第二章 存在意義
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
大木の下で立ち止まり、りんと邪見が寝ている方とは反対の方向を見つめる殺生丸。
桜もそれに倣った。
---------こうやってちゃんと二人になるのは初めて、かな。
出会った時は私が脅されてただけだったし。
少し気恥ずかしげな桜に殺生丸は言葉を紡ぎだす。
「闇桜を出せるか」
「あ……」
自分の中にあるだろう、闇桜を思い出す。
先刻は刀々斎に言われて体内にしまった。
しかし、出し方は学んでいなかったのだ。
「すいません、分かりません」
殺生丸の瞳を見ると、相変わらず鋭くて。
すぐに目を逸らした。
「剣術を心得ているのか」
先程と変わらない調子で殺生丸は問う。
桜は剣道部で、それ以前にも小学生の頃から剣道は続けていた。
「一応…でも、命の奪い合いとかはした事無いです」
あったら怖いよね、と内心思いつつ、恐る恐る殺生丸を見上げた。
「なら抜刀する振りをしてみろ」
「はい」
少しの戸惑いはあったが、きっと殺生丸にも考えがあるのだろう。
---------もう今更何が起こっても驚かないもんね…多分。
桜は左手を左腰の隣で鞘を握る振りをし、右手を刀を抜くように動かした。
「───あっ!」
右手にあったのは、黒い刀。
まぎれも無く、闇桜だった。
「出せましたっ!」
思わず笑顔になって、殺生丸を見る。
----------魔法みたい!
再び体験する摩訶不思議に少し面白みを感じ、顔も綻ぶ。
殺生丸は一瞬目を見開いたが、すぐ元の表情に戻った。
「貸せ」
桜は殺生丸に刀を渡そうとした。
が。
バチッッッ
刀に触れようとした殺生丸の手を閃光が襲った。
驚いて殺生丸を見ると、殺生丸の手は少し黒く、火傷を負っている。
「だ、大丈夫ですか?!」
「構わん……結界だ」
「けっかい?」
「守りの力だ。この刀は貴様にしか使われて欲しくないらしい」
「…はぁ」
----------ということは私が使うしかないってこと?
「私がその刀を使えない今、桜、貴様が私の刀となれ」
「………刀?」
「私の為に闘い、目的を成し遂げろ」
「だ、だけど、私にそれ程の力は……」
「ただの人間でも、闇桜なら話は別だ」
刀とは武士にとって命のようなもの。
それくらい、剣道を心得る桜には分かっていた。
だからこそ、妖怪である殺生丸をしのぐ価値を自分に見出せないのだ。
-----------そんなに闇桜ってすごい刀なのかな
「…分かりました」
桜は頷く。
だが、その胸中は穏やかなものではなかった。
---------------ここでも、誰かに敷かれたレールの上なのかな…
「もう良い、早く寝ろ」
「はい…失礼します」
闇桜を戻し、寝床へ戻ろうとしたとき。
「桜」
低い声で名を呼ばれた。
「はい」
振り返って返事をする。
「私の刀となる事、それがお前の存在意義だ。
役目を全うして…他は笑ってでもいろ」
----------えっと………これは励ましの言葉と受け取って良いのかな?
一瞬ぽかんとした桜だったが、無愛想な殺生丸の優しさを見た気がして、自然と肩の力が抜けていくのが分かった。
同時に頬も緩んでくる。
「ありがとうございますっ」
---------たしかに、今は他に選択肢があるわけでもないし、それでも良いよね。
こんな風に前向きになれるのはいつ振りだろうか。
---------あとは笑ってでもいろ、だって。
そんなこと、初めて言われたよ。
桜はくすっともう一度笑う。
そしておやすみなさい、と微笑んで寝床へ向かった。
その心はいつの間にか少し軽くなっている気がした。
殺生丸は再び一人で夜空を見上げていた。
消そうと思っても、脳裏には桜の笑顔が残っている。
----------何がおかしいのだ。
弱い心で足手まといになられるのが煩わしいから、ああ言ったまで。
しかし、闇桜を出した時に向けられた笑顔が忘れられなかったのも事実。
考えるのをやめよう、と殺生丸は静かに目を閉じたのだった。
.
5/5ページ