Works
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
誰もいないオフィスの電気をつけ、すぐさま作業をする。
持ち上がって来ているクリスタへの交渉内容を確認すると、それは尋常ではない量であった。
ツォンは、ここ一ヶ月の交渉要請があまりに多すぎると思っていたため、その内容を探ろうとしたが、
理由は一つしか思い浮かばなかった。
業績が、良すぎるのだ。
結果が良ければ、どの部署も交渉をタークスに頼むようになるだろう。
この女に頼んでおけば、どの交渉も勝ち取れるというレールができ上がり始めてしまっているのだ。
人事の夜勤主に、クリスタのタークス昇進のための書類を要請した。
今日の夜勤は運よく人事課長だった。さっさと話をつけたい。
さっそく書類を持って、課長が直接調査課までやってきた。
「いやーぁ、ツォン主任。お疲れ様です。
タークス昇進ってなると、この子、交渉のタイミングなくなりますよねぇ。」
「はい。
戦線に置くようになる契約を組んでいます。」
「困っちゃうんですよね…。
いや、何しろ交渉成功率が高すぎて、
CMにしろ、大手企業との連携にしろ、社内の業績に直接関わる部分が大幅にアップしているんです。
すでにこの功績は社長や副社長の耳にも入っておりまして、
嫌がっても続けさせろ、って直接指令が来ているもんですから…」
「…遅かったか。」
ツォンの思った通りだった。
「今年の新人タークスは才色兼備と、重役間でも徐々に噂が広がり始めています。
また、タークスの株も上がっちゃいますなぁ。」
何も答えないツォン。
どうすればいい。
さすがに思考が回らなかった。
「しかしそれは…タークスの戦力的にも困るのだが。」
「何をおっしゃいます、女の一人くらいで。
そもそもお強いあなたがいるじゃないですか。
例のコンビも、神羅の一番の飛び道具ですよ。ハッハッハッ!
そんなこんなで、簡単に昇進書類は出せないんです、申し訳ない。
どうしても、ということであれば、直接社長にお頼みいただけますかねぇ…。」
軽く会釈をして、オフィスを出て行った。
人事は話にならないことが分かっただけでも収穫としよう。
まずは、今日の大手交渉は失敗とする書類を作り、飛び抜けた業績を和らげなくては。
夜間作業は邪魔者がいなくて捗る。
改竄を終えて、このまま今日はオフィスで朝を迎えようと、一杯だけコーヒーを飲んだ。
すると、エレベーターの止まる音がした。
―ピン―
「ぁあ〜〜〜、ったくよぉ、今日のターゲットもちょろかったなぁ、と。
楽勝、楽勝!」
「…俺のケアルがなければどうなっていた。」
「まぁまぁ。勝ったんだからいいんだっつぅの。」
例のコンビが、現場から戻って来たのだった。
「あれ、明かりがついてるぞ、と。
おい、誰かいるのか?」
「お疲れ。」
「ツォンさん!」
戦闘後のアドレナリンが残ったままの二人のオーラが眩しい。
それに比べ、陰気を背負っているであろう自分に、何も勘付かれないことを祈った。
「お疲れ様です、と。
何してんですか、こんな時間に難しい顔して。」
レノは主任室の机に座って、
ツォンが淹れたコーヒーを、デキャンタから自分のカップにも注いで飲む。
ルードも、ツォンの夜勤を心配し、近くで聞いていた。
「いや、偶然私も現場が増えてな。
近くだったから戻って書類を終わらせたところだ。」
それらしいことを述べて、その場をしのごうとした。
「嘘だろ、と。」
「……。」
ルードが口を開く。
「主任は…いつもそんな風に行動をわざわざ説明しない。
お前たちには関係ない、と。それで終わるはずだ。」
「だぞ、と。」
「……。」
ポーカーフェイスで反応を見せないツォンは、
コーヒーをまた一口すすった。
「まぁ、言えないだろうなぁ。そんな難しい顔してりゃぁ。
でも、俺たちにできることは、何でも言ってくださいよ、と。」
唇の右端だけでフッと笑って返して、椅子を回して窓の外を見た。
「ぁあーーーー!」
ほとぼりが冷めたかと思いきや、突然大声を出すレノに、さすがのツォンも肩がびくりと動いた。
「な、何だ…。」
回したばかりの椅子をまた回して、レノと対峙する。
「いや、そうだ!言おうと思ってて!
あの、新人。クリスタ。」
その名をレノが発して、
ポーカーフェイスを決め込んだままのツォンの鼓動が少し早くなる。
「あいつ、すげぇ可愛い!」
ルードが吹き出した。
「けど、最近変なんだよな。いや、初めから夜に現場出てばっかりでそもそも変だけど。
そうじゃなくて。
何か…アンデッドにでもなっちまうんじゃねぇかってくらい、心が死んで行ってるような。」
ツォンは目を細めてレノの心を覗く。純粋に心配している目の色をしていた。
鋭いレノの洞察力に関心しながら、その先の言葉を待った。
「…ツォンさん。
あいつ、夜の現場で何してる…?」
「……業務内容は、タークス同士でも教えられない。
そんなもの、知っているだろう。」
「ああ…だけどよ…。
一人で死にそうになってるなら、俺らが同行って手もあるんじゃないか、と。」
明らかにレノは、クリスタを気にかけている。
できるだけ多くオフィスに出勤するのもそれが理由であろう。
「考えておこう。
レノ、お前は引き続きオフィスにしっかり出勤しろ。
おおかたクリスタに会いに来ているだけだろうが。
まぁそれも、私の思惑通りだ。」
「…バレてら…」
図星を突かれ、レノは詮索をやめた。