(※全小説共通です)
序章 あるいは、太陽と向日葵
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『 短期アルバイト募集
期間 8月13日~16日
9:00~17:00
日給1万円 経験不問
詳細はおたずねください 』
こんな内容が書かれた紙が、その店のドアガラスに貼ってあった。
もっとも、それが店なのかどうか、一見しただけではわからなかったけれど。
アンティークな十字の木枠のついたそのドアのすぐ上の壁には、アルファベットの【R】のかたちをした真鍮のプレートが付いている。たった一文字のシンプルなその【R】が、どこにも見当たらない看板か、表札の役割をしているのだろうか。古いけれども雰囲気のいい別荘風のその建物は、ぼくの知っている人気マンガ家・岸辺露伴の家にもよく似ていて、涼しげな日陰のポーチには、そこに座ってイカサマ博打をするのにちょうどよさそうなテーブルやベンチもある。
ただしそこには茶碗やサイコロの代わりに鉢植えの花や植物が置かれ、ポーチの床にも重たそうな観葉植物の大鉢が、建物の周りをとりかこむように、きちんと壁に沿って並べられていた。
「ほら、やっぱりお花屋さんみたいだよ」
貼り紙の脇からガラス越しに中の様子をうかがっていたぼくは、そばの壁に手をついた姿勢のまま、隣の由花子さんのほうを振り返った。
「そうね!だって、こんなにお花がいっぱいだもの」と由花子さん。彼女もまたさっきからぼくと同じくらい、『短期アルバイト募集』の貼り紙と、中の様子に釘付けだ。
確かに彼女の言う通り、覗き込んだ室内は花、花、花・・・バケツに入っているもの、花瓶やかごに入っているもの、とにかく、花でいっぱいだ。
お店の人の姿はここからはよく見えないが、たぶん少なくとも1人か2人、お客さんは入っているんじゃないだろうか。中で誰かが話しているようなくぐもった声が、ドアの隙間から小さく聞こえていた。
「8月13日から16日ってことは、全部で4日間よね。日給1万円ってことは、4日間で4万円もらえるってことかしら。経験不問って・・・本当に未経験でもいいのかしら?」
由花子さんは興味しんしんな様子で、でもちょっと心配そうに、「あたし、お花屋さんの仕事の内容なんて全然わからなくって・・・」とつぶやいた。
「ぼくもだよォ~~~っ!だいいち、花を買うこと自体あんまりないもんなぁ~っ」
「詳細はおたずねくださいって書いてあるわね・・・それって、店の中に入ってこいってことよね?」
「そうだよねぇ・・・ちょっと、中に入って聞いてみる?」
「どうする?」
「どうしようか?」
僕たちが、つい気おくれしたまま顔を見合わせていたところ。
由花子さんが僕の後ろをふと見て言った。
「ねえ、あっちから来るの東方君じゃない?」
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