第十二章 由来
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「あ、あなたが刀念さん…?」
思わず震える身体を諫めながら、桜はゆっくりと尋ねる。
すると、どこか痛々しげな声が再び返ってきた。
『いかにも。…そなたのような人の娘が闇桜を扱うのは辛い事だったろう』
答えあぐねている間にもその声は続く。
『我にそなたを救う手立てはないが、今まで口を閉ざしてきた闇桜の由縁を語る義務が我にはあるだろう。聞いて貰えるか』
「っ、お願いします!」
しっかりと、強く返事をする。
それに安心したかのように、その声は語り始めた。
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我が十六夜と出会ったのは、十六夜が闘牙王殿に娶られる数年前だった。
相当の身分の娘だったろうに、ある日突然我の住処へとやって来たのだ。
《こんな所に鍛冶屋さんがあったなんて》
《え?…だって、貴方は悪い妖怪じゃないでしょう?》
《ふふ、分かりますよ。ここの刀はとても綺麗だもの》
《また来ても良いですか?》
花のように美しい娘だった。
十六夜はそれから何度も我の元を訪れ、我の打った刀を飽きもせず眺めていた。
また、我らは色々な世間話もした。
我が刀を打つのを眺めながら、十六夜は人間の世界のあれこれを語ってみせた。
そうして打った刀は評判が上がり、我も以前より名が知られるようになっていた。
我はいつしか十六夜に惹かれていた。
だが所詮は人間と妖怪。
越えられない壁があると諦めていた。
だから十六夜から闘牙王殿と祝言を挙げる事になったと聞いた時は言葉を失ったが…
それでも十六夜が幸せなら良しと思い、我は祝福した。
祝言から間もなく、闘牙王殿より刀を打つよう命じられた。
大方、十六夜の口添えだろうとは思ったが、西国を支配する大妖怪の刀を打てるというのは名誉な事だ。
我はその話を引き受けた。
闇桜……と今では呼ばれるようになってしまったが、それは元々闘牙王殿が十六夜さまを守る為の刀であり、刀を打つ事は、我が十六夜にしてやれる唯一の事だろうとも思えた。
しかし、闘牙王殿の牙と大桜の花を受け取りに、闘牙王殿の屋敷へ参上した時、十六夜もまた話の席に着いていて、そこで私は思い知らされたのだ。
十六夜の闘牙王殿へ向ける微笑みが、これまで我に見せていたものとは違うこと。
闘牙王殿が誰よりも深く十六夜を想い、大切にしておられたこと。
二人の間に我の入り込む余地などは無かったのだ。
我が刀を打つということなど、闘牙王殿が十六夜にしてやっていることに比べたら、十六夜の元に届きそうもない程瑣末なことだったのだ。
その後の記憶は曖昧で、気付くと家の炉の前に座っていた。
目の前には受け取った牙と花、そして水晶のように輝く玉が置いてあった。
その玉は四魂の玉といい、大桜と縁の深いものだからと何処からか闘牙王殿が手に入れた物だった。
闘牙王殿は我を信頼して、持つ物によって善にも悪にも染まるというその玉を我に預けたのだ。
だが……情けなくも、闘牙王殿への嫉妬に身を焦がし、十六夜を失った悲しみに溺れた我の心は、その玉を汚すのに十分だった。
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