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久々のヘリの操縦に悪戦苦闘しながらも、クリスタはカームにたどり着いた。
街は案外綺麗なままで安心した。
しかし、戦闘しているようなタークスの姿が一つもない。
「みんな…?」
大声で仲間の名を呼ぶわけにもいかず、ダークスーツを探した。
物陰に隠れながら、各家の窓から中の様子を伺う姿はさながら忍び。
安全を確認しながら、我が家へと足を進める。
壁伝いに歩いて、お店のカウンター付近の窓から中を覗くと、アバランチが大勢で溜まっていた。
我が家は、アジトにされているようだ。
入り口前には大きな銃を構えた男が立ちはだかっていて、
タークスが入ろうものならすぐに発砲するだろう。
奥のテーブルでは、作戦会議のように輪を作って話し合う者たち。
そのさらに奥の角に、母親を見つけた。
―――ママ…!
両腕を椅子に縛られ座らされている。
その表情はいたって冷静で、恐怖に怯えているわけでもなく、怒りに震えているわけでもなく、
ただ時間が過ぎるのを待っている、というような空気だ。
どのように攻めるか、どうすれば良いか、そもそもレノやルードはどこにいるのか。
そんなことを考えていたら、母と目が合った。
「…!!!」
さすがに反応を示してしまった母親に、アバランチが振り向く。
「…ぁあ?どうした、おばさん。」
「…いいえ。何でもないわ。」
「嘘つけぇ。何だぁ?神羅でもいたかぁ?
あいつらなら、尻尾巻いて逃げたぜぇ〜。はっはっは!」
「…あらそ。あなたたちも、神羅の人たちも、迷惑なのには変わりないんだけど。」
「ぁあ!?なんだとテメェ!あいつらと一緒にすんじゃねぇ!!」
そう言って、詰め寄り、母の髪の毛をぐっとつかんだ。
「やめなさい!!」
手薄になった入り口から堂々と入って、銃を構えた。
母が今にも泣きそうにこちらを見た。
それにはあえて反応せず、母の髪を掴む男を真正面から睨みつけた。
「ははん、タークス様かよ。
何だぁ?お嬢ちゃん、もしかして、はぐれたのかぁ〜?」
――バン!
床へと放って威嚇した。
「汚い声でお嬢ちゃんと呼ぶな!!!」
反射的な怒りがこみ上げてしまった。
「生意気なやつだ。これだけの人数に、一人で向かってくる度胸は買おう。
だが、人生は一度きり。命落としたら、そこで終わりだ。
神羅の人間ってのは本当に、誤った選択をしてばっかりだなぁ。
あと数分しかないその小〜さな人生で、大いに悔やみやがれ。」
相手がそう言い終わる瞬間に高速移動をして、
輪を作るアバランチたちの頭上を華麗に舞い上がると、
胸元に入れていたナイフで母のロープを切った。
「親子なこと、隠して。」
小声で言うと、母を見つめて、片方の口角だけを上げて笑った。
「この人は、逃してあげて。」
美貌とは裏腹、凄まじく俊敏な身のこなしに、誰もが一歩引いて動けずにいた。
母親は、急いで地下室へと向かった。
足音を感じ、地下へ入ったことが分かると、クリスタは身構えた。
「さぁ、誰からくるの。」
久々に戦闘の高揚感が戻ってくる。ナイフと拳銃だけを武器に、どこまでいけるか。
「私のジャンプに敵うかしら。」
言うと、店内の高い天井ギリギリまで飛んで、上空から弾丸を放った。
――パン!パンパン!パン!!
「ぐわぁあ!」
「くそ、退くな、退くな!殺れぇええい!」
襲いくる屈強な男たちをかわしながら、しなやかに舞う。
あっという間に3分の1を蹴散らし、肉弾戦は続く。
大男たちに囲まれ、目の前の一撃をしのぐことにいっぱいいっぱいになってきたとき、
ついに一突き、クリスタに命中してしまった。
「うっ!!」
ずっしりと重い拳が、鳩尾に食い込む。
吹き飛ばされて壁に打ち付けられると、そのまま床にしりもちをついた。
そこは、あの夜、へたり込んでしまったところと同じ場所だった。
「ぐぁははははぁ!!調子に乗るからだ。」
マシンガンを構える男が笑って、がっちりと銃口をこちらへ向ける。
さすがにあれを打たれたら、終わりだ。
「おやおや、と。」
時が止まった。
「随分ド派手にやってるな、クリスタちゃん、と。」
ゆっくりと、余裕の表情を見せながら店内へ入ると、
あ〜らよ、と と言いながら、マシンガンの男にビームを放った。
「レノさん…!」
「一人でいいとこ取りなんて、ずるいぞ、と。
なぁ、ルード。」
「……美味しいものは分け合おう。」
台本でもあるかのように、息の合った二人の呼吸。
また、ヒーローが、来てくれた。
私の、ヒーロー。
「まだ、やれんだろ、と。」
ロッドで左肩を叩きながら背中で聞いてくるレノに、応えた。
「余裕です。」
言いながらすっと立ち上がると、
顔が見えてないのに、
レノが笑ったのが分かった。
共同戦線、開始――――!
「どぅおりゃぁぁああ!」
レノは、クリスタより遥かに俊敏な動きで、左手に持ったロッドを効果的に使う。
あれはスタンガンのように電気が流れるようで、浴びせられたものが次々と痺れて倒れていく。
ルードの拳は強烈で、一撃で次々とノックアウトにしていく。
そこにクリスタの上空からの攻撃が加わる。
店の中だけでは足りずに、アバランチを店外へ誘い出すと、街中で身を潜めていた兵が現れる。
そして、タークスの応援も増え、一気に街の外側へと攻め上げていく。
「ぉおっと!あっちもこっちも、すげぇ数がいたもんだなぁ。」
「……カームの面積が足りないな。」
「でも足りてるぞ、と。」
「……確かに。」
冗談を言いながら、レノとルードは確実に敵を堕としていく。
「クリスタ!!」
店から、母親の声が聞こえた。
と、同時に上空を伝って渡されたのは槍だった。
「ありがとう!」
母は地下室から、クリスタが昔よく練習に使っていた槍を取りに行っていたのだ。
「なるほどな、と。
クリスタお前、だから飛べんのか、と。」
「はい!!竜騎士ってやつです!
まぁ、タークスでの使い道が今のところ、ないですけど!ね!!」
槍で敵陣を突きながら、レノと会話をする余裕がクリスタにもあった。
「忍者じゃなかったのかよ、と」
「残念でしたぁ〜」
槍を使って、さらに上空へ舞い上がる。
指令を下しているリーダーらしき男を目掛けて、降る。
「どわぁあぁあああああ!」
クリスタの一撃で、ほとぼりが冷めたかのように、あたりは静まり返った。
アバランチの雑魚たちは、慌てて街の外へ逃げていく。
「…すんげ…。
首席ってのは、本当だったんだな、と。」
「キャァアアアアアアアーーー!!」
突然聞こえた悲鳴は、店からだった。
母が危ない、直感でそう思ったクリスタは、レノとの会話を遮って走った。
それを追いかけるレノとルード。
店内では、一人、生きていたアバランチが母を脅していた。
「やめなさい。」
キッというクリスタに、ニヤリと笑うアバランチの男は、母親の首に手を回してがっちりと押さえつける。
男の体には、大量の爆弾が巻かれていて、導火線にはすでに火がつけられていた。
さらに母のこめかみには拳銃まで向けられていた。
「離しなさい。
その人は、神羅とアバランチとは関係ないでしょ。」
「いや、あるねぇ。このおばさんはさっきテメェにその槍を渡したろう。
神羅の味方なんだよ、そんなの簡単に分かるじゃねぇか。
生かしておくと、後々面倒だなぁと思ってなぁ。」
導火線がじわじわと、男に近づく。
止めなければ。早く止めなければ、母が一緒に…
「お久しぶりです。」
背後から、男の人の声がした。
「ツォン…さん…」
「遅くなってすまない。
さぁ、私たちはもうこれで退こう。人質ごっこはやめて、一般市民を解放してくれ。」
ツォンは言いながら、クリスタたちの前に出て、最前で相手と対峙する。
「はぁ?人質じゃねぇ。俺はこいつを殺すために自分も死ぬ。それだけだ。」
ニヤつく男が気持ち悪かった。
母は、近づく導火線を見て、冷や汗と涙が止まらなくなっている。
「理解に苦しむ。それに何の意味があるというのだ。
今ここで、お前のような虫ケラと、何の力もない一般市民が死んだところで、我々は痛くもかゆくもない。
そんな大量の爆弾が爆発すれば、この街の半分は壊滅し、アバランチのせいでダメになったと、
結局民は我々神羅の味方をすることになろう。
君の行動は仇になる。そう思わないか?」
「ツォンさん、早くしろよ、と!やばいって!」
小声でレノが叫ぶ。皆、同じ気持ちだった。
説明的な長話はいいから、早く動いてくれ、そう思っていた。
不思議に思ったクリスタは、ツォンの背を眺めると、そこに思惑が見えた。
ツォンは、後ろで組んだ手のひらの中に、裸でマテリアを持っていた。
緑色のマテリアの奥の方で、青白く結晶が見えた。
――ブリザドだ…!
これはきっと、ブリザドに違いない。そう思ったクリスタは素早く手のひらからそれを取った。
レノとルードも全て察して、母の救助と、拳銃の発砲を防ぐべく、密やかに身構える。
「…であるからこんなバカなことはやめて、さっさと本当のアジトへ帰るのだ。
立て直せば、次こそは神羅ビルを穿つことができるかもしれない。
なぜそこに希望を見出さないのだ。全く理解できん。」
「…よくあんな心にもない言葉がペラペラ出てくるもんだ、と。」
「さぁ、その人を離すのだ。そして自分自身も救え。
氷漬けにして固まるのが嫌だったら言うことを聞くのだ。」
導火線は、あと30センチ…。
相手にはいよいよ話の意味がわからなくなってきたのが見て取れ、銃口がこめかみからズレ始めた。
ツォンはそれを見逃さない。
「クリスタ!!今だ!」
「ブリザド!!」
導火線へ放つと、あっさりと火が消える。
「あらよ、と!」
光の速さでレノが母を抱き上げ、ルードが男の拳銃を取り上げる。
そしてツォンが拳銃で、倒れてゆく男の脳天を貫いた。
――パン…!――
また、BREEZEが、アバランチの血で染まった。
レノが、壁際のソファ席に母をゆっくり下ろすと、母は衝撃で気絶していたが、傷一つなかった。
母が無事であったこと、毅然としていられたこと、それに安堵を覚えて、別の意味でその場にへたり込んだ。
そこにレノが歩み寄ってきて、隣であぐらをかき、肩を抱いてくれた。
「大丈夫か。」
あの夜と同じように、優しい声でレノが言う。
「はい。」
何故だろう、すごく気持ちよく微笑んでしまったような気がする。
また、タークスに護られて、優しさをもらった。そして自分がそこにいた。
クリスタが妙に笑うのを見て、レノは不思議がっていた。
「変なやつ。」
優しく、髪を撫でてくれた。