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同じ部署の女なんて、どちらかといえば嫌いだ。
傲慢・強情・高飛車。
そんでもって大抵役立たずが通例。
確かに普通の女よりも皆はるかにスペックは上だが、俺にとっては戦力にも精力にもならねぇムカつく女ばっかり。
仕事は汚きゃ心も荒む。こんなところに不二子のようないい女なんていないし、初めからある程度汚れていないとここには入っても来れないだろう。
そして、3日前。
また来ちまったんだよなぁ、新人ちゃんってやつが。
これ見よがしに高級ぶってる社内では、
革靴の足音が妙に響く。
焦ってるヤツは基本いなくて、優雅さと気品を保ったフリをしながら、地位を築くのと同じように、コツコツと足音を積み上げてやがる。
汚ねぇやつらってのは、これがうまい。
キレイな足音を立てやがるんだ。
デスクPC業務も完璧な姿勢でそつなくこなす。
女は大抵マニキュア。キーボードをたたく美しい指先。
一番キレイで一番キライなのは、エンターキーの押し方。
おめーはどこの気取ったピアニストだ、と。
-ピン-
エレベーターがオフィス階で止まると、
主任が毎度生ける花が盛大にお出迎え。
俺も大理石でできた廊下で、足音を高らかに鳴らしながらご出勤、と。
今日は、現場で社長の護衛をするやつらが多いが、
俺と、相棒のルード、そして例の新人はオフィス。
俺はレポートを出してないからってことで、オフィスで作業。
相棒まで巻き添えでオフィスになっちまった。
「ルド~、はよ。」
書類整理をしている斜め前の席の相棒。
「…レノ。朝からちゃんと出勤、偉いな。」
「おいおい、朝からご挨拶かよ、と。
ん?朝だからご挨拶なのか?
…ってちげーだろ、おはようっつったらおはようだろ、と〜。」
「…悪かった。おはよう。」
「へへへへ」
「…ふ。」
俺らはツーカー。
男同士だが夫婦漫才と言われるくらいには仲が良い。
誰よりルードを信頼しているし、こいつに敵うやつはいない。
始まる一日に、ふぅと軽く溜め息をついて、
自分の椅子を引くと、相変わらず汚れたデスク。
俺は現場が好きなんだ。
なんだってこんなに報告書を山積みにしちまったもんかねぇ。しかし、いつになくすげぇ量だな。
現場にいけば楽しい。楽しいから現場にたくさん出る。でも、その分デスクワークも増えるわけで。
「ったくよぉ…めんどくせ。」
「…レノ。今朝主任が、報告書をすべて上げる日まで現場はない、とお前に伝えろと。」
「ぐぇ~、ツォンさん…!マジで勘弁してくれよ~…
何ヶ月も前の現場なんて覚えてないぞ、と。
そもそも会社ももういらねぇだろそんなの。」
「……。」
ルードの眉間に深いシワが刻まれ、
サングラスの向こうから俺をじっと見ているのがわかる。
「…ぁ~~…もう分かってるっつーの。
愚痴くらいはかせてくれよ、と。」
ルードが真面目でよかった。
つ〜か室内なんだから、サングラス取りゃいいのにな。真面目だけど、変なやつ。
書類の山に目を通すと、見覚えのない現場の書類があった。
「…あ?…リッチグランドホテル壱番街…?」
「あぁっ!!」
現場を読み上げると、隣から凄まじい勢いで手が伸びてきた。
「ごめんなさい。これ、私の書類です。」
見れば同じくらいの書類の山に埋もれた隣のデスク…。
新人クリスタちゃんのご登場ですよ、と。
「…はよ。」
「あっ、おはようございます!
すみません、挨拶もせず。
本日も宜しくお願い致します。」
今日も美しい姿。
こりゃタークス一、いや神羅一の美人かもしれない。
しかしすごい情報量を取り扱っているようで、俺より先にこいつの書類の雪崩が押し寄せて来たってわけだな。
「…はいよ、と。」
そう俺が返事をするより先に、目線はPCに戻っている。
その意識がPCに集中していくにつれ、口許が半開きになっていく。
そして、マウスを連打。眉間には、シワ。
明らかに、何かトラブってる。
「……何してんだよ、と。」
「あ。あの…あああ〜!」
話しかけたらさらにテンパらせてしまったらしく、書類がハラハラと落ちる。
「ごめんなさい…!」
ワタワタと書類をかき集める。
「…ちょ…お前…落ち着けよ、と。」
思わず笑いが込み上げた。
拾うのを手伝うと、別の高級ホテルの書類がまたある。
「わぁぁ…す…、すみません…」
「俺もデスクは嫌だけど、お前よりは多少分かるだろうから、
何かあったら聞けよ、と。」
「へ…!ありがとうございます、レノさん!」
…俺は何を言ってるんだ。
人に教えるなんてまっぴらだっつーのに。
ルードの眉間にもまたシワが寄った。
「レノさん、このシステムがうまく作動してくれず…」
「どれどれ」
どれどれじゃねーよ、俺。
もはやルードが吹き出しそうになってしまって、咳払いをするフリをした。
それでも美人に聞かれたら答えてやるしかない。
デスクは嫌いだが、機械もバトルもピカイチなのがレノ様。
「すご、レノさん…」
「あい、そこでエンター。」
と、少し緊張しながらも、ポチっと優しく凹まされたエンターキー。
「あ、できた!」
指先も表情も、軽やかさに染まってた。
今までで一番好きなエンターの押し方かもしれないと思った。
そして、嫌みのないタイピング音が隣から流れてくる。
俺も、真面目にやってみるか、と。
この新人は、どうやら事務専門で入ってきたタークス見習いで、
まだ現場で一緒になっていない。
噂によると、実技も頭脳も首席入社ってことで、俺は早くこの美人が闘っているところを見たい。
「なぁ、また俺の知らない書類出てきたけど、お前の?」
ぷっくりとした唇をすぼませて、きょとんとしている。
「ほれ。また高級ホテルが現場だぞ、と。」
「いやん、じゃぁ私です~ぅ…」
「…いやん、て。」
また、不覚にも笑ってしまった。
「気を付けろよ、と。
同じタークスだからこそ、気を張れ。
情報の扱いは特にな。」
「あ…!
すみません、ご指導ありがとうございます。」
真面目。
書類を両手で受けとると、紙面に額をつけるようにして会釈した。
デキるんだか、抜けてるんだか。まだ全然分かんねぇ。
「ちなみにそこのプログラミング、
たぶん、間違ってるぞ、と。」
「……げ。
ってちょっと!
自分から勝手に見ないでください!
頭の中見られてるみたいで恥ずかしいです!」
クールなんだか熱いんだか、
それすらもまだ全然分かんねぇ。
「それ、ツォンさんに言われてやってんのか?」
「はい。直々のご命令です!」
誇らしげに言う姿が新人ちゃんって感じで初々しい。
主任から直接の仕事、か。
こりゃ主任も随分お気に入りのようで。
直下に置きたい、すげぇ奴なのかも…なんて期待をしちまう。
確かに他の女たちとは雰囲気は明らかに違う。
心根が良く、素直で、汚れていない。
それは俺にとっては、心配な要素でもあるが。
「私、タークスになれて本当に嬉しいんです!」
な、素直すぎて美人がアホ面になってる。
満面の笑みでプログラムを続けるのが可愛すぎるから、からかってやろうっと。
「浮かれてるとまた間違うぞ、と。
タ ー ク ス 見 習 い ち ゃ ん 。
あ、ほら、そこ。」
「…げ。」