現代パロディ。女子中学生で厚くんとクラスメイト。審神者や刀剣男士は一切関係ない。ほぼ無いかもしれない名前変換機能です。
白昼夢なのかもしれない
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なりたくない委員会第2位の図書委員会に属する私は、夏休みにも関わらず学校で図書当番にあたっていた。
こういう日に限って部活は休み、最悪だ。
窓の外からグラウンドを眺めるも、いつものグラウンドの住人達はいない。野球部は他校で練習試合らしい。一際目立つ、あの綺麗な顔の厚くんも勿論いない。
唯一の救いは図書室にクーラーが完備されていることくらい。
ぐで、と机に広げた課題の上に顔を乗せた。
結局、この日私が図書室から解放されたのは2時間後だった。13時半から図書室でダラダラと課題を進めながら過ごし、まだまだ暑い15時半を過ぎてやっと図書室の鍵閉めを行った。今日は職員会議があるらしく、夏休み当番がいつもより早く終わったのだ。
階段を降りて下駄箱へと向かう途中、一階の廊下で見覚えのある野球の練習着に身を包んだ男子生徒二人を見かけた。上履きの色が違ったため、一年生だ。
野球も帰ってきたのかな。顧問の先生も職員会議に出席しなきゃだもんな、あわよくば厚くんに会えたりして。
そんな淡い期待を抱きながら下駄箱を目指す。
なんて、そんな都合良く厚くんがいるはずも無く。
貴重なオフを図書当番で潰されるなんて、ついてなさすぎる。何かいいことがあっても良くないか、誰も居ないをいいことに長い溜息をつく。
「今ので幸せ、随分飛んだんじゃないか?」
聞き覚えのある声変わり途中のハスキーな声。背後から聞こえたそれに、思わず背筋が伸びた。
「あ、厚くん…」
野球部のユニフォームに身を包んだ厚くんが立っていた。白い練習着は土で汚れている。
「よっ、…なんで制服?部活は?」
「今日は図書当番で…部活はオフなんだ」
顔を顰めた厚くんは気の毒そうに私を見遣る。
「だから溜息か、お疲れ」
「うん…あ、でもいいことあったから。もう大丈夫」
「…いいこと?」
しまった、失言した。ドキ、と心臓が跳ねて動揺してしまう。
勿論私の今言った『いいこと』とは厚くんに会えたことである。
「えっと、職員会議あったから、予定より早く終わったの」
咄嗟に思い付いた言葉で誤魔化す私。嘘はついていない。自分の心に嘘はついているけど。
厚くんはそうか、と頷いた。
「俺も、今日はいいことあった」
私の目を真っ直ぐ見つめる厚くんに無意識に体が強張る。宝石みたいな瞳は、私の下手くそな嘘を見透しているんじゃないかと思えてくる。
「いい、こと…って?」
少し詰まりながらも不自然でない程度に返答する。
「一緒な理由だよ」
まさか、職員会議?確かにいつもの野球部ならまだ活動している時間だけど、厚くんがそんな小さな理由で喜ぶだろうか。
少し困惑しながら「そうなの?」と言うと、「わかんねぇの?」と、少し呆れながら厚くんは私に一歩近づく。
綺麗な顔は夏休み前より焼けていて、頰と鼻頭には赤みがさしている。数日経つと皮が剥けそうな焼け方だった。
「学校戻ってきてさ、いつも体育館から聞こえる声がないから、いないのかと思った」
いつも体育館から聞こえる声とは、私の所属する部活動での掛け声のことだ。
「そしたら帰り際に運良く下駄箱で会えるし、ラッキーだな俺たち」
にかっと歯を見せるように口角を上げ、快活に笑いかける厚くん。
そ、それは、それは…、酸素を求める金魚の様に口を開閉させ、何も言えなくなる私に、厚くんはまたしても一歩近づく。
「厚ー!」
下駄箱から程近い、部室棟から厚くんを呼ぶ声。
「あっ、じゃあ、部活お疲れ様っ!またね!」
壊れたブリキのおもちゃの如く、ぎこちなかったのが嘘のようにスルスルと別れの挨拶を口にした。急ぎ過ぎない程度のスピードで靴を取り出し履き替えようとした時、私は右腕を厚くんに掴まれた。
驚きで案の定動きをピタリと止めた私に対して、目を細め、右手首の少し上を掴んでいた厚くんの掌が下に降りていく。ギョッと目を剥いているとそれは丁度、私の掌と厚くんの掌が重なるところで止まった。
ほぼ手を繋いでいる状態に全身がカッと熱くなる。豆で皮が剥け、かさかさしている手。私よりも大きい掌は優しく指を撫でるよう触れ、そして離れていく。
「またな」
ハスキーボイスが静かに私の鼓膜を揺らし、距離を置いて離れて行った。部室棟へと向かう厚くんの背を見送り、居てもたっても居られなくて外へ飛び出す。纏わりつくような嫌な熱気が気にならない位、どうしようもない気持ちが心を占めた。
こういう日に限って部活は休み、最悪だ。
窓の外からグラウンドを眺めるも、いつものグラウンドの住人達はいない。野球部は他校で練習試合らしい。一際目立つ、あの綺麗な顔の厚くんも勿論いない。
唯一の救いは図書室にクーラーが完備されていることくらい。
ぐで、と机に広げた課題の上に顔を乗せた。
結局、この日私が図書室から解放されたのは2時間後だった。13時半から図書室でダラダラと課題を進めながら過ごし、まだまだ暑い15時半を過ぎてやっと図書室の鍵閉めを行った。今日は職員会議があるらしく、夏休み当番がいつもより早く終わったのだ。
階段を降りて下駄箱へと向かう途中、一階の廊下で見覚えのある野球の練習着に身を包んだ男子生徒二人を見かけた。上履きの色が違ったため、一年生だ。
野球も帰ってきたのかな。顧問の先生も職員会議に出席しなきゃだもんな、あわよくば厚くんに会えたりして。
そんな淡い期待を抱きながら下駄箱を目指す。
なんて、そんな都合良く厚くんがいるはずも無く。
貴重なオフを図書当番で潰されるなんて、ついてなさすぎる。何かいいことがあっても良くないか、誰も居ないをいいことに長い溜息をつく。
「今ので幸せ、随分飛んだんじゃないか?」
聞き覚えのある声変わり途中のハスキーな声。背後から聞こえたそれに、思わず背筋が伸びた。
「あ、厚くん…」
野球部のユニフォームに身を包んだ厚くんが立っていた。白い練習着は土で汚れている。
「よっ、…なんで制服?部活は?」
「今日は図書当番で…部活はオフなんだ」
顔を顰めた厚くんは気の毒そうに私を見遣る。
「だから溜息か、お疲れ」
「うん…あ、でもいいことあったから。もう大丈夫」
「…いいこと?」
しまった、失言した。ドキ、と心臓が跳ねて動揺してしまう。
勿論私の今言った『いいこと』とは厚くんに会えたことである。
「えっと、職員会議あったから、予定より早く終わったの」
咄嗟に思い付いた言葉で誤魔化す私。嘘はついていない。自分の心に嘘はついているけど。
厚くんはそうか、と頷いた。
「俺も、今日はいいことあった」
私の目を真っ直ぐ見つめる厚くんに無意識に体が強張る。宝石みたいな瞳は、私の下手くそな嘘を見透しているんじゃないかと思えてくる。
「いい、こと…って?」
少し詰まりながらも不自然でない程度に返答する。
「一緒な理由だよ」
まさか、職員会議?確かにいつもの野球部ならまだ活動している時間だけど、厚くんがそんな小さな理由で喜ぶだろうか。
少し困惑しながら「そうなの?」と言うと、「わかんねぇの?」と、少し呆れながら厚くんは私に一歩近づく。
綺麗な顔は夏休み前より焼けていて、頰と鼻頭には赤みがさしている。数日経つと皮が剥けそうな焼け方だった。
「学校戻ってきてさ、いつも体育館から聞こえる声がないから、いないのかと思った」
いつも体育館から聞こえる声とは、私の所属する部活動での掛け声のことだ。
「そしたら帰り際に運良く下駄箱で会えるし、ラッキーだな俺たち」
にかっと歯を見せるように口角を上げ、快活に笑いかける厚くん。
そ、それは、それは…、酸素を求める金魚の様に口を開閉させ、何も言えなくなる私に、厚くんはまたしても一歩近づく。
「厚ー!」
下駄箱から程近い、部室棟から厚くんを呼ぶ声。
「あっ、じゃあ、部活お疲れ様っ!またね!」
壊れたブリキのおもちゃの如く、ぎこちなかったのが嘘のようにスルスルと別れの挨拶を口にした。急ぎ過ぎない程度のスピードで靴を取り出し履き替えようとした時、私は右腕を厚くんに掴まれた。
驚きで案の定動きをピタリと止めた私に対して、目を細め、右手首の少し上を掴んでいた厚くんの掌が下に降りていく。ギョッと目を剥いているとそれは丁度、私の掌と厚くんの掌が重なるところで止まった。
ほぼ手を繋いでいる状態に全身がカッと熱くなる。豆で皮が剥け、かさかさしている手。私よりも大きい掌は優しく指を撫でるよう触れ、そして離れていく。
「またな」
ハスキーボイスが静かに私の鼓膜を揺らし、距離を置いて離れて行った。部室棟へと向かう厚くんの背を見送り、居てもたっても居られなくて外へ飛び出す。纏わりつくような嫌な熱気が気にならない位、どうしようもない気持ちが心を占めた。