(※全小説共通です)
第2章 花束を君に
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「・・・その時に夢の中で兄貴と会ったんスよ。今にしてみると、俺、あの時死にかけてたのかなって思うんスけどね」
片付けの後で手を洗ってバックヤードから戻ってくると、お花があらかた売り切れてすっかりがらんとなった売り場のなかで、億泰君が何やらfirst nameさんに話しかけているところだった。
「えっ、そんな大怪我をしたんですか!?交通事故とかですか!?もう大丈夫?」
「みたいなモンっす。もうすっかり元気っスよお~~っ!」びっくりして心配そうにたずねたfirst nameさんを安心させるように、億泰君はニカッと笑ってガッツポーズをしてみせた。「場所はスゲー真っ白な感じのところで、霧がたくさん出てて、川があって・・・・・・そこにああいう菊の花?がいっぱい咲いてた気がするんスよ~~。もしかすると、あれって三途の川だったのかなぁ~って、振り返ってみるとそんな気がしたりして。なんか、実はそーゆーもんなんすかね~?そう、例えるならば、『賽の河原には、石ころがそこらじゅうに落ちてるのが普通』みてーに、三途の川の川べりには、ああいう真っ白い菊の花がいっぱい咲いてるもんなんすかね~?」
「え、あ、え~~っと・・・・・・そう・・・・・・なのかな・・・?」
「ばっか、オメー億泰、変な質問すんのやめろよなあ~~っ。first nameさん困ってるじゃねーか」スウェットのポケットに手をつっこんだまま、ふたりの会話を聞いていた仗助君が言った。「いくらfirst nameさんがプロの花屋さんつってもよお、そんなの答えられるわけねーじゃねーかよ~~っ」
「はッ!!すッ、スイマセンッ!!」
「いえいえ・・・あ、でも、虹村君みたいに、ご故人様と一緒に見た思い出のお花を、お墓参りやお仏壇用に選ぶお客さんはたくさんいますよ!その人のイメージに合わせて選ぶ方も多いです。素敵なことだと思いますよ」と、first nameさんはニコニコしている。
「へえ~~~っ、そうなんスね~~~っ!」
素敵と言われたのが嬉しかったのだろう、熱心に身を乗り出してfirst nameさんの話を聞いている億泰君に「じゃあ、あいつのイメージは何だろうな?」と、仗助君がたずねた。「やっぱり虫か?」
「おお、そうだな」と億泰君は言った。「あの・・・first nameさん、何か黄色い、虫みてーな花ってありますかね?」
「む、虫ですか!?」
「そうっス、とにかくウジャウジャいっぱい虫が集まってる感じの・・・ちょうどオオスズメバチの大群みてーな・・・」と、億泰君。
「え~~、う~~ん、そうですねえ・・・・・・じゃ、じゃあ、ミモザなんかはどうでしょう?」意味不明すぎるリクエストにだいぶ困惑した表情を浮かべながらも、first nameさんは近くのバケツの中に何本か、かろうじて残っていた生花をとりだした。どことなく菜の花を彷彿とさせる、こまごまとした黄色い粒状の花をびっしり咲かせた切り花だ。「あんまり虫って感じはしないけど、「黄色」で「たくさん」ってキーワードで選んでみたんですが、いかがでしょうか・・・?」
first nameさんが心配そうに差し出したそのミモザの花を見たとたん、仗助君と億泰君は大笑い、そして大喜びで「スゲー!まさに重ちーっ!」「まさに
「あっ、あのっ、あたしもぜひ、first nameさんに花束お願いしたいです!」そばで話を聞いていた由花子さんがfirst nameさんに言った。
「花言葉が『魔法使い』とか、そんな意味のお花が、もしあれば・・・もちろん、なければfirst nameさんおすすめのキレイなお花ならなんでもいいんですけど・・・ちなみにお供えしたいのは、お世話になった女の人なんです・・・」
「そうなんですね、あ、ちょうど今、良さそうなお花がありますよ!」と、first nameさんは由花子さんに答え、バックヤードから小走りで切り花を何本かとってきてくれた。「カトレアのお花なんですけど、魔法使いの花言葉の他にも、大人のきれいなお姉さんとか、そういう意味合いもあるんです。これも、お世話になった女性に贈るにはぴったりのお花だと思いますよ♪」
「わ~!ほんとに彩先生って感じだ!」あざやかなピンクと白の花弁のなかに黄色い花芯をのぞかせた、いかにもゴージャスな印象のその花を見て、ぼくは思わず声をあげた。「本当ね!」由花子さんも嬉しそうに叫んだ。「first nameさん、ぜひ、これでお願いしたいです!」