鬼の目にも涙
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ピピピ、と聞き慣れた機械音が部屋に響く。枕元にある音の正体を止め、ゆっくりと体を起こす。今日は随分とスッキリ起きれたものだ。いつもは二度寝、三度寝なんて当たり前なのに。だけど気分は最悪。どうしてだろうか。思考ははっきりしているのに、どうも胸のあたりがムカムカする。
なんだかとてもよくない夢を見た気がする。どんな夢かは思い出せない。
「寝汗やば…。」
寝汗で寝巻きのTシャツはビジョビジョである。まだそんなに暑い時期ではないのに。
「あれ…、?」
いつものようにカーテンを開け、朝日と今日の空模様を確認した時、頬を何かが伝った。汗かと思ったが、私の目から流れたらしい。なんで私泣いているんだろう。泣くほど嫌な夢を見たんだったか。それともただ単に目が乾いてだろうか。それにしたって今日は一段と、青空が綺麗に見える。
暫く意味もなく空を眺めていると五分後に設定していたスヌーズ機能が。ピピピ、と私を急かすように無機質に部屋に響いた。
とりあえずシャワーを浴びよう。こんなに汗をかいたままじゃ、学校にも行けやしない。
「あら、今日は朝練ないんじゃなかった?」
「なんか目が覚めた。」
「それは良いことね、普段からさっさと目が覚めてほしいわ。」
「はいはいすみませんー」
「今日パンは?持っていく?」
「今日ミーティングだけだからいらない。」
いつもの朝の風景。何も変わらない。なにも変わらないのに、私の不安を掻き立てる。
「ねぇ、お母さん。」
「んー?」
「…なんでもない、呼んだだけ。」
「何よそれ。」
変なリサね、って困った顔して笑う母はいつも通り。可笑しいのは私だけ?どうしてこんなに胸騒ぎがするんだろ。…忘れ物しないように時間割は入念にしよ。
「行ってきまーす。」
時間割は3回くらい確認したし、課題も昨日のうちになんとか終わらせたし、何も忘れていることはないはず。先生に怒られることはないだろう、……多分。
「ぎゃっ!何!?」
いつもの通学路、私の後ろに流れていく風景をぽけーと眺めていたら上から何か降ってきた。しかも太腿に落ちた。自転車を漕ぐ足を一旦止め、足を見ると白い何かが。
うげぇ、鳥の糞…。胸騒ぎとはこれだったのか…。最悪。幸いなのはスカートにはかかっていないこと。
ため息が一つ溢れる。自転車の籠の中に無造作に置かれるスクールバックから、ポケットティッシュを取り出し、自分の哀れな太腿を拭き取る。
朝からこんな嫌なことがあったのだから、今日1日、きっと何か凄く良いことがあるだろう。
しかし、私の予想に反して嫌なことは続いた。
丁度数学でわかんなかった問題が当たり、先生に頭を叩かれた。昼休みはその所為で先生に呼び出されて雑用を任され、昼食を食べ損ねた。放課後に昼休みで終わらなかった分をしていたら部活のミーティングに先輩よりも遅れて教室に入り、先輩には睨まれるし、何かと突っかかってくる同級生からも嫌味を言われた。事情を知っている顧問は私より後に来たから何も弁解してくれるはずもなく。気落ちしたまま下校していて、グラウンドで野球部が練習している真横を通り掛かったらネットに穴が空いていたらしく、硬球が左腕に当たった。痛いし、保健室に戻ったし、野球部は謝らないしすごくムカついた。『大丈夫ですか?』じゃなくて普通『すみません、』って帽子とって頭下げるのでしょうが。なに半笑いで心にも無い心配してるんだこの野郎。
保健室から出る頃には17時を回って、空が暗くなりかけていた。今日はもう家に帰ったらお風呂入ってご飯食べて寝てやる、と決断して、横断歩道に一歩踏み出した途端、右側から鉄の塊がすごい速さでぶつかってきた。折角硬球から右手を守ったのにこれじゃあ意味がない。明日部活に支障を来しちゃうじゃないか。今日だって居心地が悪かったのに。
今日のお母さんのご飯だけが楽しみだったのに。その楽しみすら感じる暇なく、私は今日を終えそうだ。
痛みなんて感じる暇なく、覚えているのは信号が青い光を発していることだけ。
何なんだ今日は。最悪だ、