花ひとひら
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---------私、何してるんだろう…
差し出された杯にとくとくと酒を流し込みながら、桜はぼんやりと思った。
大男と桜を取り囲むように他の野党達が騒いでいる。
桜の花びらが杯の水面にひらひらと舞い降りた。
男と酒の匂いがつんと鼻を突く。
頭痛がひどくなる一方だ。
-----------この桜を、りんちゃん達と見るはずだったのに…
唇をきゅっと噛み、溢れそうな涙を堪える。
脳裏に浮かぶのはただ一人の妖怪。
-------殺生丸さま…
もう日もだいぶ傾いている。
そろそろりん達のいる場所へ戻っているのだろうか。
少しでも、私の事を心配してくれているのだろうか。
---------なんて、ね……
その時。
「ほんじゃ、まあ、そろそろ本日の主食を頂くかのう!」
頭首である大男がパン、と手を打った。
「…?」
恐る恐る顔を上げると、周りの男が口元を緩ませながら桜を見ている。
背筋に寒いものを感じた瞬間、
大男に身体を押し倒された。
「!?やめて…っ」
抜け出そうとしても男の力に叶うはずもなく。
にやついた男の顔が近づいてくる。
他の野党達も顔を上気させて寄って来た。
「親分~俺にも少し分けてくださいよ」
「久々のいい女だなぁ」
--------そんな……嫌……… っ!
必死に抵抗しても、逆に男達は盛り上がっていく。
涙で霞む視界の中、自分を押さえる大男の後ろでは薄桃色の花が相変わらず咲き誇っていて。
桜はぎゅっと目を瞑った。
---------------------殺生丸さま
ドシュッ
急に身体の束縛から解放される。
目を開けると、男は横に崩れた。
たなびく銀髪。
切れ長の黄金の瞳。
-------あぁ…
「殺生丸さま!」
---------------来てくれたんだ
桜を背景に自分を見下ろす表情は読み取れない。
だが、彼が来てくれた事に桜の張り詰めた涙腺は途切れるのだった。
他の野党達は混乱の声を上げながら殺生丸に刃を向けるが、それらを睨みつける彼の妖気に一歩後ずさる。
殺生丸は片膝を付き、右手で桜の上体を抱き起こした。
「殺生丸さま……ごめんなさい…」
「…もう大丈夫だ」
桜は赤い目を見開き、殺生丸の顔を見上げる。
穏やかな瞳。
そこに彼の冷徹さや厳しさは全く無い。
普段は冷徹さや厳しさも兼ね備える彼の優しさに、桜はまた涙を零すのだった。
「お、親分の仇じゃーーっ」
周囲の野党達が二人に向かって駆け出す。
桜はびくっと身体を震わせ、殺生丸は眉を潜めた。
そして桜を抱える腕に力を込める。
「しっかり捕まっていろ」
殺生丸がそう言った途端、桜の頬を風が撫で、地面の感覚が消えた。
野党達が待て、逃げるな、と騒いでいる。
---------殺生丸さま、私を抱いてくれてるから刀が抜けないんだ…
安堵で全身の力が抜けていく中で、ぼんやりとそう思った。
殺生丸にしがみつく力だけは緩まないようにしながら、上空のひんやりと冷たい空気を深く吸い込んだ。
一番星が空に瞬いた。
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