさまは女だ」
「……っ」
野党達の声や鼻を突く匂い、好奇の目が蘇る。
意図しなくても身体が震え出してしまう。
「ごめん、なさい…」
消え入りそうな声をやっとの事で絞り出す。
「桜」
ふいに名前を呼ばれ、身体を強く抱きしめられる。
全身に温かいものが溢れ、強張った全身が静かに落ち着いていくのが分かった。
その時。
さらり、と殺生丸の銀髪が視界の端で揺れる。
唇に温かい感覚。
ほんの数秒もない、優しい接吻。
顔をほんのりと上気させた桜の耳元で殺生丸の低い声が囁いた。
「誰にも渡さん」
顔を離した殺生丸は普段と何も変わらない。
「ーーーっ」
桜はとっさに殺生丸の胸元に顔をうずめた。
高鳴る心臓は鳴り止まない。
先程までの恐怖は嘘のように溶けていて。
「殺生丸さま、ずるいです…」
ふ、と殺生丸が笑ったような気がした。
夜風は相変わらずひんやりとするが、冬の凍てつくような寒さはもう感じられない。
昼間の温もりの名残か、身体が火照ったせいか、心無し暖かい夜風が髪に遊んだ。
「りんに花を持って帰るのだろう」
「はい!」
二人はゆっくり地上へ降りて行く。
桜の花が舞い上がり、星空に吸い込まれていった。
「ねぇ殺生丸さま」
「何だ」
「もしかして、ちょっと嫉妬ですか?」
「……くだらん」
「えっ、今、目逸らしましたよね」
「気のせいだ」
「気のせいじゃないですよー!」
「黙れ」
「ふふっ殺生丸さま大好きですっ」
「………」
-----------一枚の桜の花びらから大変な事にもなっちゃったけど、悪いことばかりじゃないな
そんな事さえ思えてしまう、幸せな気持ちで心が満ちていく。
夜桜と星空の幻想的な世界に包まれながら、二人はもう一度唇を重ね合うのだった。
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