(※全小説共通です)
第1章 種
名前設定
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「お兄さん?」
一体、どんな質問をされるのか!?と内心ビビッていたところへ不意に家族構成をたずねられ、拍子抜けしている俺の前で、first nameさんは至極まじめな面持ちでうなずいた。
「はい、年の離れたお兄さん。10歳か・・・もっと年上の、お兄さんとか、従兄弟とかで・・・中学生か高校生の時に、東方君と同じ髪型してた人。いないですか?」first nameさんは言った。
「同じ髪型?」俺はポカンとして聞き返した。
「いや~、俺は・・・キョーダイいないし、母親も一人っ子なんでイトコとかもいないっすね~・・・けど、同じ髪型の人っすか・・・?」
「はい」ポツリとfirst nameさんは言った。「私、ずっとむかし、子供のころに、助けてもらった事があるんです。いまの東方君にそっくりな人に、ここのすぐ近くで。冬でした。雪が積もってた」
俺は思わずfirst nameさんを見た。first nameさんも俺を見ていた。
と同時に、その目は俺を突き抜けて、俺の後ろにいる誰かをまっすぐ見ているかのようだった。
「俺にそっくりな人・・・?」
「はい、本当にそっくりでした・・・髪型も、制服も、そういうシンプルなピアスも、全部・・・」
「うッッ!?」
息がかかりそうなほどの至近距離でfirst nameさんに下から耳元をのぞきこまれ、俺はドキィ―――ッ!!!となってのけぞった。全身の血が沸騰して、顔が超スピードでまっ赤になってくるのが自分でもわかってしまう。
「あっ、ゴメンナサイ」不自然に上体をそらせてうろたえまくっている俺の様子に気づいてfirst nameさんは一歩下がった。そして口元に両手をあてて、ちょっと恥ずかしそうにまた俺を見上げた。
「全部、よく覚えてます。あの人がしてたのと本当におんなじ」まるであこがれのロックスターについて語っているかのような、嬉しそうな笑顔と熱のこもった声でfirst nameさんは言った。「最初にそこに・・・東方君が立ってた時は、本当に、また会えたんだとばかり思いました・・・私のヒーローに。あの、もし、もし、心あたりのある人がいたら、ぜひ教えてくれませんか?ずっとお礼をしたいのに出来ていなくて、また会いたいなって思っている人なんです・・・」
風が強く吹いてきていた。first nameさんの髪が巻き上げられて午後の光にきらきら震えた。
遠い冬の日の光景が浮かんだ。
「心あたりの、」
俺が言いかけた時。
”ぷしゅ―――――っ”と盛大に空気が抜けるような音があたりに響いた。
バスが停車してドアが開いたのだった。
「あ・・・」
「あ・・・」
「あはは・・・バス・・・来ちゃったっスね」
俺は思わずひきつった頬で笑った。first nameさんも困り顔で笑っていた。
「来ちゃいましたね。あのっ、どうぞ・・・乗ってください」
「あ、そ、そっすね・・・じゃあ、億泰の件が決まり次第、頂いた名刺の番号におデンワします!」
「はい!」
俺は先に降りてきた客と入れ違いであたふたとバスに乗り込んだ。そして、じろりとこちらを一瞥する運転手を尻目に、満員の先客をかきわけ、かきわけ、通路の奥へ歩いていった。
ぐらりと車体を揺らして走り始めたバスの吊り革につかまると、いま降りた客のなかの1人がfirst nameさんと何やら会話をしながらポーチの階段をのぼっているのがチラリと見えた。―――――そして、車窓の眺めはケヤキの幹に遮られ、first nameさんの姿は俺の視界から消えた。