泡沫星夜
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出会いは5月のはじめ。
この学園に夜久以外の女子が転校してくることに驚きはしたものの、特に気にすることではなかった。
星座科に転校してきた。
名前は苗字 名前。
席が隣になった。
授業についていくのに精一杯らしく手伝ってやろうと思った。
人の好意に素直に甘えるところがいいと思った。
自分で教えると言いながら部活に行く時間が遅くなるなと思った。
それは白鳥も同じだったようで苗字に教えながらチラチラと時間を気にしていた。
「ね、ねぇ。この学園には部活はないの?」
そんな俺達に気付いたのか苗字が言った。
「私、前弓道やってたからここでもやりたいなって思ってたんだ」
そう言われ、俺も白鳥も部活に行けることに喜びを感じていた。
そんな何気無い気遣いは夜久と同じだな、と思ったんだ。
弓道の腕前は自分からやりたいと言うだけあって上手かった。
6月に入って木ノ瀬が部長に連れられ見学に来た。
苗字の弓を見て、入部を決めたらしい。
関係ない、そう思った。
俺にはライバルがいる。
1年の時から一緒に部活をし、励まし合ってきた相手。
夜久。
いつしか夜久に対して特別な感情を持っていたと思う。
だから気にすることではなかった。
別に苗字が木ノ瀬と話していようが関係なかった。
関係なかったはずなんだ。
教室でよく話すようになり、たまに見せる寂しそうな顔に気付いた。
でも俺達の視線に気付くとすぐ笑顔を作り、悟られまいとしていた。
『そんな顔をするな』
と言いそうになった自分に驚いた。
もうこの時既に俺は苗字に惹かれていたんだろう。
7月のある日、食堂でお菓子を作っている苗字を見つけた。
楽しそうにしながら時折…寂しそうな顔をして。
甘い香りが満ちる頃には多くの生徒が集まっていた。
そこに木ノ瀬も居て俺にだけ小さく言った。
『宮地先輩は夜久先輩が好きなんじゃないんですか?』
何も答えられなかった。
『名前先輩も譲れないなんて我儘ですよ』
苗字も……譲れない…?
木ノ瀬の言った言葉はすぐに理解出来なかった。
俺には特別に思う相手が居て、そいつを見ているはずだ。
木ノ瀬の言葉で押し黙った俺に聞こえてきたのは騒がしい音。
「お前ら黙れ!!」
そう叫ぶと苗字は少し驚いた顔をしてすぐに笑った。
集まった全員に作ったお菓子を嬉しそうに配っていたが…
一瞬、ほんの一瞬だけ
あの寂しそうな顔をしたんだ。
その表情が俺の脳裏に焼き付いて離れない。
いつだったか、白鳥が言っていた言葉を思い出す。
『恋に落ちるのは一瞬』
聞いた時はありえないと思っていた。
そんなことはありえないと思っていたのに…。
瞼を閉じれば思い浮かぶのは苗字のあの表情。
寂しそうな顔をするくせに誰にも頼ろうとしない。
そんな所が夜久と似ている気がした。
食堂の一件から、苗字の周りに学年問わず人が集まるようになった。
人と話している時は楽しそうにしているのに、どこか困ったような、寂しそうな顔は消えなかった。
部活をやれるように見えず、本人に直接言うことはしなかったが、体調が悪いから来れないと思うと部長に告げた。
少しすると木ノ瀬と一緒に苗字が来た。
声をかけてもやはり無理しているように見えて俺は
「無理するな」
と苗字の頭を撫でた。
ほとんど無意識だった。
苗字は泣きそうな顔になった。
泣くのを堪えるように「ありがとう」と言って苗字は帰った。
「名前ちゃん…何かあったの?」
「……泣きそうな顔、してましたね」
「食堂でクッキーを作った後からずっとあの調子だ。
いつも無理に笑っている」
「よく見てるんだね、名前ちゃんのこと…」
夜久に言われて気付いた。
苗字のことを見ていることが多いことに。
次の日も苗字は部活を休んだ。
教室に居る時から溜め息ばかりついていた。
どうにも気になるから俺も部活を休んだ。
苗字は屋上庭園にいた。
俺にはわからなかった。
苗字が何に怯えているのか。
俺は知らなかった。
苗字の悲しそうな表情の意味を。
だから知りたいと思った。
話してもらえたら少しでも楽になるんじゃないかと思った。
でも…
「ありがとう」
と
「気持ちだけで嬉しい」
と
断られた。
この時、俺ははじめて…
胸が苦しくなった。
あんなに辛そうな表情をするくせに、どうして誰にも頼らないのか。
どうして頑なに隠そうとするのか。
無理矢理笑顔を作る苗字に俺はこれ以上かける言葉が見つからなかった。
この学園に夜久以外の女子が転校してくることに驚きはしたものの、特に気にすることではなかった。
星座科に転校してきた。
名前は苗字 名前。
席が隣になった。
授業についていくのに精一杯らしく手伝ってやろうと思った。
人の好意に素直に甘えるところがいいと思った。
自分で教えると言いながら部活に行く時間が遅くなるなと思った。
それは白鳥も同じだったようで苗字に教えながらチラチラと時間を気にしていた。
「ね、ねぇ。この学園には部活はないの?」
そんな俺達に気付いたのか苗字が言った。
「私、前弓道やってたからここでもやりたいなって思ってたんだ」
そう言われ、俺も白鳥も部活に行けることに喜びを感じていた。
そんな何気無い気遣いは夜久と同じだな、と思ったんだ。
弓道の腕前は自分からやりたいと言うだけあって上手かった。
6月に入って木ノ瀬が部長に連れられ見学に来た。
苗字の弓を見て、入部を決めたらしい。
関係ない、そう思った。
俺にはライバルがいる。
1年の時から一緒に部活をし、励まし合ってきた相手。
夜久。
いつしか夜久に対して特別な感情を持っていたと思う。
だから気にすることではなかった。
別に苗字が木ノ瀬と話していようが関係なかった。
関係なかったはずなんだ。
教室でよく話すようになり、たまに見せる寂しそうな顔に気付いた。
でも俺達の視線に気付くとすぐ笑顔を作り、悟られまいとしていた。
『そんな顔をするな』
と言いそうになった自分に驚いた。
もうこの時既に俺は苗字に惹かれていたんだろう。
7月のある日、食堂でお菓子を作っている苗字を見つけた。
楽しそうにしながら時折…寂しそうな顔をして。
甘い香りが満ちる頃には多くの生徒が集まっていた。
そこに木ノ瀬も居て俺にだけ小さく言った。
『宮地先輩は夜久先輩が好きなんじゃないんですか?』
何も答えられなかった。
『名前先輩も譲れないなんて我儘ですよ』
苗字も……譲れない…?
木ノ瀬の言った言葉はすぐに理解出来なかった。
俺には特別に思う相手が居て、そいつを見ているはずだ。
木ノ瀬の言葉で押し黙った俺に聞こえてきたのは騒がしい音。
「お前ら黙れ!!」
そう叫ぶと苗字は少し驚いた顔をしてすぐに笑った。
集まった全員に作ったお菓子を嬉しそうに配っていたが…
一瞬、ほんの一瞬だけ
あの寂しそうな顔をしたんだ。
その表情が俺の脳裏に焼き付いて離れない。
いつだったか、白鳥が言っていた言葉を思い出す。
『恋に落ちるのは一瞬』
聞いた時はありえないと思っていた。
そんなことはありえないと思っていたのに…。
瞼を閉じれば思い浮かぶのは苗字のあの表情。
寂しそうな顔をするくせに誰にも頼ろうとしない。
そんな所が夜久と似ている気がした。
食堂の一件から、苗字の周りに学年問わず人が集まるようになった。
人と話している時は楽しそうにしているのに、どこか困ったような、寂しそうな顔は消えなかった。
部活をやれるように見えず、本人に直接言うことはしなかったが、体調が悪いから来れないと思うと部長に告げた。
少しすると木ノ瀬と一緒に苗字が来た。
声をかけてもやはり無理しているように見えて俺は
「無理するな」
と苗字の頭を撫でた。
ほとんど無意識だった。
苗字は泣きそうな顔になった。
泣くのを堪えるように「ありがとう」と言って苗字は帰った。
「名前ちゃん…何かあったの?」
「……泣きそうな顔、してましたね」
「食堂でクッキーを作った後からずっとあの調子だ。
いつも無理に笑っている」
「よく見てるんだね、名前ちゃんのこと…」
夜久に言われて気付いた。
苗字のことを見ていることが多いことに。
次の日も苗字は部活を休んだ。
教室に居る時から溜め息ばかりついていた。
どうにも気になるから俺も部活を休んだ。
苗字は屋上庭園にいた。
俺にはわからなかった。
苗字が何に怯えているのか。
俺は知らなかった。
苗字の悲しそうな表情の意味を。
だから知りたいと思った。
話してもらえたら少しでも楽になるんじゃないかと思った。
でも…
「ありがとう」
と
「気持ちだけで嬉しい」
と
断られた。
この時、俺ははじめて…
胸が苦しくなった。
あんなに辛そうな表情をするくせに、どうして誰にも頼らないのか。
どうして頑なに隠そうとするのか。
無理矢理笑顔を作る苗字に俺はこれ以上かける言葉が見つからなかった。