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混合夢
主人公の名前
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ルフィたちが訪れた島は特に観光名所などもない田舎であった。しかしどうやら海軍が駐在しているらしくあまり目立つ行為はできない。ナミが代表して忠告を入れているが船長であるルフィは聞いているのかいないのか今すぐにでも陸に降りたそうにうずうずしている。
仕方ない、ナミがそっとため息をついて、
「何度も言うけど海軍がいることを忘れないで、ルフィ!あんたに言ってんのよ!」
「おう!」
本当にわかって返事をしているのかこいつは…、船員は呆れながら船長に視線を向ける。
そして解散を告げるとルフィは1人船から姿を消した。
「うめぇ!!おっさんうめぇぞこれ!」
「そりゃあよかった!良い食いっぷりだな兄ちゃん!!」
ルフィは島に降りると匂いにつられるようにふらふらと飲食店の中に足を踏み入れた。1人では到底食べきれない量を注文すると大口を開けてまるで飲み込むように、吸い込むように料理に手をつけていく。
店主は呆気に取られたが、ルフィの屈託無い笑みと全く世辞には聞こえない言葉に気を良くした。
「はぁー食った食った。うまかったー!」
「兄ちゃん胃袋どうなってんだ?まあ満足したなら良いけどよ。…勿論金はあるんだよな?」
急に声をワントーン落とした店主にびくりと肩を震わせたルフィは衣服のポケットに手をやる。
目を細めてこちらを見つめている店主の視線を感じつつ、がさごそと漁るが見当たらない。しまった、部屋に忘れてきたか。
「わりぃ船に忘れてきた」
「信じられるか!」
またもルフィの屈託無い笑みに一瞬面食らうが直ぐに鋭いツッコミをいれる。
店主は知っている。この男が海賊であることを。そして最近世界政府に喧嘩を売ったと言われる麦わらのルフィであることも。そしてそんなやばい海賊が金をたんまり持っているに違いないと思い込んでいる。
「さっさと金払え!」
「ゲェッ!!?高すぎだろ!ぼったくりだ!」
店主がテーブルに叩きつけた伝票には普通ならあり得ない金額。勿論ぼったくりである。ルフィが抗議するも値段を見もしないで頼んだルフィも悪い。
何度か不毛な言い合いをしもう食い逃げしてしまうか、とルフィが考えたところで第三者の声が。
「マスター、そう怒らないで。私が彼の分を立て替えますよ」
「シスター、あんたなぁお人好し過ぎたぞ」
「おお!お前良いやつだなー!あとで船に戻って財布取ってくるから安心してくれ」
安心できるはずもないのだが、店主はシスターの言葉に小さくため息を吐くと伝票に書いてある値段よりうんと安い額で良いと言ってルフィを追い出した。
「いやー、助かった!ありがとな」
「いえ、構いません。お金も結構ですよ。ただ…あまり騒ぎを起こさないほうがよろしいかと。貴方麦わらのルフィさんですよね?」
「なんだお前、俺のこと知ってんのか?」
「ふふ、有名ですもの」
「そっか、でも金はちゃんと返す!半額だったしな。お前んちどこだよ」
「あら…私は向こうの丘の上の教会でシスターをしております」
「わかった、後から行くよ!」
ルフィを助けてくれたシスターはどうやらお人好しが過ぎるらしいが遠慮しすぎることもなく、むしろ好感が持てた。シスターのような善人からルフィも流石に奢ってもらったままではいられなくなり、一度船に戻り教会を訪ねることにした。
「はぁ!?何よこの値段!ぼったくりじゃない!!」
「あら、随分高いわね。特にブランドのものでも無いのに」
「この島の相場さ!文句があるなら買わなくてもいいけどね」
ロビンとナミは服屋やらを2人で周りショッピングを楽しむつもりだったが、訪れた店のほとんどがぼったくりとしか言いようがないほどの高額であった。どの店も相場はこれくらい、と言うがこの島は一体どうなっているのか。高すぎやしないか。こんな値段のものをここの島民が買えるとは思わない。
興が削がれた2人はそのまま何も買わずに一旦船に戻り他の船員の島の様子を聞くことにした。
戻ってから暫く、食品類を買い出しに行っていたサンジとチョッパーが帰ってきた。
話を聞くにはやはり驚く程高かったらしい。しかし食糧が尽きるのは怖いので予算ギリギリで量は少ないが買えるものだけ買ってきたらしい。
この島、何かありそうだ。
するとそこへ我先にと姿を消した筈のルフィが帰ってきた。男子部屋に入るとすぐ戻ってきた彼がまた陸へ戻ろうとするところを呼び止める。
「ルフィ、何しに船に戻ったの?」
「ん?ああ、財布忘れた」
「何か欲しいものでもあったのか?」
「いんや、昼飯奢ってもらったけど悪いから返そうと思って取りに来た」
「はっ!?あんたいくらよ!」
「1万ベリー」
「いっ!?…いや、アンタにしては安い方?」
ルフィの大食漢を考えると安い方の値段。しかしこのぼったくりをしてくる島でいつも通りの量を食べてその値段はちょっとおかしい。海賊であるルフィに昼食を奢ったと言うモノ好きのことも気になる。
結果、ルフィと共にナミ、サンジが教会を訪ねることとなった。
「なんだか禍々しい教会ね…」
「不気味だ…」
3人は教会に訪れたはいいが外観があまりに古く、とても人が住んでいるようには見えなかったために入るのを躊躇して居た。いや、躊躇していたのはナミとサンジだけでルフィは今にも飛び出そうとしている。
「なんだよお前ら、入らないのか?」
「いや、入るわよ。でもまって、もうちょっと心の…っておい!」
「こぅらクソゴム!!ナミさんが待てって言ってんだろが!」
ナミが心の準備をしてから、と言い終わる前にルフィは扉の前まで足を進めさっさと扉を開けてしまった。立て付けが悪そうな見た目をしていたが案外すんなりと扉は開いた。
内装は外観と違い、意外と綺麗で会衆席も新しいものだった。ステンドグラスを通して入ったてくる光も神秘的なものを助長させており、まさしく聖堂と言っていい教会内だった。
「あら、先程の方。ようこそいらっしゃいました」
「おう!ちゃんと金返しに来たぞ」
「ふふ、さぁどうぞ。そんな入り口に立ってないで中にお入りください」
ナミとサンジはルフィの後に続くように教会の奥へと進む。会衆席の前列に3人並んで座り、隅に置いてあった椅子をシスターが3人の前に置き、そこに腰かけた。
「一万ベリーだ」
「はい、確かに。折角いらっしゃったのだからゆっくりなさってください」
「あの、聞きたいことがあるの」
「ええ、何なりと。少々お待ちになって、お茶を準備してくるわ」
「マドモアゼル、お気遣いなく」
「そういうわけにもいきませんわ」
「シスター」
丁度シスターが席を立って礼拝堂から出て行こうとした時、シスターが開けようとした扉が開いた。出て来たのはシスターと同じ格好をした美女。驚くほど整った顔に赤みがかった瞳。地毛の色素が薄いのか睫毛が光に当たってキラキラ輝いている。天使だ…とサンジが小さな声で呟く。ナミも思わず美しさのあまり小さく息を吐いた。
「丁度よかったわエル、お客様にお茶を入れてくださる?」
エルは頷くとルフィ一行に視線を向けぺこりと会釈しまた扉の奥へと消えていった。
「そうだ、俺ルフィ!こっちはナミとサンジで俺の仲間だ。さっきは本当にありがとな!」
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私は島のものにもシスターと呼ばれています。困ってる方を助けるのは当然のことです」
少し困ったように笑ったシスターにナミはどうやら本当にただのお人好しだったのだと理解した。
「ねぇシスター、どうしてこの島の物価はこんなに高いの?」
「ああ」
どう説明したものか、という風に悩む様子を見せたシスターは少しの間黙り込んだ。そこへエルが戻ってきて3人へ淹れてきたお茶を渡した。未だ考え込むように黙ったままだったシスターにエルは耳打ちをするとまた3人に会釈をし、扉の奥へと消えていった。何を耳打ちしたのか聞くのは野暮だろうとサンジが思っているとシスターが話し出す。
「この島は物価が高いのではなく、税金が高いのです」
「税金が?」
「ええ、消費税が50%でして…初めて訪れる方は驚かれます」
「50%!?何それ高すぎよ!」
ナミの言葉にシスターはやはり困った顔で笑うしかなかった。仕方がないのだ、消費税を高くして島外から訪れるものからぼったくるしか。島民同士なら消費税はほとんど掛からず買い物ができるが、それを伝える必要はないだろう。
ナミが絶句していると先程からなにも喋らなかったルフィは突然口を開いた。内容は今の会話に全く関係がないものでサンジは額に青筋を浮かべた。ナミさんとシスターの話してる内容に全く関係無いだろうが。
「あの石像なんだ?」
「あれはエルフリーデの石像です」
「エルフリーデ?」
ルフィがさしたのは礼拝堂の端にあったそこそこ大きな石像。入った時は柱に隠れて見えなかったが前列に座るとよく目立つものだった。
シスターの答えにサンジが声を上げる。
「知ってるの?」
「確か…『聖者殺しのエルフリーデ』だったかな。御伽噺であった気がする」
「初めて聞いたな」
「私も。ていうか何だか物騒な話ね」
シスターが言うにはそのエルフリーデの没地がこの島だと言われているらしい。
石像の全貌は跪いて何かに祈っているエルフリーデに後ろから伸びている槍にもただの棒にも見える何か。
「あの槍みたいなのは何?」
「あれはエルフリーデが使用されたと言われる大鎌です」
「あんなでっけえ鎌使ってたのか!?」
「修道服着てるのに…」
石像のエルフリーデはシスターと同じような修道服を着ている。そして見るからにか弱そうな女の石像だ。本当にエルフリーデが存在していたとして、あんな大鎌を扱えるようには到底思えなかった。
「今日は船に泊まられるのですか?それとも宿を取るおつもりで?」
「宿を取ろうと思ったけど、きっと宿泊代も馬鹿にならないんでしょ?」
「ええ、」
眉を下げて微笑むシスターにそろそろ良心が痛んできたナミはもうこの話題を聞くのはやめよう、物資の確保は次の島ですることに心の中で決めた。
そろそろ船に戻るか、とナミとサンジが考えたところで不在であったこの教会の神父が帰ってきたらしい。シスターと同じように人の良さそうな笑みを浮かべ、挨拶を交わした神父。
船に戻ると告げた3人に「出航まで時間があるのなら、またいつでもいらして下さい」と声をかけると扉の奥へと消えていった。
「シスターまたな!」
「教えてくれてありがとう」
「またお会いしましょうマドモアゼル」
「ええ、またお会いできたら。良い航海を」
海賊さん、シスターに教会の出口まで見送られたルフィを除く2人はシスターの言葉にばっと後ろを振り返った。穏やかに微笑んだシスターは会釈をして扉を閉めた。
「知ってたのか…」
「知っててルフィを助けたなんて、相当のお人好しみたいね」
「やっぱりいい奴だなー!」
その後麦わらの一味がこの島の本来の姿を知るのは翌日の朝だった。
******
「『聖者殺しのエルフリーデ』?」
「そう、ロビンなら知ってるかなって」
「もちろん知っているわ」
女子部屋でナミとロビンはベッドに座り、向き合って話始める。夕食もお風呂も済ませた2人は後はもう寝るだけ、の状態だ。
ロビンによると『聖者殺しのエルフリーデ』のあらすじはこうだ。
元々は何処かの国の戦士であったエルフリーデは立ち寄った美しい島に心を奪われた。そしてこの島に永住したいと考えたエルフリーデは戦士の役目を放棄し、その島の教会に修道女として住み着くようになった。
しかし美しい島の島民たちは、永遠の美しさを持つ島に心がどんどん滅入っていき、誰かに壊して欲しいと望むようになる。それを教会の神父に島民が相談していたのをエルフリーデは聞いてしまう。
エルフリーデにとってこの島は永遠であり永久。この美しさを壊されることを決して許さないと思ったエルフリーデは島民の思惑を阻止するために神父を殺した。
そんなエルフリーデのもとに現れたのは同じ国で戦士をしていた男。その男にエルフリーデは殺され、島民の願いを戦士は叶えた。
「何その話」
ナミは苦い顔をしてロビンに感想を言った。話はところどころはしょり、端的にあらすじを話しただけだがまぁ子供に伝えていく御伽噺には向かないだろう不可思議な話だ。
「エルフリーデの戦士としての役目はなんだと思う?」
「えぇ?わかんないわよ」
「後からやってきた戦士と同じ、美しい島を壊すこと。それなのにエルフリーデは役目を放棄した裏切り者…神父はこの島の永遠を壊したかった、島民も誰かに壊して欲しかった。エルフリーデだけなのよ、島の永遠を望んだのは」
それはなんだか悲しいことのように思えた。美しい島に魅せられ、役目も国も裏切り、終いにはお世話になっている神父すら殺し、最後に同じ戦士の男に殺される。哀れな女の話、『聖者殺しのエルフリーデ』。
翌朝、島の様子がおかしいことに気がついた。島民が武器、と言っていいのか思い思いの武装をして丘の上の教会へと向かっている姿がよく見えた。
ナミは既視感を覚えた、故郷の島の島民たちが忌々しい海賊団を倒すために立ち上がり反撃を試みたあの時に。
「何かあったんじゃねぇか!?」
「何かって何だ?」
「教会に殴り込みに行ってるんじゃ…」
「なんで!?シスターはいい人だったわ!」
「とにかく行ってみよう!シスターには恩がある!」
ルフィは船員の言葉も聞かずに船を飛び出し、教会へと向かって行った。
船員たちは顔を見合わせ、船長を追うために役割を決めた。
サンジ、ゾロはルフィと共に前線へ。ウソップ、ナミ、ロビンは後衛支援。チョッパーとフランキーは船番ということで解散した。
サンジが何度も迷子になりかけるゾロを何とか引っ張り教会にたどり着いた時、ルフィは入り口から島民たちの様子を見ているだけだった。
「ルフィ?」
「おっ、ゾロとサンジ。なんか別に殴り込んでるわけじゃねぇから見てた」
2人は眉を寄せてルフィの目を向ける教会奥へと視線をやる。確かに島民は何かを講義しているようには見えるが、手に持った鍬や鎌を振り回す様子は見られない。
島民が詰め寄っているのは昨日ちらりと挨拶を交わしただけの教会の神父だった。
「どうするんだよ神父様!奴らに計画がバレた!」
「人質も取られたんだろ!?」
「今立ち上がらなくてどうする!」
「俺たちは絶対に奴らを許さねえぞ!」
何かあったのか、人質だなんて物騒な。ルフィたち以外に停泊している海賊船は見られなかった。なら一体誰に人質を取られたのか。
「シスターを人質にとるなんて…!」
島民の言葉にルフィとサンジは目を見張った。シスターとはあのシスターだろうか。
思わずルフィは声をあげた。
「おいおっさん!どういうことだよ!」
突然の誰よりも大きな声に集まっていた人々の視線が3人に向く。
麦わらの一味じゃないか…?昨日の海賊だ…、島民の小声がざわざわと聞こえる。昨日は船番で殆ど船で寝ていたゾロが思わず片眉を上げる。
ルフィに気がついた神父は目を見開くとルフィ達にもことのあらましを伝えた。
なんでもこの島の海軍は不当に税金を島民から押収しており、さらにその金額は生活していくのにギリギリ。そして反旗を翻そうと計画していたことが海軍にバレ、昨夜シスターを人質に取られたらしい。
「クソだな」
「胸糞悪りぃ」
「ぶっ飛ばすか」
海賊にこうも罵られる海軍はそういないだろう。ルフィたちの言葉に島民は目を見開き驚いていた。この海賊の方がよっぽどまともだ。
「し、しかし君たちを巻き込むわけにはいかない…。計画ももう少し先で、準備も整い切っていなかった。戦略も戦力もあちらの方が何倍もあって、死人が出るかもしれない」
神父の顔色は悪く、クマも酷い。昨夜シスターが捕らわれてから一睡もしていないのだろう。
「私はその海賊に賛成だ」
ルフィが神父に声を上げる前によく通るアルトでルフィの意見に賛同する人間が現れた。気がつかなかったがエルフリーデの石像の横に腰かけ上から島民たちののやりとりを眺めていたようだった。
声の主は昨日ルフィたちにお茶を淹れてくれたエル、と呼ばれていた修道女だった。修道服を着ているがウィンプルとベールは脱いでいる。綺麗な銀髪の髪は惜しげも無く晒されており、外から入り込む光で神とも天使とも勘違いするほど神秘的な容姿だった。
しかし、容姿の儚さとは反対に話す声も言葉も力強い。
「売られた喧嘩は買えばいい。奴らの心を折る勢いでボコればいい。シスターを捕らえたんだ、それくらいの報復は覚悟の上でなくちゃ困る」
「おっ、気が合うなお前!」
ルフィの言葉にニヤリ、と好戦的な表情で応える。昨日とはまるで別人のようだった。
「エクソシスト様…」
「安心しろ神父、私がいるんだ。必ず連れて帰るさ」
エルは立ち上がりエルフリーデの石像の後ろに回りエルフリーデの大鎌と言われていた長柄を引き抜いた。身の丈よりも大きな、重量もありそうなそれを危なげなく扱うエルの姿にゾロは思わず頰が上がる。こいつは間違いなく手馴れ、強い人間だ。
エルは島民たちに目を向けると長柄を肩に担ぐ形を取り、語りかける。
「君たちも奴らには恨み辛みあるだろう…。確かに危険だ。だが、このままでは終われないっていうのなら付いて来い。一緒に地獄でも見せてやろうじゃないか」
エルの悪どい笑みに島民たちは近くにいた者と顔を見合わせたがすぐに拳を掲げ野太い雄叫びを上げる。
「海賊、手を貸してくれるか?」
「おう!」
手を組んだエルと麦わらの一味により駐在していた海軍の連中を潰すことは成功した。シスターも無事に無傷で救出し、島民たちも軽傷の者が何人かいるが被害は大したことがなかった。
海軍の持っていた電伝虫から海軍本部へ連絡し、明後日には島に着くとのこと。
憎き海兵たちを無事ボコボコにすることを達成できた島民たちは気を良くして無料で食材も酒も料理も麦わらの一味に提供した。
島民、海賊関係なく参加した宴は大層盛り上がった。
「ナミさん、本当にありがとうございました」
「いいのよ!うちの船長も貴方には世話になったみたいだし。私も聞きたいことが聞けたしね」
ナミとシスターは喧騒から少し離れたところで話していた。シスターが捕らわれたと聞いた時は驚いたがこうして無事な姿を見てホッとした。島民から提供してもらった料理と酒をちょこちょこつまみながら会話をしていたところにエルがやって来た。
「シスター、飲んでるかい?」
「エクソシスト様…いえ、私はお酒はいいのです」
「今日ぐらいいいと思うがなぁ……そっちの君は、しっかり飲んでいるようだな」
カラカラと笑うエルの姿にナミは未だに信じられない気持ちでいた。あの時の美女が実はこんな快活な女性だったとは。サンジは「ギャップが激しいところも素敵だ〜!」とくねくねしていたが確かに容姿と性格のギャップが激しい。さらに島民からも神父、シスターからもエクソシスト様、と敬いすぎていやしないだろうかという敬称付で呼ばれ、不思議な能力で闘っていた。誰も聞いていなかったのでナミは2人に尋ねた。
「ねぇエクソシスト様って呼んでるけど貴族かなんかなの?」
「それは俺も気になるな」
「あの不思議力なんだったんだ!」
ナミの言葉に遠くにいたはずの仲間も集まって来た。島民は島民で思い思いに楽しんでいる。
「そういえば自己紹介がまだだったな。私の名前はオリヴィア、職業はエクソシスト。エルってのは、まぁ色々あって名乗ってた偽名だ」
「お前オリヴィアっていうのか!よろしくな!」
「ああ、よろしく」
「エクソシストってのは?」
「なんで様って敬称をみんなつけてるの?」
シスターはエクソシストとは神の使徒と呼ばれる聖職者で、身分も高く、尊い方であると説明した。説明の間オリヴィアは黙っていたが苦く笑っていた。
「神の使徒?」
「じゃああの不思議力がはなんだ?」
「エクソシストの条件は神の結晶と呼ばれるイノセンスの適合者であること。君のいう不思議力っていうのはイノセンスの能力だな」
「確かイノセンスって、AKUMAと呼ばれる殺戮兵器を破壊することのできる唯一の物質なのよね?」
「ロビン知ってんのか?」
ロビンは知っていた。オハラと同様に地図の上から抹消された島を。名は黒の教団。エクソシストと呼ばれる人間以外は全員虐殺され、エクソシストは今も役目のために世界を放浪していると。そしてイノセンスの適合者とは限られており、エクソシストは数少ない黒の教団にとっての戦力であったと。黒の教団の歴史書は少ないながら確かに存在する。聖戦は長い年月がかかっており、今もまだ終結したとは言い切れていないと。
「少し本で読んだ程度よ」
「そっか〜エクソシストか〜!お前俺の仲間になれよ!」
「でた〜ルフィの仲間になれよ勧誘」
「俺は大歓迎だー!!」
「仲間?海賊にか?」
「おう!海賊はいいぞ、自由だから!」
「自由…」
この7年間、ずっと一人で旅をして来たオリヴィア。イノセンスの適合者だったがために、唯一の肉親である父と離され、黒の教団でほぼ道具の様な扱いを受けていた。黒の教団が世界政府に壊されてからも生かされて、今もAKUMAを見つけては壊すを繰り返している。イノセンスの適合者である限り、一生オリヴィアは戦い続けなければならない。自由とは程遠い。
「俺の夢は海賊王になること!海賊王は、世界一自由なんだ!」
「世界一自由…。じゃあそのクルーも世界一自由なクルーか?」
「ん?おう!そういうことになるな」
他の船員から視線を感じるがどうやら別に反対意見はないようだ。
「よろしく頼む、船長」
「よろしくな、オリヴィア!」
にかっと笑うルフィの眩しい笑顔に思わず目を細めるオリヴィア。
太陽みたいな男だな、この男ならオリヴィアの見えない足枷を全部ぶっ壊してくれそうな気がした。
「ところで君の能力はなんだ?」
「ゴムゴムの実のゴム人間だ」
「なるほど、通りであんなに伸びたのか!面白い能力だなー!こりゃいい船に乗った!」
「おっ、そうか!」
「もう気が合っとる…」
麦わらの一味出港の時間、港には島民と神父とシスターが見送りに来てくれた。
オリヴィアは修道服を脱いで真っ黒な団服に身を包んで荷物を抱えて船着場に立っていた。
「エクソシスト様、本当にお世話になりました」
「お世話になったのは私さ。この島は居心地が良かったもんで、長居してしまってすまなかったな」
「とんでもありません!貴女様のお陰で、私たちは自由になれました…」
腰の低すぎるシスターに苦く笑うオリヴィア。麦わらの一味はその様子を船の上から眺めている。
「エクソシスト様、どうか貴女の旅路に、神の加護があらん事を…」
「ありがとう、神父。呉々もAKUMAには気つけてくれ」
「勿論でございます。ご武運を」
シスターはすでに号泣しており、神父も涙ぐんでいる。いい島だった。オリヴィアの故郷に似て、穏やかな島だった。腐った海兵に酷い目に遭わされていたが、これからきっと良いことがこの島には起こるさ。
船に乗り込み、ピクチャー島が小さくなった頃背中に担いだ長柄をオリヴィアは撫でる。
安心しろエルフリーデ、私は『エルフリーデ』の様にならないさ。夢は夢のままで終わるから夢なのさ。私の求めるものは、君を裏切ったところで手に入らない。
そっと目を閉じで潮風を感じるオリヴィア。サンジからお茶を入れたと声がかかるまで暫くオリヴィアは降板にに佇んでいた。