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クリスタの業績は日に日に上がっていた。
入社してからすでに3ヶ月。今夜もレノとルードが誘ってくるのを振り切って、交渉に出かける。
夜が深まった頃、全てが終わってホテルを出ると、月がまんまるに登って、神羅ビルを照らしていた。
今日の交渉も、成果は上々。
できれば食事だけで終わらせようと踏ん張ったものの、無理であった。
もう、初めから情事に持ち込んだ方が時間も早くて楽なのではないかとすら思うようになった。
以前の業界じじぃよりは、遥かにマシなプレイだったけど、
そんなところを日々比べる自分に嫌気がさしていた。
今までなかった感覚が芽生えていることが、とても気色悪かった。
華奢なストラップの赤いドレス。
その裾がよれているのを見て、自分の心を投影し、涙が出そうになった。
ただただ辛かった。
ずっと追いかけてきた人たちがオフィスにいて、普通なら一緒に夕食をさせてもらって。
いろんな現場の話を聞いて。
レノのこと、ルードのこと、ツォンのこと、みんなの癖、戦術、得意な魔法、思い出話、武勇伝。
知りたいことがたくさんあるのに。
一向に減らない、むしろ増えていっているような気さえする交渉業務と比例して、
クリスタの、メンバーに対する慕情も高まっていく。
重い足取りで駅の方へ歩いていると、知らない女が話しかけてきた。
「お姉さん、大丈夫?元気、ないの?」
綺麗な瞳をしたピンクのワンピースの女。
かごいっぱいに白い百合のような花を入れている。
オフィスの入り口の花と同じだ、とぼんやりと思った。
「お花って、元気出るよ。
いつもこの辺で売ってるんだけど、特別に、あげるね。」
はい、と、後ろで雑に結んできた髪にその花を挿し入れ、
にっこりと優しく笑って、女は去っていった。
百合の香りに少し心癒されながも、
浮かない表情でドレスをはだけさせて歩いているクリスタ。
気づくとその周りを、男たちが囲んだ。
「よぉ、姉ちゃん。
そんな綺麗な格好して、何してんだよ。」
身体の大きい、見るからに屈強そうな男が筆頭となって話しかける。
ニヤニヤと下品に笑う男たちは、オーラまでギトギトしていて鬱陶しい。
アバランチの大男が、記憶から蘇ってきた。
「…これのどこが綺麗なのよ。」
「ぁあ?そんな格好して、威勢がいいんだな。誰に向かって口きいてんだぁ?」
「……誰に?」
クリスタの虚ろな目の奥が、薄く光る。
「あんたに決まってるでしょ!!」
言うと同時に浴びせたのは得意な回し蹴り。
放つと、周りの数名の男も襲いかかってくるが、クリスタにとっては動きが遅すぎる。
全ての男たちを余裕でかわして、間合いを取る。
「ぐ…!くそぅ…強い…。おい、ずらかるぞ…!」
「逃がさないわよ。」
そのまま逃しておけば良いものを、もう自制が効かないクリスタは男たちを執拗に追い回して、
全員を血祭りにあげた。
「はぁあああああああああ!!」
最後の一人を殺して、もう標的の何者もいなくなったと判断した瞬間、
ふと、我に返った。
「…へ………?」
汚い路地の行き止まりになった一角が、血の海だった。
そのまま、あの夜のように、地面にへたり込んだ。
血糊が、足に絡みついて、その奇妙な温かさは逆に寒気を呼ぶ。
「クリスタ。」
背後から、知っている声が聞こえる。
瞬間、涙が止まらなくなった。
「ツォンさん…!!
私……無差別に、人を殺しました…。ぅああああああああああああああああ!!!!」
赤い海に向かって叫ぶように、クリスタは泣いた。
髪から落ちた白い花が、海を泳いで赤く染まった。
隣に佇むダークスーツは、肩を抱くこともできず、立ち尽くす。
真っ赤なドレスが、血塗られ始めたクリスタの心を表しているかのようにも見えて、
明らかに普通じゃない精神状態の女に、かける言葉も見つからない。
例えばレノなら、こんな時になんと言うだろう。
この娘をどうするだろう。
そんなことを考えた。
全てが裏目に出ている。
それだけが、明瞭にわかった。
ツォンは携帯電話を取り出すと、
「隠蔽班、頼む。
八番街のラブレス通り。2本目を一番奥まで進んだところだ。」
神羅の隠蔽班を要請した。
「私、アバランチと…同じでしょうか…」
震える声で、クリスタが呟く。
血の臭いが思い出させるのが、タークスの優しさと言うことだけが救いだった。
しかしそれに比べ、自分が犯したことが浅ましく、嫌になった。
心の中で、レノを呼んだ。
しかし、髪を撫でるあの優しい指先の感覚は、クリスタには戻ってこなかった。
きっともう、汚れた仕事に消されてしまったのだ…、そう悟った。
「クリスタ…。
お前は、アバランチなんかじゃない。」
程なく到着した隠蔽班が、速やかに死体を回収し、血の海を洗った。
立ち上がることのできないクリスタに肩を貸すと、
クリスタの方から、ツォンの首元に腕を絡みつかせた。
背中を優しくさすると、震えながら訴えた。
「ツォンさん…
私は…いつ本当のタークスに…なれるんでしょうか…もう…私…」
その先を言わせないように、強く抱きしめた。
「…家まで送ろう。」
黒い車の後部座席にクリスタを乗せ、ミッドガルを走る。
虚ろな表情で、ハイウェイからの景色を見ると、機械だらけの街が浮かんだ。
工場の光が綺麗だなぁ、とぼんやり思いながら、優しい運転に身を委ねた。
助手席に、白い花が飾ってあるのが見えた。
「ツォンさん。
その花、好きですね。」
質問するでもないその口調に、ツォンは何も応答しない。
応答しないこともどうでも良いと言わんばかりに、窓の遠くを見つめているクリスタがミラーに映った。
会話なき車がそっと路肩に泊まると、そこはクリスタのマンション。
「明日は、無理に出勤しなくていい。
特別要請のこともあるから、報告書は私が書いておく。」
そう言いながら、シートベルトを外す。
「…ありがとうございます。
でも、行きます。次の準備もしなくてはなりません。それに明日も、交渉があるんです。」
聞くと、ツォンは車を降りて後部座席の扉を開けた。
「…今日のことは忘れて、よく眠れ。」
ありがとうございます、と車から降りて、マンションの自動ドアまで進む。
深く一礼して、ロビーへと入っていった。
おやすみ。
そう見送って、ツォンは車を出した。
向かったのはオフィス。
隠蔽の書類構築と、
本日の交渉内容の改竄をするために。