第十一章 覚悟
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「……ん…」
----------あ…私、気を失って…
「桜ちゃん!」
視界に飛び込んだりんの顔が綻ぶ。
「りんちゃん、ここは…?」
辺りは林の中のようで、桜は木の根元に寝かされていた。
「白霊山から少し離れた所だよ。
桔梗さまが四魂のかけらを浄化してくれたから、もう大丈夫だろうって。
でも…完全には浄化出来なかったって言ってた」
「そっか…今度会ったらお礼言わなきゃ」
身を起こしながら、そっと額に手を当てる。
----------かごめちゃんに浄化してもらった時もそうだったな…
「今、邪見さまと小鈴ちゃんが薬草取りに行ってるから待っててね」
「うん…」
「そして、これ…闇桜」
「あっ、納める前に私倒れちゃったんだ。ありがとう」
漆黒の刀を受け取り、左手に刺す。
いつものように、痛みを感じる前に刀は姿を消した。
そのまま左手を空にかざし、じっと見つめる。
身体が気怠いのは肉体的な疲労のせいか、それとも精神的な疲労のせいか。
---------私、本当に人を斬っちゃった…
「桜ちゃん…睡骨さまのこと、気にしてるの?」
「…ちょっとね」
「桜ちゃんのおかげで…りんは助かったんだよ」
「うん……」
---------間違っていたとは思わない。
それは、この弱肉強食の世界では仕方のない事だから。
-------------けれど、この胸のもやもやは何なんだろう──…
サク…
草を踏みしめる音に目を向ける。
「殺生丸さま!」
--------私も殺生丸さまみたいに
躊躇なく敵を殺すようになるのかな……
「りん、邪見さま達の様子見てくるね!」
気を利かせてか、りんは林の中へ駆けていく。
殺生丸は立ち上がろうとする桜を制すと、その隣に腰を下ろした。
おずおずと殺生丸の横顔を見上げる。
もう何度も見上げた横顔。
綺麗に整っているのに相変わらず表情は無く、何を考えているのかも読み取れない。
でもその中に優しさと冷酷さを持ち合わせていることを知っている。
桜は自分の足元を見つめ、溜息を吐いた。
「迷っているのか」
「……えっと…」
迷っているのだろうか。
闇桜で闘うと決めたのは確かなのに。
「…分かりません」
「そうか」
涼しいそよ風が吹いている。
桜は背中を丸め、膝に顔を埋めた。
「刀は…斬る感触が直に手に残るから…」
嫌だなぁ…と小さく呟く。
愚痴だと分かっていても、胸にとぐろを巻いた思いは消えなくて。
---------奈落の触手相手の時は躊躇わずに斬ることが出来た。
私を襲ってきた妖怪も…
---------でも、
人の形をしているものを斬ると
私が私のままでいられなくなりそうで───
人を斬る躊躇いを失ってしまうと
人間として大切なものまで失くしそうで───
----------私はその事に怯えていたんだ。
そんな桜の思いを知ってか知らずか、殺生丸は口を開いた。
「貴様は私の刀だと言ったはずだ」
「はい」
「貴様は私の代わりにりんを護った」
「…はい」
「だが、それは私の為ではなかったはずだ」
殺生丸の言う通り、桜はりんを救うために無我夢中で刀を振るった。
相手が人であることに厭う間も無く。
「貴様が貴様のままでいる限り、貴様は使える刀だという事だ」
「…?」
言葉の意図を汲み取りきれず、桜は殺生丸の顔を覗き見た。
「己を信じて、斬るものを自分で決めろ」
顔は正面を見据えたまま、琥珀色の瞳だけが桜を捉える。
「案じなくとも私の刀として使えんと思った時は、私が貴様を斬り捨てる」
---------それは、
私が私じゃ無くなった時は
殺生丸さまが止めてくれるという事───?
遠回りな言葉の真意を正しく読み取れたかは不安だけれど。
きっと、そういう事なのだろう。
---------殺生丸さまはそういう人だもんね。
冷たいのに優しくて、短い言葉なのに意味する事はいつも深くて。
「ありがとうございます、殺生丸さま」
----------私も勇気を出そう。
殺生丸さまがいてくれるから大丈夫。
「私、いつも殺生丸さまに励まされてますね」
茶化すようにそう言い、微笑む桜を一瞥すると殺生丸はそっぽを向いた。
「刀の手入れに過ぎん」
「ふふ…っ殺生丸さまの刀は幸せですね」
---------そのおかげで私は今までやって来れた。
殺生丸はフン、と鼻を鳴らして立ち上がる。
「白霊山の様子が変わった…その足、治しておけ」
「はい。お気をつけて…」
殺生丸は長い銀髪を風に遊ばせながら歩き出す。
「殺生丸さま!」
「…なんだ」
「あ、あの、行ってらっしゃい…です」
「……行ってくる」
殺生丸を見送りながら、桜は笑みを零した。
その心に確かな覚悟を灯して────
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