(※全小説共通です)
第1章 種
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(土の中で静かに目覚める日を待ってる種)
(あの日の僕とよく似た 君がいる)
今にして思うと、あれがつまり俺の世界を揺るがす始まりだったんだ。
1999年の夏休み。ジョセフのじじいからぶんどった財布の金の残りを数えながら、エアコンを効かせたリビングルームで毎日寝っ転がってゲームをしていたら、ある日おふくろに背中を蹴られた。
「あんたまだ成績表受け取りに行ってないんだって?」おふくろは言った。「担任の先生から電話かかってきたわよ」
「ああ、そういや忘れてたぜ」
「もうケガは治ってるんでしょ。新しいゲームソフト買いに行く体力はあるんだから。さっさと行ってきなさいよ」
「ああ」
そんなわけで俺は久しぶりに登校し、いつもよりも静かな職員室で担任から成績表を受け取った。
駅前のロータリーに戻るためにぶどうが丘の坂道を下りていくと、向こうの角に康一と由花子の姿が見えた。どこぞの家だか店先だかを覗き込んでいるようだった。
俺は歩いて行って2人に話しかけ、そして、そして―――――そこにfirst nameさんがいた。
あの時、俺に起こったことをありのままに話そう。
『俺は、ずっと昔になくした何か大切なものをまた見つけたような目で俺を見ているfirst nameさんから全く視線が逸らせない数秒間を過ごした』。
first nameさんと目を合わせている間に俺が全身で味わった感覚、頭の中を勝手によぎっていった映像についてこれまで人に話したことはない。
億泰にも康一にも、もちろんfirst nameさん本人にも、誰にも。
むしろそれを心の奥にしまいこんで「なかったこと」にしようとしながらこれまで過ごしてきたかもしれない。
そうせずにはいられなかったし、また、そうしたほうがいいような気もしたからなんだ―――――なぜかは俺にもよくわからないが。
とは言えそれは俺のなかに強く強く、消えずに残り続けることになる。
埋めても種は必ず咲こうとする。結局のところは逆らえないんだ。
話をもとに戻そうぜ。