鬼の目にも涙
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アルマからの猛攻をマリを背負いながら躱していたユウだったが、突然のアルマの異変に動揺を隠せなかった。
「アルマ!?」
油断、していたわけではない。ただアルマが自分を殺そうとするはずがない。今何が起こっているのか、ユウにはさっぱりわからなかった。
アルマの猛攻を躱しきれずにマリ共々ユウは吹き飛ばされる。咄嗟にマリに背負ってもらっていたイノセンスに手を伸ばすが逆の手をアルマによって斬り落とされた。
「へぇ、ユウもイノセンスとシンクロしたんだ」
「が…っ、」
アルマの猛追は続く。片手を失ったことにより、バランスがうまく取れなくなったユウの体を壁に叩きつけるアルマ。
ユウと一緒に脱出を試みたマリには現状を把握できる視力がない。そしてマリの問いかけに答えられる程の余裕はユウにはない。
「坊や?」
「なんで…っ」
ユウが最後に見たアルマの姿と随分違っていた。
身体と脳に異変が起き始めたユウを鴉に妨害されながらも必死に逃がそうとしていたアルマ。術式がキツくて苦しそうにしながらも、ヘタクソに笑って『逃げて!』なんて。
そんなお前が、なんでこんなこと…!
「毎日毎日…ひとりで仲間が目覚めるのを待ちながらずっと思ってた。なんでみんな目覚めないのかなって」
自嘲気味に笑うアルマの目から涙が溢れる。この研究所の惨状を作り出したとは思えないほど、痛ましい表情だった。
「はっ…目覚めるわけないよね、目覚めたいわけないよね~~~」
いつも通り、今まで通りの様子でアルマは喋り続ける。ただ自虐している様で、そうではない。ユウはアルマの異変に気がついた。
「おまえ…まさか、昔の記憶を…。だから殺したのか?エドガーも…まさか研究所全員…?」
涙を流し続けるアルマの表情でユウは全てを悟った。マリを見つける前の自分と一緒じゃないか。『研究所の奴ら、全員殺してやろうか』自分はしなかった、する前に留まった。しかしアルマの手はもう真っ赤に染まっている。
「飛んだ笑い草だよね。これじゃまるで、AKUMA…」
アルマは何の戸惑いもなく、己の身体をイノセンスで傷つける。
「アルマ!?」
「…止められなかった。何回破壊しても、体が再生してきて……っ、止められないよユウっ!!」
アルマの悲痛な叫びと呼応して、イノセンスは勢いよくマリに襲い掛かる。盲目でイノセンスを身につけていないマリにそれを躱す術はない。息をつく間も無く、アルマの斬撃は止まらない。自分諸共ユウの体にイノセンスを突き刺す。
悪くない、おまえは何も悪くねェよアルマ。
研究者を全員殺してしまったアルマを、ユウは責められるはずもない。
「ユウ……一緒に死のう」
何故こうなった
___最悪中の最悪、まるで地獄だよ___
みんな世界を守りたいんだろ
___そうだね、だから君たちが生まれた___
好きな奴を 守りたかっただけだろ
___…本当、悲劇だね___
ユウに聴こえるはずもない、ユウが知っているはずもない。多分今日でユウの目的は一生達成されなくなる。
ユウと同調しているリサにはユウに何が見えているか、何を感じているか手を取る様にわかる。
彼女と彼は死んだのだ。彼らの人生はもうずっと昔に結末を迎えている。嘗てリサと時を過ごした彼らはもうこの世に存在しない。
これはユウの人生なのだ。これはアルマの人生なのだ。彼も彼女も関係ない。リサはそう割り切ることで、ユウを生かすことができると考えた。
ユウの為なら、私は何でもできるよ。君の大切な友達だって、殺めることができる。
リサの決意と共に、ユウはイノセンスでアルマを斬りつけた。
「ユウ……?」
「ごめん…俺は生きたい」
アルマ、俺の
「おまえを破壊してでも……!」
たったひとりの……、
******
「…ん、ここは…?」
「目が覚めたか」
マリはいつからか失っていた意識を取り戻すとまだ聞き慣れない、声変わり前の少年の高い声が聞こえた。
「坊や…?そ、そうだ!一体何があったんだ…!キミは…!俺は!」
「その呼び方やめろって言っただろ!!ちょっと落ち着けよ」
明らかに圧倒的な年下に宥められ正気を取り戻すマリ。息をゆっくりと吐き出し、脳をクリアにしていく。そしてはた、と気がつく。体に痛みを感じない…。
「私は…、確か……」
「おまえの怪我なら俺が治した」
何ということもないという風に話すユウの言葉に目を白黒させるマリ。治した…!?傷を!?はっ、いや、どうやって…!?驚きで言葉にできないマリを見つめていたユウは己が一体何者なのかを話す。そして研究所は守り神とやらに倒壊させられたこと、そこからマリを連れてユウが自力で這い上がって来たことを伝えた。
「俺の事も、俺の血の事も、他言無用だ。あんたには話したが、誰かに喋ったら…」
「勿論だ。誰にも話さないと誓おう」
真摯なマリの瞳に気圧され、ユウは言葉を続ける気をなくした。マリにとってユウは命の恩人。この誓いを破ることは一生ない。
2人は研究所から脱出できたが行く当てがないことに気がついた。
「被験体の俺が教団に捕まったらどうなるか…」
「俺ももうすぐ実験体になるところだったしなぁ…イノセンスも手元にないときた」
当然、ユウに行く宛など有るはずがない。生まれてこのかた研究所から出たことがないのだ___一度だけあるが___そのためユウが頭を悩ませても仕方がなかった。
そんなユウに対して、マリには1人心当たりのある人物がいた。
「信頼できる人が一人いる!」
「なに!?本当か!」
こうしてマリとユウはティエドールの元へ逃亡。事情を話し、「あの人」と再会する一縷の望みをかけて弟子となる。
教団幹部以外に第二エクソシストである事を隠すため、約1年間ティエドールと旅をし、「神田ユウ」として素性を偽証し、黒の教団へと入団した。