(※全小説共通です)
第2章 花束を君に
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(普段からメイクしない君が薄化粧した朝)
(始まりと終わりの狭間で忘れぬ約束した)
春、じいちゃんの納骨をした時に霊園が清掃を入れてくれた墓はまだ比較的きれいだった。
『東方家』と御影石に彫られた墓に俺は柄杓で水をかけ、おふくろはハンドバッグに入れてきた使い古しの歯ブラシで、ていねいにその文字の溝の汚れをひとつひとつ洗っていった。
「ブランデーは?」
「持ってきたわよ」
開封したサントリーのV.S.O.P.の小瓶に俺たちは交代で形だけ口をつけ、それを新しく活けた1対の花の間に、蓋をあけたままにして置いた。
子供の頃、夜勤明けのじいちゃんの膝にすわって、少しだけ味見をさせてもらったブランデーの味と香りがよみがえった。
「父さん、これ、お彼岸まで置いておくから、ゆっくり飲んでね。母さんとふたりで仲良くね。時間はたっぷりあるんだから」
線香をそなえて2人で手を合わせたあと、顔を上げたおふくろは言った。
「ああ、でもわからないわね。父さん、ああ見えて実は仕事熱心な良いおまわりさんだったから。今も案外その辺をせっせと自転車でパトロールしてるかも知れないわよ」
「そいつは言えるな」俺は言った。「まあ、見てなよ。俺もそのうちじいちゃんみたいな立派な警察官になるからよ」
「進学はしなくていいの?1学期の成績だってべつに悪くなかったのに」
「ん~~~・・・・・・」
「そっか。そうよね。そんなにすぐに決められないわよね」おふくろは言った。「まあ、まだ高校1年なんだし、ゆっくり考えたらいいわ。あんたがこれと思うものを見つけた時は、あたしもそれを応援するから」
「ああ、ありがとう」俺は言った。「そうする」
そういえばあの人はいつ、どうして花屋になる決心をしたんだろう、と思いながら。