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ここにいていいよ

物心ついた頃から、私の隣にはいつも静玖がいた。

怖いときも、嬉しいときも。
何も言わなくても、そこにいてくれる人。

「あげは」

そう呼んでくれる静玖の声が優しくて。
それが当たり前すぎて、
私はそれを「特別」だと思ったことがなかった。

——たぶん、静玖も同じだと思っていた。

小さい頃は、みんなで遊んでいた。
鬼ごっこをして、かくれんぼをして、日が暮れるまで走り回って。
その中に静玖がいることに、意味なんてなかった。

でも、気がつくと。

泣いたときに一番に顔を見たいと思うのも。
雷の音に身をすくめたとき、ずっと手を繋いでいてくれたのも。
私が「大丈夫」と言う前に、隣に来ていたのも。

いつも、静玖だった。

「怖い?」

そう聞かれるたびに、私は首を振った。
本当は少しだけ怖かったけれど、静玖がいれば平気だったから。

それを、私は“安心”と呼んでいた。

特別なことじゃない。
ただ、そこにあるもの。

だからその頃の私は、
いつか静玖の隣を離れるかもしれないなんて、想像したこともなかった。


――――――――――――――――


雷が苦手だった。

音が鳴る前の、空気が、湿った風が、どうしても怖かった。

子供の頃からずっと。
大きくなってからも、それはあまり変わらなかった。

夕立に捕まって、動けなくなっていたあの日。

「………っ」

一人、蹲って動けなくなっていた私に

「あげは」

優しい声が降ってくる。見上げた先にいたのは、静玖だった。
静玖は、そのまま私の隣に座る。何も言わずに。ただ、静かに私の手を握ってくれた。

雷の音が遠くなる。私がゆっくりと顔を上げる。

「……もう大丈夫?」

そう聞かれて、頷く。
まだ、怖いけど…平気だと思ったから。

静玖が隣に居てくれるから、平気だった。

「……うん。帰ろ」

私が言うと、静玖が頷く。繋いだままの手を引っ張って、私たちは家路についた。

誰かに決められたわけじゃない。
ただ、自分で選んで、
静玖の隣を歩いているだけ。

この安心は、
これからもずっと変わらないものだと、
その時の私は、疑いもしなかった。
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