Heroes
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–––– 5年前。
「嗚呼、これは殺ったか…」
そう想像させるような、
澄みに澄んだ銃声がカームの街に響いた。
[ BAR BREEZE ]
街に住む家族が経営する、そこそこ人気のバー。
銃声は、そこから聞こえた。
店の出入り口が破裂するほどの勢いで、人々が悲鳴とともに飛び出していく。
違う建物からは、人々が集まってきて、店の周りは逃げるものと野次馬とでごった返していた。
「何があったんだ?」
そんな声がざわざわと平和なはずの街にシャワーのように降り注ぐ。
店内のカウンターでは、マスターと家族がガクガク震えていた。
その目の前の席では、かろうじて息が残るダークスーツの男が胸元を押さえて苦しんでいる。
傷口からは多量に血が滴り落ち、血溜まりにはカウンター席が映り込むほどであった。
「ぐっ…クソ…貴様…!アバランチ…!」
呟きながら、スーツの男は額に脂汗を滲ませる。
オールバックを後ろに結んだ黒髪は乱れ、カウンターに肘をつきながら、痛みを堪えていた。
アバランチと言われた大男が笑いを含ませながら口を開いた。
「はーっ!違うねぇ!
俺ぁもうあんな所とはオサラバしたんだ!」
言うと、再び銃を発砲した。
店の綺麗なグラスのディスプレイが、それは美しい音を立てて砕け散り、電気コードを直撃して照明が落ちた。
「キャァァアアアアアーーーー!!!!」
叫んだのは若い女だった。
この店の看板娘。
そのまま床にへたりこむ。
目から滝のように流れるのは、涙などという情緒あるものではなく、ただの水のようだ。
緊迫と恐怖だけしかないそこで、干物のようになる気がした。指先から瞬く間に冷えていく震える身体は制御できない。
大男の銃口だけが、ほのかに橙に浮かぶ。
「ああ、俺ぁ確かにかつてはアバランチの一員だった。てめぇみてぇな黒いスーツの奴らとも殺り合ったことがある。薄汚ぇ犬ども。」
突然暗くなった部屋を埋め尽くすのは、
血の臭いと、この汚ならしい声。
「だがよぉ、俺みてぇなデクノボウは、すぐに役立たずさ!神羅さまの雑魚兵士たちをぶっ殺したくらいで喜んでたんじゃぁなぁ!
アバランチは英断しかしねぇ。だから俺はよぉ、アバランチが俺を切ったことは恨んでねぇんだ。その代わり、てめぇら神羅の顔を見ただけで虫酸がはしらぁあ!くらえぇえええ!!!」
ーーバン!ババン!
―――――――バン――――ッッ!
大男は投げやりに発砲すると、
そのうちの一発が、奇しくも店のマスターの首をかきむしった。
信じられないほど遠くへ、動脈血管を突き破った血液が舞う。
娘の方を目掛けて飛び散るそれは、
父が最期に娘を抱き締めようとするかのように、非情で、鮮やかだ。
本当は見たくもない。
しかし、一度銃声に見開いてしまった目が閉じてくれない。
身体も心も、制御がきかない。
暗くなったばかりの部屋なのに、五感の全てから、情報が明瞭に入ってきてしまう。
鮮血が娘に届くかどうかの所で、
何か別のものが娘を覆った。
暗がりに浮かぶ、血ではない、赤いもの。
「遅かった、と…!
おい、大丈夫か。」
そう、男の人の声がする。
赤い髪の毛の男が。
娘を強く抱きしめて話しかけている。
もう喉はカラカラで、応答なんてできない。
その肩越しに、
大男に向かって銃を構えるスキンヘッドの男が見えた。
赤毛の男が耳元でつぶやく。
「…目をつぶれ。
お嬢ちゃんは、この先は見るな。」
抱かれた温もりと、現実から逃れたい気持ちとで、
言われた通りに目をつぶると、自然と意識が遠のく。
遠くなった現実で、
父が苦しそうに叫ぶ声と、
恐らく大男が撃たれたであろう銃声を聞いた。
完全に意識がなくなるまで、ずっと髪を撫でてくれている指先があった。
暗がりに浮かんだ赤い髪は、
返り血だったのかもしれない。
大きな温もりを感じながら、娘は意識を手放した。