エースの6歳年上の姉。海軍本部中将で青キジの直属の部下。掲げる正義は「仁こそ正義」詳しくはネタにて。
冬来りなば春遠からじ【完結】
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『青剣のレギーナ』、レギーナがそう呼ばれて暫く、エルマーは彼女の部下として配属された。
エルマーという男は直情型で短気、煽り耐性がなく、悪く言えば単細胞。故郷は海賊に荒らされ、両親も友人も殺された。海賊に対する嫌悪も私怨も当然なものであった。彼が海軍に志望した理由は言わずもがな、海賊を根絶やしにすることである。
それに対してレギーナの掲げる正義は「仁こそ正義」。任務において、彼女の優先事項は常に人命救助が最初にある。海賊の討伐など二の次だ。
そんな過激派とも言えるエルマーはレギーナの隊では浮いていた。
「どうした、エルマー。そんな不機嫌そうな顔して。腹でも壊したか?」
「黙れアダン。俺はこんな落ちぶれた隊で埋もれる男じゃない」
「産まれる?」
「埋もれるだ!耳クソ詰まってんのかっ!」
浮いているエルマーに話しかける男、アダン。彼はエルマーと同期の間柄である。エルマーと馴れ合おうとする数少ない海兵であった。
「ちょっと、ここをどこだと思ってるの?食堂よ。鼻クソだか耳クソだか知らないけど大声でそんなクソクソ言うのやめてくれる?」
「お前が一番クソクソ言ってんだろ」
エルマー同様に口の悪い女の名前はクリミア。彼女もまた、エルマーと同期の人間である。
3人は同期であったが、レギーナの部隊に配属されたのはアダンとクリミアのが先で、エルマーは2人から一年程遅れて配属された。
「俺は海賊共を根絶やしにするために海軍に入ったんだ。こんなところで足踏みなんてしてられねぇ」
エルマーはそう吐き捨てると食器を片すために席を立った。
エルマーが立ち去った後、アダンとクリミアは顔を見合わせる。
「あいつ相変わらずね。普通にあの人の部下としてムカつくんだけど。1回くらいぶっ殺してもいいかしら」
「よくないだろ、殺すなよ。…まぁお前のいうこともわかるが、きっとエルマーもあの人の素晴らしさに気づくだろ」
クリミアとアダンはレギーナを大層慕っていた。もちろん他の隊員も。クリミアは純粋な尊敬だが、稀にアダンのように信仰くさい部下もいる。それほどまでにレギーナという海兵は眩しい存在だった。
甲板に集められた海兵たちの視線は、前に立つ女に向けられている。まだ20になったばかりの若い女の階級は准将。異例のスピード出世である。彼女を知らない海兵たちの間ではアバズレ女など非常に不名誉な噂が立っているが、勿論根も葉もない噂である。
天才的な戦闘センス、持って生まれたカリスマ性、冷静な判断力、洞察力が功を成し、レギーナは海軍に入って10年、あっという間に准将にまで昇格した。
「物資の供給をする次の島の一つ前で海賊が暴れているらしい。直ちに上陸する。あの20分程で港に着く、一同準備を」
「イエス、マム!!」
ニコリとも笑うことなく淡々と命令を出したレギーナに海兵たちは敬礼で答える。
島に上陸して数分、島の惨状を目の当たりにしてエルマーは言葉を失った。似ているのだ、彼の故郷の惨状に。エルマーは頭に血がのぼるのがわかった。
「アダンとクリミアは私と共に先行しろ。その他は人命救助を。安心しろ、こんな惨状を生み出すのは三流海賊だ」
「俺も行きます!!!」
声を上げたエルマーにレギーナの視線が鋭くなる。小さく「アホ」「バカ」と呟いたアダンとクリミアの声は誰にも拾われない。
「私の命令が聞こえなかった?その他は人命救助。あんたは来なくていい」
「俺も戦います!海賊を、」
「海賊を殺しに?」
怒気の込められた声にエルマー含め、海兵たちがびくり、と肩を揺らす。キレたレギーナのすぐそばにいるアダンとクリミアは目をそらす。2人の「クソエルマー!」という心の声が重なった。
「お前に説教垂らす時間も惜しい。総員取りかかれ。行くぞ」
「イエス、マム」
珍しく怒鳴ることをしなかったレギーナにエルマーを除く部下たちは眼を見張る。が、すぐさま怪我人の救出、救助に取り掛かる。
先行した3人は反対の港に停泊している海賊船を見つけるとすぐ様乗り込み見張りの海賊を捉えると船を沈めた。
近くの島の駐在海兵たちが海賊と応戦しているらしく、3人はその場へと急ぐ。
その頃、命令違反を犯したエルマーは人命救助には参加せず、1人海賊が暴れている広場へと急いでいた。
なぜあの2人は連れて行ったのか、戦闘能力だけなら2人に劣らない、寧ろ俺の方が闘える、なぜ怒ったんだあの人は、エルマーの頭の中を様々な疑問が駆け巡る。
エルマーが広場に着いた頃、既に海賊は鎮圧されていた。
視界の端で、人影が動いたのがわかった。薄汚い細身の男が、幼い少年を抱えてコソコソと広場から離れようとしていた。
「おい、どこに行く!」
「!っ気づかれたか!」
海軍が停泊した港と逆に向かって行く男。まさか軍艦で逃げるつもりか、とエルマーは足を速める。エルマーが先程声を上げた為、脅されていたであろう島民の少年は泣きながら助けを求める。
「うるせぇぞクソガキ!!」
「?!」
持っていた銃で少年の頭を殴りつける男。そのままエルマーに向かって少年をモノのように投げつけると身軽になり、逃走を図る。
エルマーは少年を受け取るとその場に寝かせ、男を追おうとしたが、第三者の登場に数歩進んだ足を止めた。
第三者は光の加減によって淡く蒼く見える刀で男の足を切り落とした。男は勢いよく前に倒れ込み、聞くに耐えない絶叫をあげる。すぐ様斬った本人に意識は刈り取られた。
蒼い刀の持ち主は上司のレギーナ准将。視線は先程と同様に鋭く、エルマーを睨んでいた。
「今何をしようとした」
「え…、」
「何をしようとしたかと聞いている!!」
「…か、いぞくを、追おうと」
しました、言葉を続ける前に歩み寄ってきたレギーナにより、エルマーは殴りつけられ数メートル後ろの瓦礫に突っ込んだ。
「その頭を殴られた子供を置いてか」
「…っは、」
「船は壊すと作戦で話した。逃げたところでこの男に逃げ場はない。追って殺してどうする。殺しなんて阿保でもできる」
男はレギーナと行動を共にしていたアダンが止血をしていた。少年のそばにはクリミアが寄り添い、頭にハンカチを当てている。
レギーナはエルマーとの距離を埋めるためつかつかと歩み寄ると、呆然とレギーナを見上げるエルマーの胸倉を掴み至近距離で語りかける。珍しく怒鳴らないレギーナはドスを効かせた声でエルマーを詰った。
「男を殺して、子供が死んでいたらどうする。救えたはずの命を取りこぼして、海賊を根絶やしにするための尊い犠牲だと言うのか」
「言わ、ね、え」
「だろうな。お前はお前の島を襲った海賊とは違う、海兵だろう。お前みたいな子供を出さないために、人々の平穏な日常を守る人間だろうが」
「は、い…」
「目は覚めた?」
ふん、と鼻を鳴らしたレギーナはエルマーに背を向け軍艦を停泊した港へと向かった。
瓦礫に埋もれたままのエルマーは俯き、唇を噛み締める。そんなエルマーを引っ張り起こそうと伸びる掌がふたつ。アダンもクリミアだ。いつもならば突っぱねるその掌も、今回ばかりは戸惑いながらも伸ばす他なかった。
*
「エース…!ごめんなさい!!ごめんなさいっ…!!」
許せなかった。彼女が、忌々しい海賊と血の繋がった姉であることが。更にあの鬼の子だなんて。誰よりも正しい海兵であった彼女が、誰よりも忌々しい海賊が似合う男と、血の繋がりがあるなんて。
火拳を思って泣く彼女は痛々しいほどまでに哀れだった。あの青剣のレギーナが、我々のレギーナ中将が、弱々しく、死んだ人間に縋るように泣く上司が、哀れでたまらなかった。
違う、彼女は、こんなのは彼女じゃない。我々の上司が、こんな、これじゃあまるで、ただの人間みたいじゃないか。火拳と同じ鬼の子のくせに、何を泣いているのか。死を嘆いているのか。
誰よりも海兵らしかった彼女が、こんな残虐な世界を作り出した男の娘だなんて。
目の前が真っ暗になった気がした。
「…ゴール・D・レギーナ、それがあの人の本名です」
気がついたらサカズキ大将に全てを話していた。伝えるべき人間は、この人しかいないと思った。彼女の血筋が、絶対的に許せなかった。
その後、サカズキ大将はレギーナ中将の部隊との遠征任務を取り付け、我々は海に出た。作戦決行は今日、流れてくる暗雲。絶好の暗殺日和だと、無意識に口角が上がっていた。
なぁ、どうしてそんな顔するんだよ。同期のよしみだろ?
「アダン!!!お前ええええ!!!!!」
怒り狂ったエルマーの一太刀が俺を襲う。
いい剣筋だなぁ、エルマー。流石中将から直伝なだけある。お前はすっかり中将の犬になっちまって、見事だったよ。滑り落ちるのは一瞬なんだな。ん?何故裏切ったか、だって?ははは、裏切ったのは中将だろ。あんなに美しく、気高い海兵がまさか海賊王の娘だなんて。許せると思うか?許せるわけねぇだろ。裏切りだ、あの人は俺たちを裏切ったんだ。
嗚呼、雨が降ってきた、甲板が濡れ……、なんだこれ、あか?クリミアの剣かこれ、はは、俺の腹を貫いてる。そう言えばクリミア、お前も中将直伝だったな。雨じゃねぇな、これ。降板を濡らしてるのは雨じゃねぇ、俺の血だ。
お前ら2人とも、裏切りも
「あばよ、アダン」
大きな体を駆使して暴れまわる裏切り者のアダンの動きを止めたのはクリミアの剣だった。憎悪に濡れた瞳は俺たち2人と、中将に向けられていた。
忌々しいアダンの口から言葉が全て吐き出される前に胴と首を切り離し、海へと蹴り落とす。
最悪だ、最悪だ。降板は既に真っ赤に染まっている。中将の部隊の人間はもうほとんど残っていない。
嗚呼、降板に伏せっているあいつは先月プロポーズしたんだっけか。マストにもたれかかっているあいつは子供が生まれたらしかった。あいつも、あいつもあいつもあいつも、みんな、帰る家があって、待っている家族が居たのに。
ポツ、と頰を濡らす何か。雨だ。こりゃものの数分で大嵐だな。死なば諸共…どうせ死ぬなら、赤犬の部隊も巻き込んでぶっ殺してやる。
敬愛するレギーナ中将、貴女の助太刀はできそうにありません。まぁ、でも、こちらが片付いたら急いで向かいます。鬼のように強い貴女なら大丈夫でしょうが、俺とクリミアが向かうまで、どうか持ちこたえてください。
エルマーという男は直情型で短気、煽り耐性がなく、悪く言えば単細胞。故郷は海賊に荒らされ、両親も友人も殺された。海賊に対する嫌悪も私怨も当然なものであった。彼が海軍に志望した理由は言わずもがな、海賊を根絶やしにすることである。
それに対してレギーナの掲げる正義は「仁こそ正義」。任務において、彼女の優先事項は常に人命救助が最初にある。海賊の討伐など二の次だ。
そんな過激派とも言えるエルマーはレギーナの隊では浮いていた。
「どうした、エルマー。そんな不機嫌そうな顔して。腹でも壊したか?」
「黙れアダン。俺はこんな落ちぶれた隊で埋もれる男じゃない」
「産まれる?」
「埋もれるだ!耳クソ詰まってんのかっ!」
浮いているエルマーに話しかける男、アダン。彼はエルマーと同期の間柄である。エルマーと馴れ合おうとする数少ない海兵であった。
「ちょっと、ここをどこだと思ってるの?食堂よ。鼻クソだか耳クソだか知らないけど大声でそんなクソクソ言うのやめてくれる?」
「お前が一番クソクソ言ってんだろ」
エルマー同様に口の悪い女の名前はクリミア。彼女もまた、エルマーと同期の人間である。
3人は同期であったが、レギーナの部隊に配属されたのはアダンとクリミアのが先で、エルマーは2人から一年程遅れて配属された。
「俺は海賊共を根絶やしにするために海軍に入ったんだ。こんなところで足踏みなんてしてられねぇ」
エルマーはそう吐き捨てると食器を片すために席を立った。
エルマーが立ち去った後、アダンとクリミアは顔を見合わせる。
「あいつ相変わらずね。普通にあの人の部下としてムカつくんだけど。1回くらいぶっ殺してもいいかしら」
「よくないだろ、殺すなよ。…まぁお前のいうこともわかるが、きっとエルマーもあの人の素晴らしさに気づくだろ」
クリミアとアダンはレギーナを大層慕っていた。もちろん他の隊員も。クリミアは純粋な尊敬だが、稀にアダンのように信仰くさい部下もいる。それほどまでにレギーナという海兵は眩しい存在だった。
甲板に集められた海兵たちの視線は、前に立つ女に向けられている。まだ20になったばかりの若い女の階級は准将。異例のスピード出世である。彼女を知らない海兵たちの間ではアバズレ女など非常に不名誉な噂が立っているが、勿論根も葉もない噂である。
天才的な戦闘センス、持って生まれたカリスマ性、冷静な判断力、洞察力が功を成し、レギーナは海軍に入って10年、あっという間に准将にまで昇格した。
「物資の供給をする次の島の一つ前で海賊が暴れているらしい。直ちに上陸する。あの20分程で港に着く、一同準備を」
「イエス、マム!!」
ニコリとも笑うことなく淡々と命令を出したレギーナに海兵たちは敬礼で答える。
島に上陸して数分、島の惨状を目の当たりにしてエルマーは言葉を失った。似ているのだ、彼の故郷の惨状に。エルマーは頭に血がのぼるのがわかった。
「アダンとクリミアは私と共に先行しろ。その他は人命救助を。安心しろ、こんな惨状を生み出すのは三流海賊だ」
「俺も行きます!!!」
声を上げたエルマーにレギーナの視線が鋭くなる。小さく「アホ」「バカ」と呟いたアダンとクリミアの声は誰にも拾われない。
「私の命令が聞こえなかった?その他は人命救助。あんたは来なくていい」
「俺も戦います!海賊を、」
「海賊を殺しに?」
怒気の込められた声にエルマー含め、海兵たちがびくり、と肩を揺らす。キレたレギーナのすぐそばにいるアダンとクリミアは目をそらす。2人の「クソエルマー!」という心の声が重なった。
「お前に説教垂らす時間も惜しい。総員取りかかれ。行くぞ」
「イエス、マム」
珍しく怒鳴ることをしなかったレギーナにエルマーを除く部下たちは眼を見張る。が、すぐさま怪我人の救出、救助に取り掛かる。
先行した3人は反対の港に停泊している海賊船を見つけるとすぐ様乗り込み見張りの海賊を捉えると船を沈めた。
近くの島の駐在海兵たちが海賊と応戦しているらしく、3人はその場へと急ぐ。
その頃、命令違反を犯したエルマーは人命救助には参加せず、1人海賊が暴れている広場へと急いでいた。
なぜあの2人は連れて行ったのか、戦闘能力だけなら2人に劣らない、寧ろ俺の方が闘える、なぜ怒ったんだあの人は、エルマーの頭の中を様々な疑問が駆け巡る。
エルマーが広場に着いた頃、既に海賊は鎮圧されていた。
視界の端で、人影が動いたのがわかった。薄汚い細身の男が、幼い少年を抱えてコソコソと広場から離れようとしていた。
「おい、どこに行く!」
「!っ気づかれたか!」
海軍が停泊した港と逆に向かって行く男。まさか軍艦で逃げるつもりか、とエルマーは足を速める。エルマーが先程声を上げた為、脅されていたであろう島民の少年は泣きながら助けを求める。
「うるせぇぞクソガキ!!」
「?!」
持っていた銃で少年の頭を殴りつける男。そのままエルマーに向かって少年をモノのように投げつけると身軽になり、逃走を図る。
エルマーは少年を受け取るとその場に寝かせ、男を追おうとしたが、第三者の登場に数歩進んだ足を止めた。
第三者は光の加減によって淡く蒼く見える刀で男の足を切り落とした。男は勢いよく前に倒れ込み、聞くに耐えない絶叫をあげる。すぐ様斬った本人に意識は刈り取られた。
蒼い刀の持ち主は上司のレギーナ准将。視線は先程と同様に鋭く、エルマーを睨んでいた。
「今何をしようとした」
「え…、」
「何をしようとしたかと聞いている!!」
「…か、いぞくを、追おうと」
しました、言葉を続ける前に歩み寄ってきたレギーナにより、エルマーは殴りつけられ数メートル後ろの瓦礫に突っ込んだ。
「その頭を殴られた子供を置いてか」
「…っは、」
「船は壊すと作戦で話した。逃げたところでこの男に逃げ場はない。追って殺してどうする。殺しなんて阿保でもできる」
男はレギーナと行動を共にしていたアダンが止血をしていた。少年のそばにはクリミアが寄り添い、頭にハンカチを当てている。
レギーナはエルマーとの距離を埋めるためつかつかと歩み寄ると、呆然とレギーナを見上げるエルマーの胸倉を掴み至近距離で語りかける。珍しく怒鳴らないレギーナはドスを効かせた声でエルマーを詰った。
「男を殺して、子供が死んでいたらどうする。救えたはずの命を取りこぼして、海賊を根絶やしにするための尊い犠牲だと言うのか」
「言わ、ね、え」
「だろうな。お前はお前の島を襲った海賊とは違う、海兵だろう。お前みたいな子供を出さないために、人々の平穏な日常を守る人間だろうが」
「は、い…」
「目は覚めた?」
ふん、と鼻を鳴らしたレギーナはエルマーに背を向け軍艦を停泊した港へと向かった。
瓦礫に埋もれたままのエルマーは俯き、唇を噛み締める。そんなエルマーを引っ張り起こそうと伸びる掌がふたつ。アダンもクリミアだ。いつもならば突っぱねるその掌も、今回ばかりは戸惑いながらも伸ばす他なかった。
*
「エース…!ごめんなさい!!ごめんなさいっ…!!」
許せなかった。彼女が、忌々しい海賊と血の繋がった姉であることが。更にあの鬼の子だなんて。誰よりも正しい海兵であった彼女が、誰よりも忌々しい海賊が似合う男と、血の繋がりがあるなんて。
火拳を思って泣く彼女は痛々しいほどまでに哀れだった。あの青剣のレギーナが、我々のレギーナ中将が、弱々しく、死んだ人間に縋るように泣く上司が、哀れでたまらなかった。
違う、彼女は、こんなのは彼女じゃない。我々の上司が、こんな、これじゃあまるで、ただの人間みたいじゃないか。火拳と同じ鬼の子のくせに、何を泣いているのか。死を嘆いているのか。
誰よりも海兵らしかった彼女が、こんな残虐な世界を作り出した男の娘だなんて。
目の前が真っ暗になった気がした。
「…ゴール・D・レギーナ、それがあの人の本名です」
気がついたらサカズキ大将に全てを話していた。伝えるべき人間は、この人しかいないと思った。彼女の血筋が、絶対的に許せなかった。
その後、サカズキ大将はレギーナ中将の部隊との遠征任務を取り付け、我々は海に出た。作戦決行は今日、流れてくる暗雲。絶好の暗殺日和だと、無意識に口角が上がっていた。
なぁ、どうしてそんな顔するんだよ。同期のよしみだろ?
「アダン!!!お前ええええ!!!!!」
怒り狂ったエルマーの一太刀が俺を襲う。
いい剣筋だなぁ、エルマー。流石中将から直伝なだけある。お前はすっかり中将の犬になっちまって、見事だったよ。滑り落ちるのは一瞬なんだな。ん?何故裏切ったか、だって?ははは、裏切ったのは中将だろ。あんなに美しく、気高い海兵がまさか海賊王の娘だなんて。許せると思うか?許せるわけねぇだろ。裏切りだ、あの人は俺たちを裏切ったんだ。
嗚呼、雨が降ってきた、甲板が濡れ……、なんだこれ、あか?クリミアの剣かこれ、はは、俺の腹を貫いてる。そう言えばクリミア、お前も中将直伝だったな。雨じゃねぇな、これ。降板を濡らしてるのは雨じゃねぇ、俺の血だ。
お前ら2人とも、裏切りも
「あばよ、アダン」
大きな体を駆使して暴れまわる裏切り者のアダンの動きを止めたのはクリミアの剣だった。憎悪に濡れた瞳は俺たち2人と、中将に向けられていた。
忌々しいアダンの口から言葉が全て吐き出される前に胴と首を切り離し、海へと蹴り落とす。
最悪だ、最悪だ。降板は既に真っ赤に染まっている。中将の部隊の人間はもうほとんど残っていない。
嗚呼、降板に伏せっているあいつは先月プロポーズしたんだっけか。マストにもたれかかっているあいつは子供が生まれたらしかった。あいつも、あいつもあいつもあいつも、みんな、帰る家があって、待っている家族が居たのに。
ポツ、と頰を濡らす何か。雨だ。こりゃものの数分で大嵐だな。死なば諸共…どうせ死ぬなら、赤犬の部隊も巻き込んでぶっ殺してやる。
敬愛するレギーナ中将、貴女の助太刀はできそうにありません。まぁ、でも、こちらが片付いたら急いで向かいます。鬼のように強い貴女なら大丈夫でしょうが、俺とクリミアが向かうまで、どうか持ちこたえてください。