第閑話 随従
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ばっかもーーーーーん!!!」
邪見の叫び声が木霊する。
桜とりんは両手で耳を塞いだ。
「心配かけよって!大体そんなに怖かったのなら、最初からこの邪見の後ろに隠れておけば良いじゃろうが!」
「小さすぎて隠れる所がないよ」
「うるさーーーーい!きさまに傷一つでもついたら、殺生丸さまに叱られるのはこのわしなんじゃ!!」
「どういうことだ」
「えっ……」
三人が振り返ると、待ち惚けていた主人の姿。
邪見の顔が引きつるのを他所に、りんが安堵の笑顔を広げ、その名を呼んだ。
「殺生丸さまっ!」
----------まずい、この状態では桜の具合が悪いように見えてしまう…そしたらわしは……
我が保身についてぐるぐると思慮を巡らせる邪見には目もくれず、殺生丸は桜の側で片膝をつく。
----------あぁあぁ、殺生丸さまともあろう御方が人間の小娘のために跪くなんて……
冷や汗をかきながら、以前は想像もつかなかった主人の姿を見つめた。
人間など虫けら同然に見下していた彼は、いつの間にか、全ての人間にとは言わずとも多少寛容になった。
旅に付いて回る二人の娘には特に───本人は頑なに認めようとしないだろうが。
-----------それにしても、桜の奴め……
殺生丸の視線の先にいる桜を見遣る。
しどろもどろに、時折りんに言葉を付け加えてもらいながら、事の次第を説明する桜。
頬をほんのり赤く染めた彼女の姿はすっかり年頃の娘のものだった。
-----------…まぁ、偉大なる殺生丸さまに惚れてしまうのは仕方ない。わしだって、もし女子だったら……
しかーし!!
殺生丸さまはいずれ西国を支配する御方。
その伴侶に値するは、相応の大妖怪の娘であるのは当然のこと。
さらに強さと気品、知性を兼ね備え、殺生丸さまを立てる奥ゆかしさも必要じゃ。
それでも殺生丸さまに相応しい者がいるか分からぬのに……
人間の小娘など、殺生丸さまに釣り合うはずもないのじゃ!
だが────
今度は、どこで手に入れたのか人間の菓子の入った包みをりんに手渡し、すっかり腰を抜かした桜を抱き上げる主人の姿を見た。
桜はいよいよ顔を上気させ、身体をよじり、その腕から逃れようとする。
けれども、何事かを耳打ちされると、身体を強張らせたまま大人しくなった。
そんな桜を見つめる主人の横顔は、柔らかく。
------------肝心の殺生丸さまも、満更ではなさそうなんじゃよなぁ…
わしも、あんな優しい目で見つめられたい───っと、そうではなくて!
「はぁーーー」
深く、溜息を吐いた。
----------これ以上考えるのはよそう。
そもそも、殺生丸さまがわしの諫言など聞いた試しもないのじゃから……
わしは、ただ殺生丸さまに随従するのみ。
やれやれ、と首を振って、小さな従者は主人の元へ駆けて行く。
心労の尽きない彼が足蹴にされるまで、あと少し───────
.
2/2ページ