(※全小説共通です)
第2章 花束を君に
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時間を忘れるほど濃密に、忙しくお盆の日々は過ぎていった。
杜王町で最も歴史が古く、最も大規模でもあるこの霊園には、それこそS市じゅうの人が総出でおしよせてきたんじゃないかと思うほど、連日大勢の墓参客がつめかけた。
犬のポリスを車にのせて、ぼくの家族もみんなやってきたし、ぶどうが丘高のぼくたちと同学年の生徒はだいたい全員見かけたんじゃないかと思う。(女の子達はもちろん、みんなここぞとばかりに仗助君と話したがり、黄色い声をあげて駆け寄ってきて仗助君に挨拶をしていた。)
入学式の日に仗助君の髪型を「アトムみてーな頭」と煽ってしまった結果、【クレイジー・ダイヤモンド】で鼻を変形させられてしまった先輩もいたし、間田さんもやってきた。(もっとも彼らは仗助君の姿を一目見るなり、「ひいッ!」という表情になってコソコソと逃げて行ったので、挨拶を交わす機会はなかったけれど。)
ご先祖様への敬意なんてひとかけらも持ち合わせていなさそうな車田正美さえ、派手な開襟シャツにサンダルばきで、それでもきちんとお墓参りには訪れた。
S市のとなりのT市から、億泰君のおじさんとおばさんもやってきた。(なんでも、億泰君がまだ小さい頃に亡くなったお母さんは、2人の末の妹なのだそうだ。)
この春に、お兄さんまで亡くしてしまった億泰君のことをおじさん達はいつもとても心配してくれていたそうで、それを聞いた億泰君は嬉しさで目にじわりと涙をにじませながら、ケヤキの木陰でこれまでのことを2人に色々話していた。(お父さんは事情で人には会えないけれど、元気で一緒に暮らしていること、ペットもいるからさみしくないこと・・・それに何より仗助君という、無二の親友ができたこと。)それから、first nameさんに頼んで作ってもらった特大の真っ白な花束を持って、3人で形兆さんのお墓参りをしに行った。
しばらくして戻ってきた億泰君の頬にはまた、少し泣いたようなあとがあったけれど、その顔つきは晴ればれとして明るく、S駅行きのバスに乗り込むおじさん達に満面の笑みで手を振っていた。
そして、8月16日の16時。
バックヤードに少しの在庫を残し、即売用の花束と店内の切り花はほとんどすべて売り切れとなり、【R】は霊園の閉門よりも1時間早くその日の営業を終了した。
ぼくたちはまた、5人一緒に新しいポーズで記念写真を撮り、それを後日、由花子さんが全員分焼き増しして、ぼくたち一人一人にプレゼントしてくれた。
写真を受け取ったfirst nameさんはとても喜び、それを木製のフレームに入れて、レジカウンターの奥の壁に大切に飾った。位置はfirst nameさんのおじいさんとおばあさんの写真のすぐ隣で、今も変わらずにそこにかかっている。