第十章 白霊山
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洞窟の中はひんやりと冷たかった。
暗がりの中を琥珀は迷いなく進んでいく。
桜はきょろきょろと辺りを見渡した。
----------別段変わったところは見受けられないけど…
ゴォォ…と地を這うようなうなりが聞こえてくる。
先方の闇もまるで蠢めいているようだ。
------------なんだか気味が悪いな。
琥珀は岩壁の裂け目を確認すると、桜を手招きした。
「先に入れ」
「う、うん」
桜は恐る恐るその狭い岩の隙間に身を滑り込ませる。
-----------なかなかきつい…よいしょっ、と。
やっとのことで広い空間に出る。
そこで桜は目を疑った。
----------ここ、山の内部のはずだよね?
そこは例えるなら体の内部のような、岩ではなく肉壁のようなもので包まれた場所だった。
それだけではなく。
------------気持ち悪っ…
赤子の形をした、しかしまるで出来損ないの人形のようなものが床一面を埋めている。
「ねえ、琥珀くん…」
急いで来た道を戻ろうとするが岩の裂け目から出られることはなく、冷ややかな岩があるだけだ。
-----------まさか閉じ込められた!?
「ちょっとーーっ!!!!」
岩を叩いてみるも、びくともしない。
---------どうしよう……
「桜さま!」
「ひゃあっ」
ふいに耳元で声が聞こえ、桜の身体が跳ねた。
「小鈴ですよ」
「びっくりしたぁ…」
肩に乗った雀を見て、ほーっと溜息をつく。
そして、先程出た空間に戻った。
「気持ち悪い空間ですね。
それに、この肉壁……これ、奈落のものですよ」
そう言いながら、小鈴は煙を立てて少女の姿になる。
「奈落の?」
そういえば、と記憶を手繰り寄せてみる。
以前奈落が襲ってきた時の肉塊のような触手、そして殺生丸や犬夜叉と闘っていた時にも。
------------あの時の肉塊とこの壁、たしかに似てる……
「恐らく白霊山の聖なる結界は奈落が身を隠すために何者かに張らせたもの…
そして桜さまを白霊山の内部へ連れてきたのは、その結界で桜さまの額の四魂のかけらが清められてしまわないようにするため…」
「かけらを汚して、私を操りやすくするのね?」
「はい。勾玉がある程度それを防ぐとは思うのですが…」
「ご名答」
「!?」
突然、桜のすぐ側の肉塊の一部がボコボコと変形し出す。
桜は咄嗟に後ずさりし、小鈴は桜を守るように立ちはだかった。
「一人だと思っていたが…
余計な奴が付いてきてしまったようだな」
やがて、そこに男の顔が浮き出てきた。
声は憎々しげだが、その顔に表情はない。
「奈落……!?」
その顔は、確かに以前遠目に見た奈落の顔だ。
「桜さま、落ち着いて。本体ではありません」
「ふっ…だが、ここは最早わしの体内」
刹那。
ドクン………
まるで鼓動のような音を立てて、空間全体が脈打つ。
「きゃ…」
桜は思わず、よろけて膝をついた。
----------この空間……本当に生き物みたい……っ
周囲の肉壁から液体が染み出し、蒸発していく。
「次は何!?」
「瘴気、毒です!」
「クク…わしの狙いは分かっただろう。
そして、その勾玉とやらの守護が邪魔な事も」
「っ、桜さま気をつけて!」
「ええ!?」
考える間もなく肉壁が触手に変わるが否や、桜に襲いかかった。
「きゃああっ」
間一髪で避けるも、次々と新たな触手が生えてくる。
「桜さま、逃げますよ!!」
小鈴が桜の服を掴むと、二人とも宙高く浮いた。
「わわわわっ」
「落ち着いて、地上にいると思って!」
下からも上からも触手が追ってきては、桜に触れる前に弾けて消えていく。
桜はなんとか平衡感覚を掴むと、小鈴に縋った。
「どうなってるの?!」
「どうやらこの辺りは奈落の内部のようです。
そして、今の奴の狙いは…」
桜は胸元の勾玉をぎゅ、と握り締める。
「これを壊そうってこと?」
「はい……今は結界が働いていますが、壁から滲み出ている瘴気は確実に四魂のかけらを汚しています」
「かけらの汚れは闇桜に力を与える……長くは持たないかもってことね」
触手は尽きることなく伸びている。
心なしか、空気も淀んできているようだ。
「桜さま、私が誘導します。
結界が働いているうちに闇桜を使いましょう!」
-----------確かにこのままじゃいつか捕まっちゃう…
「分かったっ!!」
-----------闇桜を使いこなす練習にしてはハードすぎるけど、
帯刀する構えを示し、一気に右手を引き抜く。
----------------やってみるしかない!
その手に漆黒の刀がしっかりと握られた。
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