(※全小説共通です)
第2章 花束を君に
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「・・・それじゃあ、私は売り場に入ってますね。お花の追加、なるべくちょこちょこ持ってきます!」
やっとのことで花を購入できたそのご家族連れのお客さんたちが、霊園のほうへ道路をわたっていくのを丁重に見送りしたあとで、first nameさんはぼくたちを振り返って言った。そして、「あ、それと私のことは、営業中は店長って呼び捨てにしてくださいね♪」と付け加えると、「それではよろしくお願いしま~す!」とさわやかに言い残し、まるで春のキャベツ畑を飛びまわるモンシロチョウのように、お店の中にビューンと駆け足で入って行ってしまった。・・・あとにぼくたち4人をおいて。
(こ、これは・・・これはまさに、仗助君の言うところの「プレッ プレッ プレッシャア~~ッッ」っていうシチュエーションッ!!)
「あの、これ、ください」
「これください!」
「これと、このお線香ひとつください!」
最初のお客さんたちが買い物をすませたことで歩道に生まれたスペースに、そのまわりで待っていたお客さんたちがたちまち、わっ!と押し寄せた。
由花子さんと億泰君、それに仗助君も、手に手に花束をかかえてお会計にやってくる人たちの対応に一斉に追われはじめている。前庭を横切ってお店の中に入って行く人もさっそくチラホラ出始めた。本当に、まるで文化祭の幕開けだ。
「ねえねえ、ちょっと、そこのボク」
ビビッドなオレンジ色の花束をひとつ手にしたオバサマ2人組が、ぼくにも話しかけてきた。
「このケイトウなんだけど、同じものもう1つないかしら?もし、この中にあれば欲しいのよ」
「はいっ、じゃあ、ぼくも探してみますね!ケイトウ・・・、ケイトウ・・・、あっ、コレじゃないですか!?」
並んだバケツの花の中に特徴的なオレンジの色を見つけ、ぼくはその花束を取り出した。
「あっ、それよ、それよ!ありがとう!それ、あわせて2束いただくわ!」
「はい、じゃあ、2束で1000円になります!・・・あっ!」
そのお客さんが差し出した千円札と引き換えに手渡そうとしたケイトウの花束を、ぼくはうっかり地面に落としてしまった。ヤバい!とあわてて拾い上げたが、
「ああっ!」
コロコロと歩道にころがるオレンジの固まりを一目見たとたん、サァッと血の気が引いた。ちょうど咲きかけているケイトウの花の部分が、ぽろりと取れてしまったのだ。・・・しかも、2つも。
オバサマたちも(ああ~・・・)というような、困った顔になってしまっている。
「じょ、仗助く~~ん・・・」
すがるような思いで呼びかけると、仗助君は「どうした?」という表情で由花子さんの肩越しにぼくを振り返り、次いで歩道に転がったケイトウの花に目をやった。そして短く「ああ」と言いながらぼくからその花束を受け取ると、あっという間に【クレイジー・ダイヤモンド】で、落ちた花を両方元通りにくっつけてしまった。
「えっ!?どういうことっ!?」
「なに今のっっっ!!」
急にとれたり、空中に飛び上がってまたくっついたりする花の様子にオバサマたちはびっくり仰天して、口々に驚きの声をあげている。
「今のはですね~、『手品』っス」仗助君はニヤリと不敵に笑うと、元通りになった花束をわざとらしいほど紳士的な仕草で2人に向かって差し出した。「この日のために毎日猛練習してきました。俺、ヒジョーに好きなんスよ、こーいうだましの『手品』がっ!」
「え~っ、全然タネがわからなかったわ~~っっ!あなた、すごいじゃな~い!オホホホホッッ!」
「オホホホホッ!本当だわっ!それに、お顔もハンサムねっ!こっちのボクは親切だし、アタシ、このお店、気に入ったわあ~っ!!」
さっきの残念そうな表情から一転、オバサマたちはとてもハシャいで嬉しそうだ。さすがぶどうが丘高一のモテ男、年代問わず女性に大人気!
(由花子さんの隣で億泰君が「俺だってハンサムで親切なのによお」とボヤいている気もするけど・・・ともかく、仗助君、ありがとう~~っ!!助かったよォ~~ッッ!!!)