第閑話 笑顔
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その晩。
草木も眠り、邪見のいびきが盛大に響く頃。
「殺生丸さま」
「…寝たのではなかったのか」
満天の星空の下、再び桜が訪れてきた。
「えっと、やっぱり少し心配で……」
おずおずと言葉を手繰る桜を見て、殺生丸は鼻を鳴らす。
「この殺生丸も見くびられたものだ」
「ちがっ、そんな事ないです!殺生丸さまは強すぎます!」
桜は慌てて手を降り、だからこそ、と付け加えた。
「だからこそ、心配です」
つ、と殺生丸は目を細める。
----------りんも、同じ顔をしていた。
りんと初めて出会った時、殺生丸は犬夜叉との闘いで負った傷のせいで体を動かせずにいた。
その時の、殺生丸を看病するりんの顔と桜の顔が重なる。
----------やはり、人間は解せぬ。
だが、不快でないのは何故なのか。
「桜」
「はい」
「もう寝ろ」
「でも、」
「夜が明けたら白霊山まで飛ぶ。
何かが、起こっている」
「!」
桜の顔が一気に引き締まる。
白霊山とは、現在一行が向かっている地だ。
奈落がそこにいるかもしれないという情報を得たのである。
「白霊山は聖なる山…妖怪の類はその山に入るとたちまち浄化されてしまうと聞く」
「それじゃ、殺生丸さまは……」
「私の心配より、自分の心配をすることだ」
「…はい」
桜は拳を握り、目を伏せた。
星の声が聞こえそうなほど静かな時間が流れる。
覚悟を決めるように唇を噛み締める桜の姿は、心なしかいつもより小さく見える。
----------闇桜の闇、というのはそれほどのものなのか…
身も心も、か弱くて儚い存在。
---------放っておけば良いものを。
「せ、殺生丸さま?!」
殺生丸は腰を上げ、右手で優しく桜の頬を包んだ。
桜は顔を赤らめて、口をぱくぱくと動かしている。
----------触れたくなるのは何故なのだろうな。
「大丈夫だ」
そう言うと、桜はしばし目を丸くし、
「私、殺生丸さまの刀ですもんね」
ふわりと笑う。
「精一杯頑張ります」
その微笑みは柔らかく、花が咲いたようなもので。
----------不思議なものだ。
こちらまで緩んでしまう。
「!?殺生丸さま、今、笑っ…」
「早く寝ろ」
「は、はい…お、おやすみなさいっ」
一礼し、寝床へ戻る桜の耳は真っ赤だった。
それを訝しげに思いながら、殺生丸は再び腰を下ろし、空を見上げる。
『人間か妖怪、そういう問題じゃないのだ、殺生丸』
---------父上。
あれは、父上が人間の女、犬夜叉の母と契りを交わす事を決めた日だったか。
『想いの丈に変わりはないのだから』
『それに、殺生丸よ。
人間の女は、綺麗に笑うのだ』
-----------皮肉なものだ。
尊敬している父の、唯一軽蔑していたところ。
西国を支配する大妖怪が人間ごときに心を動かされるなど恥だと。
ずっと、そう思ってきた。
-------------本当に受け継ぎたかった刀は得られずに、
-----------このような事を受け継いでしまうとは。
「だが、悪くはない」
幾千もの星が輝く夜空へと、
そんな呟きが静かに溶けていった。
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