短編
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ドレスローザ後、キュロスの家にてサボと再会
アキラは何となく一人になりたい、と思い夜風に当たる為家の裏側にもたれ掛かり夜空を見上げていた。
ドレスローザ王女のヴィオラを少し羨ましく思った。国のため、民のため、家族のため、奔走するヴィオラは力がなく、逃げることしかできなかったアキラには眩しく映った。国も、民も捨て、顔を隠し、侍女に生かされていた己を酷く恥じた。
感傷的になったところで、何の意味もない。自嘲し、何やら家の中が少し騒がしいことに気がついた。能力を使い、エネルギーを消費したこともあり、何か食べようと腰を上げた。
「ただいま」
「お帰りアキラ、お腹でも空いたの?」
「うん、なんか家の中も騒がしかった、し…」
「干し肉と酒あるぞ」
「?どうしたのアキラ」
扉を入ってすぐ、椅子に座っていたロビンに話しかけられたアキラはそれに答える。その最中、視界の端に見覚えのない金髪がチラついた。ルフィとウソップの眠るベッドに座るその人物は、己の知っている人だった。
いつもなら飛びつくゾロからの肉と酒の単語に反応できないくらいには驚いた。というか、目が離せない。
「サッ、サササササササボクンッッ!!?!」
「なんだ、お前も知り合いなのか」
知り合いというか、知り合いだが、死んだと聞いていたし、もう二度と会えないと思っていたし、ていうか何故この場にいるのか。なんの心の準備もできてないないこの状態であってどうしろというのか。心の中も大混乱でぐちゃぐちゃになってしまっている。
「久しぶりだな、アキラ」
「ヒェッ…う、うん…久しぶりだね、サボくん…」
サボくんが今までどういう状態だったのか聞いて驚いた、記憶喪失、ほんの2年前まで。私のことも、気になって調べたら国が戦争で滅んでいて驚いたという。
「アキラが無事でよかったよ」
「あ、ありがと…私も、またサボくんに会えてよかった」
しおらしいアキラの態度に目を擦るゾロ。瞬きを繰り返し、怪訝な顔をするフランキー。口元に手を当て、微笑ましそうに見るロビン。
アキラは己に向かって優しく微笑むサボに胸が高鳴る。
サボくん、かっこよくなってる。髪も伸びて、顔の傷も彼の凛々しさを表している。兎に角カッコいい。
「2人はどういう関係なのかしら」
「元許嫁さ」
「いっ…許嫁!?」
「俺はさっきも言ったが、元々貴族だったからな」
サボの言葉にフランキーとゾロから疑いの目線が届く。なんだその目は。ムッとしながらもサボくんの前のため、下手な態度は取れない。
「私も元々は一国の皇女だよ」
「皇女!?お前が!?」
「さっきサボくんも言ってたでしょう。私の国が滅んだって。だから元」
「そうだったの…ねぇアキラ、あなたの名前を聞いても?」
「…パイエロット。私はパイエロット家の元第一皇女」
ロビンが息を飲んだ。彼女は賢いから、私の国についても何か知っているのだろう。
サボくんはもうそろそろ帰るという。なんとルフィくんとは義兄弟らしく、顔を見に来たらしい。そうだったのか、私に会いに来たわけじゃ…いや、いいんだけど。弟が大事なのはとっても素敵。
いつの間にか作ったらしいルフィのビブルカードをゾロに渡したサボは、なんともあっさりキュロスの家から出ていった。
「ごめん、ちょっと私もでてくる」
「いってらっしゃい」
ロビンのにこやかな笑顔に送り出されたアキラは小さく頷いてサボを追いかけた。
サボは立ち止まり、キュロスの家の方へ体を向け、アキラが来るのを待っていた。
「さ、サボくん…あの、私本当にまたサボくんに会えて嬉しい…」
「俺もだよ」
サボの言葉に顔の赤くなるアキラ。昔からこうだ、サボは初恋で、憧れで、ずっと大好きな人。
ゆっくりとアキラの元へ近づいて来る。シルクハットを外し、綺麗な金髪が風でサラサラと揺れる。サボの手が、同じ金髪のアキラの髪に触れる。
「いつの間にか海賊になってて、驚いた」
「あっ、その、わたし、」
サボの言葉に急に青ざめたアキラ。半歩後ろに下がったアキラに思わずサボの髪をいじる手も止まる。
アキラが海賊になる過程は、正直あまり思い出したくない。海賊になる前、どんなことをして来たか、きっとサボに軽蔑される。そう思うと怖くなってしまった。自分がおかしくなった自覚だってある。サボに嫌われたくない。だけど、サボの知る、世間知らずなお姫様な自分は、もうどこにもいないのだ。
「アキラっ、」
「さ、ぼ…くん」
「忘れてて、ごめん…国が大変なときに、俺は…!」
「違うよ、違うの…私、サボくんに嫌われたくないの…」
どんどん顔色の悪くなるアキラをサボは無理やり抱き込んだ。抵抗することなく、アキラはされるがままだ。メラメラの実を食べたらしいサボの体温は、人より少し高い。
嫌われたくない、その言葉がサボの胸を締め付けた。国が滅び、逃げた亡国の姫。サボには考えられないほど辛いことがあったに違いない。
サボはアキラの手配書を何度も見ていた。『狂人のアキラ』。ピエロのメイクをしていたってわかる。その瞳は仄暗く。癒えない傷を負っていた。サボの知らない間に傷ついた、治ることのないアキラの心の傷。
自分が記憶をなくしている間、彼女が生きていたのが唯一の救いだった。
「絶対に、何があっても、アキラを嫌いになることなんてない」
「そんなの、」
「不安になるなら誓う。俺の気持ちは、ずっと昔から変わらねぇ」
「サボくん、好き…ずっと、大好き」
「俺も、アキラをずっと愛してる」
背中に回ったアキラの手に、昔を思い出すサボ。
幼い頃、ゴア王国に、サボの家へと訪れたアキラ。何度も許嫁として会っていた。いずれ結婚する少女。彼女には最初から好感が持てていた。
家が息苦しいものだと認識し始めてしばらく、アキラの言葉がサボを救った。
『家に、居たくないんだ』
『…どうして?』
『息がしづらい…苦しいんだ、逃げ出したくなる…』
『じゃあ、私がサボくんの居場所になるよ。サボくんが苦しくないように、私が助けてあげる』
ふくふくしたまだ幼い手が背中に回り、優しくサボを包み込んだ。居心地の良い、手放したくない存在になったアキラ。あの時から、ずっと彼女だけだった。彼女だけをサボの心を締め付け、温め、離さない。
アキラの伸びた金髪を耳にかけ、視線を合わせる。綺麗になったアキラに小さく胸が鳴った。自然と伏せられた瞼に、しっかりと手入れされた綺麗な額、頰に唇を落とす。
ほんのり赤く染まった頰が愛おしい。吸い寄せられるように何も塗られていない唇に自分のものを押し付けた。
月光に照らされた金色が、丘の上で2つ、煌めいていた。