(※全小説共通です)
第2章 花束を君に
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「それじゃあ、ハンサム君、また手品見せてね~~~っ!親切なボクもお仕事ガンバってね~~っっ!!」
無事にお会計を済ませたオバサマたちが、上機嫌でぼくたちに手を振りながら道路をわたっていったあと、コツコツと歩道にヒールの音を響かせて、ひとりの女性が駐車場からこちらへやってきた。
ボブカットの髪をヘアバンドでスッキリまとめて、タイトスカートに薄手のスプリングコートを羽織ったその人は、そう、ハンサム君・・・もとい、仗助君のお母さんの東方朋子さんだ。仗助君の家にはぼくも時々遊びに行かせてもらったことがあるけれど、朋子さんはいつ会っても若くて美人で、とても高校生の息子がいるようには見えない。
「仗助のおふくろさんじゃないっスか。おはようございます!今日もうるわしいお姿ッスね」
「仗助君のお母さん、おはようございます!」
「みんなおはよう!暑い中、朝からえらいわね」ぼくたちの挨拶にこたえて朋子さんは言った。「あらっ、ひょっとしてあなたが康一君の彼女の・・・え~と、山岸由花子さん?はじめまして、ここにいるバカ息子の東方仗助の母です。ど~う、康一君とのお付き合いは、うまくいっている?」
「えっ、あのっ、はっ、はいっ、時々一緒に勉強をするくらいですけど・・・おっ、おっ、おかげさまで・・・!」
朋子さんの問いかけに、モジモジと恥ずかしがって耳まで赤くしながら由花子さんは答えた。ぼくもなんだかつられてこそばゆくなっちゃうな。
「なんだ、おふくろ、今日来ることにしたのか」
「そうよ。明日あさっては土日でしょ。道も駐車場も混むと思って早めに来たのよ」と、朋子さん。
「仗助、あんたも一緒にお墓参り行く?」
「俺?いや~、俺は一応、」
バイト中・・・と言いかけた仗助君にぼくは言った。
「仗助君、よかったら行ってきなよ!今なら霊園も開門したばかりでお客さんもまだそれほどじゃないし。それに仗助君のお母さんの言うとおり、明日あさってはもっと混むかもしれないよ」
「ああ、そうだぜ。行って来いよ」と、億泰君も言った。「俺もちょっとずつ慣れてきたし、3人で協力しながら待っててやるぜ」
「まあ、そりゃ、ありがてーっちゃあありがてー話だけどよお」なんとなく気が進まなそうにしていた仗助君が、ふと思いついた様子で言った。「初盆つったよな?じいちゃんの」
「?そうよ」と、朋子さん。
「それ、何のことだっけ」
「その人が亡くなって最初のお盆のことでしょ。あんた小学校行った?」
「それが行ったはずなんだがよく知らなかったぜ」
「俺も頭悪いから知らなかった」と億泰君。
「じゃあ、ちょっとわけを話して行ってきていいかどうか聞いてくる」
「え、first nameさ・・・店長に?あの人、ダメって言わないと思うけど」と、ぼくは言ったが、仗助君は「まあ、一応聞いてくる」と言い残して、店の中に入っていってしまった。
「意外だわ。わざわざことわりを入れに行くなんて、アイツにしちゃ随分礼儀正しいのね」仗助君の背中を見送りながら、朋子さんはつぶやいた。そして、「さてと。お花はどれにしようかな・・・あら、コレいいじゃない!」と言いながら、目に留まった花束を手に取った。いわゆる『いかにも墓参り』っぽい、ひかえめな感じがありつつも、中のあざやかな青い花が差し色になって、他の白い花々とも引き立てあっているような、きれいな花束だ。
「うわあ、それ、素敵ですねえ!」と、ぼくも言った。「その青い花はなんですか?」
「桔梗だと思うわ。死んだ母親が好きだったのよ、この花」星のかたちをしたその花を、優しい目で見つめながら朋子さんは言った。「これ、気に入ったわ。これにするわ。それに値段も安いのね!あっちの電気屋より全然良心的じゃない」
「ああ~、商店街の電気屋ですか?」と、ぼくは言った。「ありますよね!なぜか洗濯機の横で花売ってるところ」
「そうそう。あそこ品ぞろえも微妙なのよね~。しかもこういう時期に限って、やたら値上げするんだから全く」
「OKだってよ」
ほどなくして戻ってきた仗助君が、意外そうな面持ちで言った。
「むしろ行ってくれって言われたぜ。それと俺だけじゃなく、俺たち全員に伝言で、誰か身内が来た時は、遠慮せずに一緒に墓参りしてきて欲しいそうだ」
「ぼくたち全員に?」
「ああ。『それくらいの時間は全然大丈夫だし、大事なことだから、ぜひ』って」