(※全小説共通です)
第2章 花束を君に
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瓶の中からとりだしたコーヒーと紅茶のパックを開け、湯をわかす準備をしていると、上のほうから「ガタン、ドン、ズルズル」と変な物音が聞こえた。
オーソンで買ってきた弁当はテラスで5分で食い終わり、「あとは、ほどよく冷えた鎌倉カスターをコーヒーと一緒にいただこうぜ~!」というわけで、戻ってきていたバックヤード。
今のうちにちょっとションベンをしてくる、ついでにミルクティーも作っといてくれと言っていた億泰が何かにぶつかったのか?と思いながら、俺は巨大なガラスの冷蔵庫の陰になっているドアに目をやった。
「億泰、お前か?どうした?」
半開きになっているドアのすきまから、俺は2階のトイレにいるはずの億泰に向かって呼びかけた。・・・が、返事がない。
不審に思った俺はそのドアを開け、奥の階段をのぼっていった。
「なんだ、そこにいるんじゃねーか。どうしたんだよ、そんなとこでへたりこんで」
階段の中程まで来ると、億泰が上の踊り場の壁にもたれて腰を抜かしたように座り込んでいるのが見えた。俺に気づくと、三白眼をよりいっそう大きく見開き、なんとか立ち上がろうともがきながら「じょ、じょ、じょ、じょ、仗助ぇ~っ」とひどく動揺した様子で呼びかけてくる。
「お、俺、ただ、ションベンしたかっただけで・・・どうしよう、どうしよう、やべーよお~~っ」
「やべーって、何がどうやべーんだよ?そんなに、トイレがクセ―のか?」
と、言いながら俺は階段をのぼりきり、俺たちがいる踊り場の左側、億泰が凝視していた方向をのぞきこんだ。
「あれ?別にクサくもなんともねーじゃん。むしろ良い匂い・・・・・・ん?」
しかし、トイレだと思っていたそこはトイレではなかった。人の居住空間だったのだ。
開けっ放しになっているドアの奥には小さなマットが敷いてあり、女性もののスリッパが一足、マットの上に置いてあった。日当たりの良い部屋の中央には丸いテーブルと椅子があり、さらにその奥には調味料の並んだキッチンと、風呂場のドアらしきものも見えていた。全体的に、設備や建具は古いながらも、誰か(特に、1階で花屋を営んでいるような)が居心地よく生活するのに充分な場所がそこにはあるようだった。
「ああ、そっか、お前、まちがえたんだよ」これだけのものを視界におさめた俺は、思わず笑い出しながら億泰に言った。「トイレは『階段のぼってつきあたり』って、first nameさんが言ってただろぉ~?お前が開けちまったのはこっちのドアだったんだよ。つまり、ここはfirst nameさんの部屋だったってこった。ここに住んでたんだな。なるほどなぁ~っ」
俺はその部屋から首をひっこめ、正しいほうのドアに手をかけた。
「ほら、やっぱりこっちがトイレだ・・・億泰、お前ションベンしたかったんだろ?入っていいぜ。・・・しかしよお、ひとり暮らしの女の人の部屋っつーのは、どーも『神聖な感じ』っつうか『禁断の領域』っつうか・・・こうして実物を見ちまうと、けっこー気恥ずかしいもんがあるよなあ~~っ。下着なんて落ちてたりしてよ・・・」
つい、冗談めかして言いかけた俺は、億泰が「あ、あれ・・・あれ」と、震える手で指さした方向をなにげなく振り向いてぎょっとした。
部屋の片隅、白で統一されたベッドの上に、水色のブラジャーが落ちていた。
まるでそれ自体が花びらのようなフンワリとしたレースで覆われた、立体的な三角形の布2つに、リボンのような細い紐状のもの。それにいくつかのちいさな金具で構成された、女性が身に着けるための下着。なぜ、これら2つの三角形が立体的なのかと言うと、それは『女性ならではの立体2つ』を包んで保護するためなので・・・それが意味するところはつまり、first nameさんの、おっ、お
「何してるの?」
突然背後から声をかけられ、俺はビヨーンとばねじかけのおもちゃのように飛び上がった。
・・・全身に冷や汗をかきながらうしろを振り返ると、踊り場に由花子が立っていた。
目ん玉をひんむいて立ちすくんでいる俺の背中越しに由花子は室内を覗き込んだが、やがて「ああ・・・」と納得したようにうなずくと、俺の脇をすり抜けて部屋に入り、first nameさんのブラを拾い上げて、ベッドの掛け布団の下に押し込んだ。
「そうね・・・そういうこともあるかも知れないわ」と由花子は言った。「first nameさん、今日、すごく早起きしたって言ってたから、朝、バタバタして置き忘れちゃったのね。これは、あたしが見つけて隠しておいたってfirst nameさんには言っておくから、2人は何も知らないことにしておいたほうがいいんじゃない。わざわざ話してショックを与えることもないわ」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・聞こえた?」
「あっ!・・・あ、ああ、そうだったな・・・由花子、お前の言うとおりだぜ・・・恩に着るよ」
「どういたしまして」
しどろもどろで礼を言っている俺のそばに戻ってきて靴をはいた由花子は、first nameさんの部屋のドアを閉めると、無表情で俺と億泰をじっと眺めた。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・?な、なんだよ・・・なに睨んでんだよ・・・」
「トイレ。入りたいんだけど」
「あっ!!わっ、わりぃ・・・」
横に飛びのいた俺の脇をまたすり抜けて、由花子はトイレに入って行った。
「億泰、歩けるか。逃げようぜ・・・!」
「お、おう!」
なんとか手をひっぱって立たせた億泰と俺は、ころがるようにドカドカと階段をおり、バックヤードと売り場を抜けて康一のいる外に走っていった。
first nameさんも康一も、俺たちがあまりに早く休憩を切り上げて戻ってきたので驚いていたが、気まずさを隠すのに精一杯で全く!それどころではなかった。
(こ、こ、これこそ、スタンドも月までブッ飛ぶ破壊力・・・大変なものを見てしまった・・・!)
オーソンで買ってきた弁当はテラスで5分で食い終わり、「あとは、ほどよく冷えた鎌倉カスターをコーヒーと一緒にいただこうぜ~!」というわけで、戻ってきていたバックヤード。
今のうちにちょっとションベンをしてくる、ついでにミルクティーも作っといてくれと言っていた億泰が何かにぶつかったのか?と思いながら、俺は巨大なガラスの冷蔵庫の陰になっているドアに目をやった。
「億泰、お前か?どうした?」
半開きになっているドアのすきまから、俺は2階のトイレにいるはずの億泰に向かって呼びかけた。・・・が、返事がない。
不審に思った俺はそのドアを開け、奥の階段をのぼっていった。
「なんだ、そこにいるんじゃねーか。どうしたんだよ、そんなとこでへたりこんで」
階段の中程まで来ると、億泰が上の踊り場の壁にもたれて腰を抜かしたように座り込んでいるのが見えた。俺に気づくと、三白眼をよりいっそう大きく見開き、なんとか立ち上がろうともがきながら「じょ、じょ、じょ、じょ、仗助ぇ~っ」とひどく動揺した様子で呼びかけてくる。
「お、俺、ただ、ションベンしたかっただけで・・・どうしよう、どうしよう、やべーよお~~っ」
「やべーって、何がどうやべーんだよ?そんなに、トイレがクセ―のか?」
と、言いながら俺は階段をのぼりきり、俺たちがいる踊り場の左側、億泰が凝視していた方向をのぞきこんだ。
「あれ?別にクサくもなんともねーじゃん。むしろ良い匂い・・・・・・ん?」
しかし、トイレだと思っていたそこはトイレではなかった。人の居住空間だったのだ。
開けっ放しになっているドアの奥には小さなマットが敷いてあり、女性もののスリッパが一足、マットの上に置いてあった。日当たりの良い部屋の中央には丸いテーブルと椅子があり、さらにその奥には調味料の並んだキッチンと、風呂場のドアらしきものも見えていた。全体的に、設備や建具は古いながらも、誰か(特に、1階で花屋を営んでいるような)が居心地よく生活するのに充分な場所がそこにはあるようだった。
「ああ、そっか、お前、まちがえたんだよ」これだけのものを視界におさめた俺は、思わず笑い出しながら億泰に言った。「トイレは『階段のぼってつきあたり』って、first nameさんが言ってただろぉ~?お前が開けちまったのはこっちのドアだったんだよ。つまり、ここはfirst nameさんの部屋だったってこった。ここに住んでたんだな。なるほどなぁ~っ」
俺はその部屋から首をひっこめ、正しいほうのドアに手をかけた。
「ほら、やっぱりこっちがトイレだ・・・億泰、お前ションベンしたかったんだろ?入っていいぜ。・・・しかしよお、ひとり暮らしの女の人の部屋っつーのは、どーも『神聖な感じ』っつうか『禁断の領域』っつうか・・・こうして実物を見ちまうと、けっこー気恥ずかしいもんがあるよなあ~~っ。下着なんて落ちてたりしてよ・・・」
つい、冗談めかして言いかけた俺は、億泰が「あ、あれ・・・あれ」と、震える手で指さした方向をなにげなく振り向いてぎょっとした。
部屋の片隅、白で統一されたベッドの上に、水色のブラジャーが落ちていた。
まるでそれ自体が花びらのようなフンワリとしたレースで覆われた、立体的な三角形の布2つに、リボンのような細い紐状のもの。それにいくつかのちいさな金具で構成された、女性が身に着けるための下着。なぜ、これら2つの三角形が立体的なのかと言うと、それは『女性ならではの立体2つ』を包んで保護するためなので・・・それが意味するところはつまり、first nameさんの、おっ、お
「何してるの?」
突然背後から声をかけられ、俺はビヨーンとばねじかけのおもちゃのように飛び上がった。
・・・全身に冷や汗をかきながらうしろを振り返ると、踊り場に由花子が立っていた。
目ん玉をひんむいて立ちすくんでいる俺の背中越しに由花子は室内を覗き込んだが、やがて「ああ・・・」と納得したようにうなずくと、俺の脇をすり抜けて部屋に入り、first nameさんのブラを拾い上げて、ベッドの掛け布団の下に押し込んだ。
「そうね・・・そういうこともあるかも知れないわ」と由花子は言った。「first nameさん、今日、すごく早起きしたって言ってたから、朝、バタバタして置き忘れちゃったのね。これは、あたしが見つけて隠しておいたってfirst nameさんには言っておくから、2人は何も知らないことにしておいたほうがいいんじゃない。わざわざ話してショックを与えることもないわ」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・聞こえた?」
「あっ!・・・あ、ああ、そうだったな・・・由花子、お前の言うとおりだぜ・・・恩に着るよ」
「どういたしまして」
しどろもどろで礼を言っている俺のそばに戻ってきて靴をはいた由花子は、first nameさんの部屋のドアを閉めると、無表情で俺と億泰をじっと眺めた。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・?な、なんだよ・・・なに睨んでんだよ・・・」
「トイレ。入りたいんだけど」
「あっ!!わっ、わりぃ・・・」
横に飛びのいた俺の脇をまたすり抜けて、由花子はトイレに入って行った。
「億泰、歩けるか。逃げようぜ・・・!」
「お、おう!」
なんとか手をひっぱって立たせた億泰と俺は、ころがるようにドカドカと階段をおり、バックヤードと売り場を抜けて康一のいる外に走っていった。
first nameさんも康一も、俺たちがあまりに早く休憩を切り上げて戻ってきたので驚いていたが、気まずさを隠すのに精一杯で全く!それどころではなかった。
(こ、こ、これこそ、スタンドも月までブッ飛ぶ破壊力・・・大変なものを見てしまった・・・!)