(※全小説共通です)
第2章 花束を君に
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ぼくたちはまず、ポーチのテーブルをみんなで庭に運び出し、それをfirst nameさんと由花子さんがあらかじめ並べておいたお花のバケツの近く、ちょうどケヤキの木陰になっているあたりに置いた。first nameさんは売り上げ金を入れるための箱とおつりの入った箱をテーブルの上に置き、ミニサイズの黒板に〔お花 1束 500円〕とチョークで書いたものを持ってきて、その手前に立てて置いた。これでバスを降りてくる人たちからも、駐車場で車を降りてくる人たちからも、一目で見つけてもらえるだろう。お客さんはバケツの中から好きな花束を選び、ぼくたちのいるテーブルのあたりでお金を払い、霊園のほうへ道路をわたっていけばいい。
「さあ、これでぼくたちの屋台の準備が出来ましたね!」なんだか楽しくなってぼくは言った。
「そうですね!お花の屋台ですね」first nameさんも笑顔になって言った。「お墓はだいたい『花入れ』っていう、埋め込み式の花瓶が2つ1対で付いてるので、お花もだいたい2束で1対、1000円で買う人がほとんどになると思います。1束だけ欲しいって人は少ないと思うけど、それも全然OKなので、1束くださいってお客さんが来たらそのまま500円でお会計してあげてください♪」
「はい、わかりました!」と、ぼくたちは言った。
「それと、お花のアレンジ等の要望があった場合についてなんですが・・・」と、first nameさんは言った。「『花入れ』の深さに合わせて、花束を少し短く切って欲しいっていうリクエストが時々あるかと思います。あとは、例えばこっちの花束2つに、別の花を足してボリュームを出して欲しいっていう人とか。そういう時は、中で店長が対応しますのであちらへどうぞって、案内してあげてください!他にもなんだか難しい質問が来たなと思った時は、中へどうぞ~でお願いします♪」
「はい、わかりました!」と、ぼくたちは言った。
「それと、お花のほかにも売って欲しいものがあって・・・このお線香なんですけど」と、first nameさんは言いながら、薄紙にくるまれた細長い包みがいくつもつまった箱をとりだした。そして、「お墓参りに来るのにお線香を忘れちゃったっていう人は結構いるんですよ。これ、1束100円です♪」と言いながら、そのお線香の箱をテーブルに置いた。
「はい、わかりました!」
「あとは、このマッチなんですけど」
と、first nameさんは言いながら、小さなマッチ箱がたくさんつまった箱をとりだしてテーブルに置いた。
「お線香に火をつけるものも忘れちゃった!っていう人も時々いるんですよ。これは無料のおまけです。欲しい人にはただであげてください♪」
「はい、わかりました!」
「それと、これはライターなんですけど」
と、また別の箱を取り出しながらfirst nameさんは言った。「マッチは使いづらいから、やっぱりライターがいい!っていう人もいるんですよ。これは1本100円です♪」
「はい、わかりました!」なんだか頭が混乱気味になってきた・・・!と思いながら、ぼくは答えた。(ちゃんと覚えておけるかなぁ・・・特に億泰君・・・)
「それと、これはロングタイプのターボライターなんですけど」と、またまた別の箱を取り出しながらfirst nameさんは言った。「風がある時に普通のライターだとお線香に火がつきづらいから、こういう長いライターがいい!っていう人もたまにいるんですよ。これは1本200円です♪」
「は、はい、わかりました・・・!」
あ、やばい、億泰君の耳からブスブスと変な煙が出始めている・・・!が、そうこうしているうちにもうすぐ9時だ。first nameさんが霊園の門のほうにパッと目をやり、次いで腕時計を見ながら言った。
「あ、そろそろ9時になりそうですね!まだ少しだけ早いけど、じゃあ、今から開店して・・・」
「あっ、ちょっ、ちょっと待ってください!」
と、由花子さんがあわてた様子で割って入った。そして、「first nameさん、あたしたちと一緒に写真を撮ってもらえませんか?初めてのアルバイトなので、記念に写真を撮りたくて、あたし、家からカメラ持ってきたんです・・・」と言いながら、エプロンのポケットからいそいそとちいさなカメラを取り出した。
「おっ、そりゃあいいアイデアじゃあねーか!」生気を取り戻した億泰君が楽しそうな表情になって言った。「せっかくだから、みんなで一緒に撮ろうぜえ~。康一、お前マンガとかアニメ結構好きだろ?何かいいポーズを考えてくれよ」
「いいよ!う~ん、そうだねえ・・・」ぼくは言った。「あ、これはどうかな?露伴先生の『ピンクダークの少年』の中で、3部の主人公チームが旅立ちの時に『行くぞ‼(バ――――ン)』って言ってる有名なシーンなんだ。本当は4人でやるべきなんだけど、ポーズは単純だし難しくないよ。5人で出来る別のポーズもあるよ」
「え~っ、嫌だよ、あいつの絵ってなんかグロテスクで気持ちワリ―し、それにキャラクターの関節の動きが妙に不自然なんだもん」露骨に不快そうな顔をしながら仗助君が反対した。「何か他の候補はないのかよ~っ」
「えっ、『ピンクダークの少年』って、あの岸辺露伴のですか?私、あれ大好きです!確かにグロテスクな描写もあるけど、そこがまたクセになるのに~!」と、なんと今度はfirst nameさんから仗助君に物言いがついた。「岸辺露伴はカラー絵もうまいし、色使いもすごいですよね!しかもあの人、杜王町に住んでるらしいじゃないですか。虹村君と広瀬君の言うとおり、せっかくだから私もここでみんなと『行くぞ‼(バ――――ン)』のポーズで写真を撮ってみたいです!」
「うっ・・・」
結局、鶴の一声に押されるかたちで仗助君が引き下がり、ぼくはまずfirst nameさんにお店のドアのすぐ手前、5人の中央になる位置に立ってもらった―――――【R】はfirst nameさんのお店なんだから、『3代目・魔少年ピンクダーク』はもちろんfirst nameさんというわけだ―――――そして、first nameさんのまわりにぼくたち4人がそれぞれカッコいいポーズを決めて立ち、ちょうど駐車場から戻ってきていた先程のご家族連れの、お父さんと呼ばれていた男性に頼んで、写真を撮ってもらうことにした。
「いいですかあ、皆さん、いきますよ~!」
今度こそお花が買えるかと思ってやってきたところへとんだ迷惑なお願いにも関わらず、快く応じてくれたその男性はポーチの下からカメラを構えて言った。「ハイ、チ―――ズ!!」
パシャ!というシャッター音にあわせて、ぼくたちは声を合わせて叫んだ。
「行くぞ‼(バ――――ン)」