鬼の目にも涙
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頭が痛い。割れるように痛い。こんな頭痛、インフルエンザにかかったときよりも全然痛い。何も考えたくない、何も考えられない。
恐怖と殺意、憎悪、それから、歓喜。全く異なる感情がぐるぐる脳内で回って回って、私をぐちゃぐちゃに掻き乱す。
『殺さないで』『壊してやる』『死にたくない』『会いたい』私が生きてきた中で抱いたことのない感情が、思考が、私をおかしくする。
目の前に広がるのは青と、それを覆い隠す黒と、アクセントのように添えられる赤。それがぐるぐる回って、ぐちゃくちゃに混ざって、真っ黒に塗り潰される。
「やめてっ……!!」
悪夢から飛び起きるように私は意識を浮上させた。
次いで襲った倦怠感と疲労感。さっきまで私を苦しめていた頭痛のことなんて頭に全くなかった。寝起きの頭では何も考えられず、視界に捉えられるものを虚ろな目で眺めていた。
数秒だったか数分だったか、数時間だったか、時間の経過はとても長く感じたし、とても短くも感じた。なんとも不思議な感覚だ。脳がクリアになってくると自然と状況把握ができるようになってくる。目だけを動かしここがいったいどこなのか考えてみる。全く身に覚えのない場所だった。
…私今まで何してたんだっけ?朝起きて、学校行って、いって……?ダメだ何も思い出せない。なぜ思い出せないんだろうか、私はいったいどこまで覚えてる?
私は漠然と危機感を覚えた。昨日の夕飯を忘れることはあるけれど、直前にしていたことを忘れるというのは早々あるものじゃない。
もしかして強く頭打ったとか?いや、でも別に頭は痛くないし血も出てないし、たんこぶもない。…まて、まてよ、私は自分のことをどれだけ覚えてる?
私の名前は、
「リサ……、」
心臓が大きく跳ねた。
おかしい、自分の名前しか、わからないとか…私っていったいなんなの?
ははは、と口からは意味もなく笑いが洩れる。別に何も可笑しくないし正直笑ってる場合じゃない。
「お母さん、お父さん、」
顔も声も名前も何も思い出せない両親を想うが、残念ながらそれは言葉が口から出るだけで、なんの意味も成さない。父と母、その概念だけが私の脳を駆け巡る。
冷や汗が酷い。心臓もずっとうるさい。口角も上がりっぱなしで目からは涙が流れているらしい。とんだ気狂いにでもなってしまったのか。このときの私は泣いている自覚も笑っている自覚も何もなかった。何も感じられなかった。
目を開けたまま気絶でもしていたのだろうか、気が付いたら私は横になって眠っていた。辺りは暗かった。何の光もない。でも寒くはない、というか何も感じない。
何だこれ。虚しい、悲しい、寂しい。外的作用は何も無いのに、内からはどんどんでてくる、負の感情。辛い、苦しい。何だこれ、何だこれ…。
「……助けて、」
思わず口から言葉が溢れた。
すると、私の言葉に応えるように辺りに光が、
「…はっ、まぶし…!!」
光が久しぶりすぎて全く目が慣れない。視界がチカチカする。目が開けられない。起き抜けに朝日が視覚を刺激する、なんて比べ物にならない。
視覚は全く機能していないが人の気配を感じる。私以外に人の存在がある事にひどく驚いた。
数人どうやらこちらに向かって来ている。光に大分慣れてきたようで、瞬きは多いが瞼はなんとか持ち上がる。完全に目が慣れたとき、こちらに向かって来ていた気配は止まった。
目の前には顔を俯かせた、鎖骨あたりまである黒髪が綺麗な少女?少年?あ、半裸だしこれは男の子だな。なんで脱いでるの?
それから少年の両脇に立つ変な服装のいかにも怪しげな男が2人。変な面もつけている。
何コレ怪しい、何コレ…オカルト的な?なんかの儀式?少年は生け贄??
呆然と3人を見上げることしかできながったがふと我に帰る。
「あ、あの…、」
『ユウ、イノセンスと同調しなさい。』
ん!?英語でなんか聞こえた!全く何なのかわかんなかったけど!
しかし、聞こえた声はこの場にいる者から発せられたものではなかった。何か機械を通したようにノイズと混ざっていた。余計になんて言っているのかわからなかったが。
驚いて首ごと視線を漂わせると自然と上に目がいった。
ガラス張りの窓の向こうに白衣を着た外国人が何人かいる。距離があるせいではっきりは見えない。
ハリウッド映画で似たようなの見たことあるぞ…。謎のウィルスを体内に入れられて暴走した被験体が、あっという間に世界を崩壊に導くんだ…。
そんな馬鹿げた妄想を脳内で繰り広げているうちに少年が徐々に手を伸ばしてきた。先程は俯いていてわかんなかったけど随分綺麗な男の子だな。私はこの子に今から何をされるんだろうか。
無抵抗のまま、少年の動向を他人事のように眺めていた、
身体に走る衝撃。嫌悪感、頭痛、それから視界が真っ赤に染まった。
泣きたい程苦しくて、辛くて、痛くて、今この激情に全てを委ねて目の前の少年を壊したいと思った。
それはかつての記憶。私ではない、
愛する"彼女"が死んで、悲しみに暮れ、それでも戦場に立ち___
嗚呼、“彼の人”が死んでしまったのだと気がついた。この子供、はとても“彼の人”に似ているけれど、違う。私は認めない。こんな子供、知らない。
「もう、離して…痛い…っ、」
「くそったれイノセンス…」
しゃがれた小さな声が聞こえた。それと同時に苦しさも痛さも全部引いていった。残ったのは、遣り場のない憎悪だけ。
「こっちの台詞だ、くそったれ」
自分でも驚くほど冷たく、低い声が出た。
※補足設定
・約30年前の本体のときのイノセンスは意志はない。イノセンスの記録を主人公という人間が見た事によって感情が当てられた。
・六幻に憑依する前の本体とのイノセンス自体の記憶(戦ったことやあの人とのことなど)が入ってきただけで、本人の本質は変わらないけど、主人公の場合はSAN値チェック多分失敗してる。
・(イノセンスに憑依している状態なので半分はイノセンス本体だと思っていただいて結構です。)話しかけても相手には聞こえないし自分一人では動けない