血も出ない。



それは骨と墓土で出来たという身体のせいなのか。


ただドサッと音を立てて、右腕の肘から先が落ちた。





「桜ちゃん！？」




睡骨から解放されたりんは刀を握り締める桜を見て驚愕する。



---------私、人の腕を…っ



「女……きさま………！」



膝がガクガクと震える。

罪悪感と恐怖に襲われ、立っていることもままならない。



-----------りんちゃんを…りんちゃんを守るんだ……




「この─────っ」



睡骨が桜に襲いかかる。



-----------目を逸らすな



足の痛みはもう気にならなかった。




----------殺らなきゃ殺られる！





身を捌いて、胴を斬る。


そして再び斬りかかるも、素手で刀を掴まれた。



「───っ！」


「この程度ではかすり傷だ」



直後、鳩尾に蹴りを入れられ、身体が宙を舞う。





が、地面に叩きつけられる前に後ろから支えられた。




「ゴホッ……殺…生丸さま…」





刹那。



すぐ横を何かが掠め、




ドスッ………




目の前の睡骨の喉元に矢が突き刺さった。






振り返ると、馬に乗った巫女姿の女が弓を構えている。



----------あの人は…？



その女は馬から降りると、弓を杖にしつつ、おぼつかない足取りで睡骨の元へ向かった。


「殺生丸さま、桜ちゃん！」


りんが駆け寄ってくる。


「りんちゃんっ」


桜はりんを抱きしめると、睡骨の方を見守る。




「桔梗…さま…」



そう言葉を発した睡骨の表情は先程より穏やかで。


-----------さっきの人と別人みたい…


「あの人の中には多分二つの人がいると思うの。
一人は怖い人だけど、もう一人はきっと…もっと優しい人……」


そう、りんが囁く。


「桔梗さま…、私の首の…四魂のかけらを取ってください。それで私は骨に返る…」

「死を…選ぶと？」

「やっと思い出した。私は一度死んでいる。
前に生きていた時も…もうひとりの私、七人隊の睡骨はたくさん人を殺した…。
私は…どうすることもできなかった」


その場にいる全員が静かに睡骨の言葉に耳を傾けていた。


「同じことを繰り返すのはもう…耐えられない」


そして桜とりんの方を見る。


「りん…怖がらせてしまったね…

そして娘さま、貴女は…人に手を下すのは初めてだったのでは？
辛い思いをさせてしまって…申し訳ない…」



返す言葉が見つからない。



--------可哀想な人…



ただ漠然とそんな風に思った。



「頼む…桔梗さま。かけらを取って…私の魂を救ってほしい…」

「睡骨さま…」



桔梗が震える手を睡骨の喉元へ近付けたその時。



刀が地を這い、睡骨の首元を掻き切った。



「！！」



見ると、少し離れた所で蛇骨が刀を収め、左手に四魂のかけらを手にしている。


「ふっ…形見がわりにもらってくぜ」


そう言って蛇骨は霧の中に去って行った。






四魂のかけらを失った睡骨の身体は砂のように崩れ去り、残ったのは身に纏っていた着物と鎧と、骨。



----------終わった…のね……



その骨に驚く気力もなく、地面にへたり込んでしまった。

視界が霞み、頭がよく働かない。


「桜ちゃん！」

「桜さま！」


りんが桜の身体を支え、小鈴が飛んでくる。

邪見もよろよろと近寄ってきた。


「桜ちゃんの身体、熱い…！」


桔梗がやや険しい面持ちで桜の顔を覗き込む。


「この娘…桜とやらは何故四魂のかけらを…？」

「奈落が桜さまを操ろうと仕込んだものです。
白霊山の中で大量の瘴気に汚されてしまって…」

「大方、身体の方が耐えきれなくなってしまったのだろう。今、浄化する」


桔梗が桜の額に手をかざす。





----------あ…思い出した…



---------桔梗って、犬夜叉を封印した巫女さんだ……




それを最後に、桜の意識は途絶えた。













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