(※全小説共通です)
第2章 花束を君に
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1999年8月13日の朝。ぼくは愛用のマウンテンバイクにまたがり、いつも通学に使っている道路を杜王駅前の駐輪場目指してこぎだした。
【R】への到着目標時刻は8時35分。「準備のために初日だけ、15分前に来て欲しい」とfirst nameさんに言われているので、本当は8時45分に着けば大丈夫なんだけど、いつも10分前行動の由花子さんのことだ。きっと8時30分過ぎには来ているだろうから、ぼくも同じ時間にお店に行こうと思ったのだ。
ラジオの天気予報によれば、今日は終日快晴の見込み。東の空には筋肉ムキムキのマッチョな入道雲がわきあがり、その間から昇る太陽がまぶしい笑顔で杜王町を見下ろしている。
キラキラ輝く景色の中にさわやかな暑さを感じながら、ぼくはこの日の為にメンテナンスを済ませておいたマウンテンバイクのペダルを踏みつづけた。
「康一君、ここよ~!」
T字路の角で名前を呼ばれて振り返ると、【R】の前庭からエプロン姿の由花子さんがぼくに手を振っていた。first nameさんもその隣に立っている。
「おはようございます!二人とも早いですね」
「早く着いちゃったからfirst nameさんのお手伝いしてたの。時間があまったからお店の中も見せてもらっちゃった。アンティークな雰囲気に植物がマッチしてて、すごく素敵なのよ」と由花子さん。僕が予想していたよりもきっとずっと早くお店に来ていたのだろう。さすがだ。
「このあたりのお花は山岸さんに手伝ってもらって2人でもう全部運んじゃったから、あとは広瀬君たちを待つばかりだったんです!おかげで、すごく助かっちゃいました」と、first nameさん。
見ると、お店の敷地と歩道の間あたりに水をはったバケツがずらりといくつも並び、その中には色とりどり、種類もとりどりの花束が隙間なくみっしりと活けられていた。
「わ~、コレ全部first nameさんが作ったんですか?すごい量だなぁ」
「ねえ見て康一君、これなんてキレイじゃない?」
「本当だ、なんだかお墓参りっぽくなくて、かわいくて、プレゼントにも使えそうなくらいだよね」
ピンクのバラを小さくしたようなお花をメインにしている花束をしゃがんで見ながら話していると、「あの~」と頭上から声をかけられた。顔をあげると家族連れらしき人たちが数人、ぼくたちの前の歩道に立っていた。
「ここでお花、売ってるんですか?2つ欲しいんですけど・・・」
「あ、お墓参り用ですね!霊園が開門する9時ちょうどから販売を始めますので、もうしばらくお待ちください」と、first nameさんが笑顔で対応する。その人たちは「わかりました」「お父さん、お花9時からだって」「じゃ、もう少し車で待とう」と口々に言いながら、もと来たほうへ戻っていった。
今の人達が歩いて行った霊園の第二駐車場に目をやると、月曜にはだだっ広く感じられたはずのそこには既に何台も車が停まり、さらに続々と新しい車が入ってきているところだった。車を降りてきた人たちが他にも何人か、ぼくたちのいるあたりが気になるらしく、チラチラ見にきたりもしている。開園まで20分以上はあるのにこの人出。first nameさんが予告していた通り、忙しい1日になりそうだ。
「おはようございま~ッス」
ぼくの腕時計が8時40分を指すころ、T字路の角をふらりと曲がって、仗助君と億泰君が現れた。
2人ともいかにも「ぼくたち私服のヤンキーで~す!」って感じ、まるだしのファッションだけど、こうして並んで登場するとやっぱりすごく目立つしカッコいい。とくに仗助君のはいている、GGのロゴがびっしり並んだ黒っぽいスウェットパンツは、もしかして・・・
「仗助君、その服グッチ?」
「ああ。これが俺の汚れてもかまわない服装だぜ」
「へ、へえ~~・・・すごいね・・・」
ま、まあ、確かにそれならスタイリッシュかつ汚れも目立たないけど・・・と思っているぼくの近くへ、2人に気づいたfirst nameさんがやってきた。
「おはようございます!あ・・・はじめまして、あなたが虹村く「あっあのっ俺っ・・・はいっ!そうです!俺が虹村億泰ですっっ!!!」「ヒッ!?」
スゴイ勢いで駆け寄ってきた億泰君の熱烈な挨拶に気圧されて、first nameさんはシャキーン!と棒立ちになった。「おい億泰、声がデケーよっ!」と仗助君が叫んでいるが、億泰君には聞こえていないようだ。
「仗助が言ってた通り、いやそれ以上!!!に可愛くってキレ~なかたッスねえ~~~っっ!!じつは俺も植物とか好きなほうで、家でもひとつ育ててるんスよお~~~っっ!!今日から4日間、この億泰をどうぞ、じゃんじゃんコキ使ってやって下さいっっ!!!」「おい、億泰!声がデケーっつうのっ!おいっ!」
「ハ、ハイ・・・よろしくお願いします・・・!」
あまりの迫力に目を丸くして固まってしまったfirst nameさんをよそに、億泰君は今度は「仗助え~~~っ!!」と言いながら仗助君のところに駆けもどり、ばしっ!ばしっ!と鼻息もあらく、仗助君の背中を何度もたたきはじめた。なんだかものすごく興奮していてうれしそうだ。まあ、気持ちは100パーセントわかるけど。
「あ、ところでfirst nameさん、もうすぐ8時45分ですね。そろそろぼくたち『準備』とか、始めなくちゃいけないんじゃないですか?」
億泰君が喜びのあまりこれ以上何かしでかさないうちにと、ぼくは腕時計を見ながら言ってみた。
「あ、そうですね!」first nameさんも自分の腕時計を見ながら言った。「とりあえず、店の奥にみんなの荷物とお昼ごはんを置きに行きましょ!」
「はあ~~~~~~いっ‼」「だから、声がデケーんだってっ!」