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レノが操縦するヘリは、カームを背にしていた。
「ったく、何で無線がダメになるんだ、と。」
「…不運だ…。」
ルードもうなだれる。
「仕方あるまい。
無線だけでなく携帯の電波もおかしい。
街を離れてもそのままだ。」
おかしくなった携帯を開けたり閉めたりして、
ツォンは窓から、遠く浮かぶミッドガルを見ていた。
カームで電波障害を起こしているのは、アバランチ。
戦況としては勝機もあったが、今回は広域で指示が必要なため、主任であるツォンがいる場所でメンバーと連絡が付かなくなることは痛い。
タークス多数がまとまってカームを襲撃することが現場で決まり、無線はじめ、準備を整えるべく本社へ急ぐ。
レノは、操縦しながら、
心のなかでクリスタを思っていた。
ーー心配しないでそこにいろよ、と。
そして、本社に戻る道すがら、ツォンに問う。
「ツォンさん。
クリスタのことだけど…。」
ツォンは、うるさいヘリの中で、しっかりとクリスタの名前を聞き取り、…こんな時に…と思いながら話を聞いた。
「あいつ、本当にただの事務か?」
ツォンは何も言わない。
騒音の中のこの環境でも一言一句がするどく耳に入ってくる。
ルードも心配そうな面持ちで、黙って話を聞いていた。
「……何か隠してるだろ、と。
事務配属なのに、夜は現場行くのか?
つぅか事務専門の配属とか、あんのかよ、と。」
「…業務内容については話せない。」
「本当は何要員なのかは話せるだろ。」
「………。」
「…ったく。
心配だぞ、と。」
ため息混じりに言うと、そこから会話は無かった。
ヘリが本社に到着すると、ミッドガルの様子を伺う。
どうやらそこまでの打撃は無いように見える。
レノは、やられた無線を取りかえにオフィスへ入った。
「はいはい~ご心配お掛けしましたクリスタちゃん、と…」
返事はない。
「……?」
レノの隣のデスクは、
PCはそのまま、ヘッドセットも携帯も置いたままで、
ただ、クリスタだけ、忽然といなくなっている。
「おい!!クリスタ!!!!」
レノは、部屋中を探そうとしたが、そんなことをしなくてもわかる。
気配がないのだ。
PCを見ると、カーム地域が劣勢で真っ赤になって、HELPのマークまでついている。
「…クソ!」
慌ててオフィスを飛び出し、電波状況を見直すツォンの元へ駆けつける。
血相を変えたレノが叫んだ。
「ツォンさん!!
クリスタがいない!!」
ツォンにも衝撃が走り、
驚愕した表情を浮かべた。
「…何……だと…!?」
「きっと俺たちを心配して追いかけてやがる。
カームがあんなに真っ赤っ赤で、無線も携帯も通じなくなっちまったから…!」
ーーでも、どうやって?
レノは、クリスタの思考回路を辿ろうと、
指先でロッドをカツカツと叩いたが、答えに辿り着けない。加えていつになく不安げでそわついているツォンに苛立ちが隠せず、声を荒げた。
「なぁツォンさん!
やっぱりあんたおかしいぞ、と!何だってあいつを変に特別扱いするんだ!?まるで誰にも見られたくない宝石を隠し持ってるみてぇによ!戦線に置きゃぁいいだろうが!!」
ヘリポートの風が、レノの怒鳴り声を北へ運ぶ。
生暖かい強風に負けじと叫んで、ツォンに詰め寄る。
「おいツォンさん、何とか言えよ、と。あいつが配属されてからもう4ヶ月は経つ。最前線は愚か、同じ現場すらねぇ。俺らが死に急いでる間、あんたあいつにオフィスで何をさせてんだ?気味がわりぃよ!ああ、お陰で俺はオフィス勤務が楽しみだ!報告書だって締切までに仕上げられてらぁ!!けどそんな下らねぇことが事務配属の理由じゃねぇだろうよ!?あいつは勤務後、飯に誘えや毎回毎回これから現場だっつって夜の街に消えていくんだ!何させてんだよ!!それであいつの心はどんどん孤立していってる!だからこんなことに…」
だからこんなことになるんだ。
そうレノが言いかけたとき、ツォンが静かに、熱い口調で言葉を放った。
「彼女は…!」
ツォンの顔が、悲痛に歪む。
「彼女の運命は…私が狂わせてしまった…!」
涙さえこぼれそうなほど、ツォンはうつむいた。
こんな表情をするツォンを見たことがなかったレノは真意を読み解こうとするが、そんな検討つかずの回答に困惑した。
「……なんだって?」
うつむいたツォンが、目だけでレノを捉える。
「レノ、覚えているか。
もう5年半近く前になる。」
「…は、そんな昔のこと…?
もっと分かりやすく説明してくれよ、と。」
レノの表情も、つられて歪む。
「…カームの夜…」
「…カーム…?」
レノは、ツォンほどあの事件に敏感ではなかった。
脳の中を探ったが、アバランチが一匹暴れ、痛ましい犠牲者が出たことしか思い出せない。
「…分からないか…。」
「…わりぃけど、それとクリスタは、俺の中じゃ何も繋がらないぞ、と…。」
タークスの現場はいつだって痛ましく、
あの事件が際立って痛ましかったかと言われれば、他と同等ではないかとレノには感じられる。
「でも、ひとつだけ分かったぞ、と、ツォンさん。
あんたやっぱり、クリスタと仕事の間におかしな感情挟んじまってる。だからこうやっていつか歯車が噛み合わなくなるんだ。」
ツォンには返す言葉が無かった。
その通りだと思った。
心を締め付けられるようなレノの言葉を飲み込む。
「レノ……クリスタを頼む。」
ツォンはそれだけ言い、オフィスへ入ろうとした。
互いがすれ違う時、レノが告げた。
「…ツォンさんは花売りに集中しとけよ、と。
クリスタは…俺がもらう。」
「ふん、好きにしろ。」
背中で会話をして、
レノはヘリ、ツォンはオフィスへ走った。
『全てのタークスへ告げる。
作戦変更。今すぐカームへ向かい一斉攻撃を開始する。
現在の劣勢はカームだけだ。
各自現場を今すぐ片付けて、カームへ集まるように。
私はしばらくオフィスでまとめる。
不安があるものはすぐに応答、相談せよ。以上!』
「了解ぃいいーー!っと!
行くぞ、ルド~!暴れるぞ、と!」