エースの6歳年上の姉。海軍本部中将で青キジの直属の部下。掲げる正義は「仁こそ正義」詳しくはネタにて。
冬来りなば春遠からじ【完結】
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身体中がいてぇ…。
気が付いたらオレはダダンの家の床に転がっていた。視界の端で自分と同じように床に転がっているルフィとエースの姿も見える。
あぁ、今回もいつも通り三人とも無様に負けたのか。サボは天井をボーっと見上げながらゆっくりと溜息を吐いた。
時はサボが気を失う前、数時間前に遡る。
*
「よう、ガキ共」
不定期にやってくる、オレより6歳上の女。綺麗な見た目に反して性格は凶暴。まさしく鬼。
この女に対してエースもルフィも、勿論オレも、いろんな意味で強く出ることができない。
そしてこの女がやって来ることによって始まる地獄の時間。今日こそは、勝つ。
「外に出な。鍛錬の時間だ」
女の名前はレギーナ。エースと血の繋がった実の姉らしい。そして海軍所属の女海兵。性格も身体能力も戦闘能力も鬼。
最初は一対一で挑んでいたレギーナとの鍛錬だったが、レギーナの煽りに負けたエースがそのルールをぶん投げた。結果、三対一で今では落ち着いた。三人でかかってもレギーナに一勝もできていないのだが。
ルフィは早々に殴られ投げ飛ばされ気を失って樹の根元で伸びている。既にエースもオレも満身創痍。今日もまた、一撃も入れられずに終わるのか。
「ほんと、何も成長しないね。やる気あるの?」
「うるせぇ!!クッソ、なんでだよ…」
「エース、熱くなりすぎるな」
「わかってる!!」
今日もまた、何時もの流れだ…。レギーナの煽りに乗っかって頭に血がのぼるエース。動きは徐々に単調になっていき、結局レギーナに伸される未来が眼に浮かぶ。というか、デジャヴ。
「そうやってすぐキレる短気は直したほうがいいわね?バカがバレるわよ。あぁ、でも海賊ならそれくらいバカの方が救いようがなくていいか」
「ぶっ飛ばす!!」
「エース!」
エースは本当に煽り耐性が低すぎる。何度も何度も、もう何十回と同じようなことをレギーナに言われているのに、学ばないというか何というか。一体なぜそこまでレギーナに対して意地になるのか。
レギーナもレギーナだ。実弟なら、というか兄弟ならもっと言葉を選んでもいいだろ。血の繋がらない俺たちより、エースにより厳しすぎるように感じる。
「雑魚ガキが…三流海賊にもなれやしないわ」
「ちく、しょ……」
「さぁて、クソガキ。あとはあんただけ」
「くそっ!」
レギーナの冷たい目がオレを射抜く。逃げられない、逃げるつもりもない。レギーナの目は雄弁に語っていた。オレたちなんか、海に出てもすぐに死ぬって。出てみなきゃわかんねぇ。でも、将校にすらなってない女海兵のレギーナに勝てない俺たちじゃ、たしかに生きていけない。だったら、勝てるまで挑み続けるしかない。
獲物を何も持たず、構えすら取らない余裕を見せるレギーナに、サボは鉄パイプを握りしめ駆け出した。
今日も派手にやられた。背中は痛くて起き上がれない。辛うじて動く首を動かして自分の体の状態を見る。毎回のことだが体には治療を施した後が。
エースは何も言わないが、治療はレギーナがいつもしてくれている、多分。丁寧にガーゼは貼ってあるし、湿布もシワが寄ることなく貼ってある。包帯だってほつれないようしっかり巻いてある。
鍛錬中は鬼ではあるが、ここまで丁寧に治療までされると、本当にレギーナがなんなのかわからなくなる。確かに怖いし鬼だし苦手だが、嫌いにはなれなかった。
「あんたも、毎度毎度良くやるね」
タダンの声だ。声の方へ首を向けるとエースの側に座るレギーナ。その目の前にダダンはどかり、と胡座をかく。
「私に勝てなきゃ、海になんて出てもすぐ死ぬ」
ぐっ、と息がつまる。レギーナは、いつものようにサボたちを煽るつもりで言っているのではない。真実を淡々と述べているだけだった。
「それにしたってエースに対しては特段に当たりが強いじゃないか」
「えっ、嘘。強いかな?」
「はぁ~~??自覚なしかい!?数年前の自分を忘れたか!?」
「ちょ、うるさいよダダン。三人が起きる」
人差し指を立て、それを口元に持っていき、ダダンに静かに、とジェスチャーするレギーナ。
うっそだろ…レギーナ、自覚なかったのかよ。あんなにエースのこと煽りに煽っておいて、全部無自覚だって言うのかよ。ダダンも声がでかすぎるし、ていうかもうオレ起きてるし。
半ば呆れながらもサボは2人の会話に聞き耳をたてる。
「もうね、エースに優しい自分とは決別したの。優しくしたって、エースは海に出る。だったら嫌われたっていい、それでエースの生存率が上がるならそれでいい」
「あんた…」
「エースは私が守る。姉ちゃんだからね。あ、勿論サボとルフィも」
三人とも、私の可愛い弟だから。そう言ってダダンに見せた下手くそな笑顔。横顔であったが、この笑顔がオレには忘れられないものとなった。
さらり、とエースの前髪を掻き上げ、優しく額に触れる。同じ手で殴られ、掴まれ、投げ飛ばされていたなんて考えられなかった。
オレはこの瞬間からレギーナに恋をしていたんだ。本当は優しい、不器用な彼女に。
*
記憶を取り戻し、エースの死に絶望したとき彼女はどうしているのか心配になった。青剣のレギーナが、レギーナだとはすぐ気がついた。
新聞で彼女が任務中に事故死したと読んだときはまた目の前が真っ暗になった。しかし、革命軍で医者をしていた男からすぐに連絡が入った。海兵を匿っていると。一番はじめに彼女の元に訪れた部下2人からは確かに青剣のレギーナだと確認が取れた。
そしてそれからすぐ、ルフィの報道も入った。オレの兄弟は、まだ生きているんだ。
報告は受けていたが実際に会ったレギーナの姿に、少なからずショックを受けた。片腕はなくなり、全身包帯だらけで綺麗な顔には大きなガーゼが貼ってあった。凛々しかったレギーナが、暗く濁った目で俺を見ていた。
何故自分は生きているのか、自分が醜いと吐露する彼女が酷く愛おしくなった。何年も忘れていた彼女の存在、そしてそれと一緒に淡い恋心も忘れていた。それが今になって「淡い恋心」なんて可愛いもんじゃなくなり、蘇ってきた。
「俺は、あんたが生きててくれて嬉しい。醜いなんて言わないでくれ。俺にとってレギーナはどんな時でも、どんな姿をしていたって、綺麗で強くてかっこよかった」
エースに対してどうしてあたりが強いのか、レギーナの本心を聞いた日から彼女がずっとキラキラ輝いて見えていた。
俺の言葉に俯いていた顔を上げる。エースと異なる目の形、その瞳から涙がこぼれだす。表情はくしゃり、と歪んで…端的に言えば下手くそな泣き顔だ。泣こうとしているのに、泣くまいと表情筋の何処かが力み、表情が不自然に歪んでいる。
なんだよレギーナ、お前笑うのも泣くのも下手くそなのかよ。
「私、エースにお姉ちゃんらしいことなにもできながった、こんなっ、こんなことになるんだったら、もっど一緒にいてあげればよがっだっ!!」
レギーナの言葉に胸が締め付けられる。レギーナが一体、何を思ってエースに厳しく接していたのかあの日、聞いてしまったからだ。遣る瀬無い、彼女の胸の痛みなんて俺には計り知れない。
悲痛で歪む表情が、後悔してもしきれないレギーナの言葉に、涙に、胸が張り裂けそうだった。
「俺はあんたほど不器用に弟を愛し続けた姉なんか知らねえし見たことない。エースにも伝わってるよ。…何度でも言うよ、姉ちゃん、生きててくれてありがとう」
「…う"っ、うぅ、」
エースは確かに意地を張っていた節はある。きっと気づいてる。気を失うまで鍛錬していたが、眼が覚めると必ず施されている治療。あのダダンの家でこんなに綺麗に包帯を巻けるやつなんていなかった。エースは俺より長くあそこにいたんだから、気づかないはずがない。
姉ちゃん、生きててくれてありがとう。俺はレギーナを姉と慕っている…慕っていた。好きだ、レギーナ。この気持ちを、まだあんたには伝えられない。だけど弟としてのこの思いは、嘘偽りのない本心だよ、生きててくれてありがとう。
弟として抱きしめた姉の身体はとても小さく、頼りなく、震えていた。強くてかっこいい姉ちゃんは、本当はこんなにも小さかったのだ。
「サボ……」
「ん?」
「貴方も、生きててくれてありがとう」
「……………おう」
レギーナの言葉に少し泣いたのは俺だけの秘密だ。会いに行けなくてごめん。助けに行けなくて、ごめん。こんなにも大好きで、大切だったエースと、ルフィ、レギーナのこと、忘れててごめん。でも、また会えてうれしい。あぁ、そうさ、どうしようもなく、嬉しい。
レギーナが泣いて、しばらく落ち着いた頃。赤く腫れ上がった目元と声をあげて泣いた所為で痛んできたであろう喉を労ってナースから濡れタオルとコップ一杯の水を取りに席を立った。戻ってきて、レギーナにそれらを渡し、イスに腰掛ける。
彼女の顔半分を覆うガーゼ越しに頬に触れる。火傷に障らないよう、うんと優しく触れる。ガーゼで隠れているが、この下にはきっと痛々しい火傷が広がっているのだろう。俺の痛む心より、レギーナの心と身体の方が何億倍も痛い。
「私ね、自分の顔あんまり好きじゃなかったの。じいちゃんは……爺馬鹿だからさておき、周りの海兵から言い寄られることもあったから多分見てくれは悪くなかったと思う」
「あんたは綺麗だよ」
そうだよな、モテるよなレギーナは。なんて言ったってこんなに綺麗なんだから。
「ふふっよく恥ずかしげもなくそんなこと言えるわね。私の顔、エースと全然似てないでしょ?目つきも全然違うし雀斑だってない。髪だって色も違えば髪質も違う。」
「そ、んなこと…」
「あるよ。全然似てないなってちゃんとわかってる。」
確かにレギーナとエースは似てない。レギーナが要素を上げる通り、容姿の似ている要素はほとんどない。自分の容姿についてそんなふうに思っていたことは知らなかったが。
「でも今は顔に火傷跡できちゃったから、可愛い弟とお揃い」
「は?」
「だから!サボとお揃い!でしょ」
間抜けな声が出てしまったが、それはレギーナが突然俺の目元に触れてきたから。記憶を無くしたあの日に負った火傷痕を、なにかを確かめるように撫でられる。包帯だらけの、豆だらけの温かい手で俺に優しく触れる。レギーナの表情は、あの日見た、下手くそな笑顔と一緒だった。
気が付いたらオレはダダンの家の床に転がっていた。視界の端で自分と同じように床に転がっているルフィとエースの姿も見える。
あぁ、今回もいつも通り三人とも無様に負けたのか。サボは天井をボーっと見上げながらゆっくりと溜息を吐いた。
時はサボが気を失う前、数時間前に遡る。
*
「よう、ガキ共」
不定期にやってくる、オレより6歳上の女。綺麗な見た目に反して性格は凶暴。まさしく鬼。
この女に対してエースもルフィも、勿論オレも、いろんな意味で強く出ることができない。
そしてこの女がやって来ることによって始まる地獄の時間。今日こそは、勝つ。
「外に出な。鍛錬の時間だ」
女の名前はレギーナ。エースと血の繋がった実の姉らしい。そして海軍所属の女海兵。性格も身体能力も戦闘能力も鬼。
最初は一対一で挑んでいたレギーナとの鍛錬だったが、レギーナの煽りに負けたエースがそのルールをぶん投げた。結果、三対一で今では落ち着いた。三人でかかってもレギーナに一勝もできていないのだが。
ルフィは早々に殴られ投げ飛ばされ気を失って樹の根元で伸びている。既にエースもオレも満身創痍。今日もまた、一撃も入れられずに終わるのか。
「ほんと、何も成長しないね。やる気あるの?」
「うるせぇ!!クッソ、なんでだよ…」
「エース、熱くなりすぎるな」
「わかってる!!」
今日もまた、何時もの流れだ…。レギーナの煽りに乗っかって頭に血がのぼるエース。動きは徐々に単調になっていき、結局レギーナに伸される未来が眼に浮かぶ。というか、デジャヴ。
「そうやってすぐキレる短気は直したほうがいいわね?バカがバレるわよ。あぁ、でも海賊ならそれくらいバカの方が救いようがなくていいか」
「ぶっ飛ばす!!」
「エース!」
エースは本当に煽り耐性が低すぎる。何度も何度も、もう何十回と同じようなことをレギーナに言われているのに、学ばないというか何というか。一体なぜそこまでレギーナに対して意地になるのか。
レギーナもレギーナだ。実弟なら、というか兄弟ならもっと言葉を選んでもいいだろ。血の繋がらない俺たちより、エースにより厳しすぎるように感じる。
「雑魚ガキが…三流海賊にもなれやしないわ」
「ちく、しょ……」
「さぁて、クソガキ。あとはあんただけ」
「くそっ!」
レギーナの冷たい目がオレを射抜く。逃げられない、逃げるつもりもない。レギーナの目は雄弁に語っていた。オレたちなんか、海に出てもすぐに死ぬって。出てみなきゃわかんねぇ。でも、将校にすらなってない女海兵のレギーナに勝てない俺たちじゃ、たしかに生きていけない。だったら、勝てるまで挑み続けるしかない。
獲物を何も持たず、構えすら取らない余裕を見せるレギーナに、サボは鉄パイプを握りしめ駆け出した。
今日も派手にやられた。背中は痛くて起き上がれない。辛うじて動く首を動かして自分の体の状態を見る。毎回のことだが体には治療を施した後が。
エースは何も言わないが、治療はレギーナがいつもしてくれている、多分。丁寧にガーゼは貼ってあるし、湿布もシワが寄ることなく貼ってある。包帯だってほつれないようしっかり巻いてある。
鍛錬中は鬼ではあるが、ここまで丁寧に治療までされると、本当にレギーナがなんなのかわからなくなる。確かに怖いし鬼だし苦手だが、嫌いにはなれなかった。
「あんたも、毎度毎度良くやるね」
タダンの声だ。声の方へ首を向けるとエースの側に座るレギーナ。その目の前にダダンはどかり、と胡座をかく。
「私に勝てなきゃ、海になんて出てもすぐ死ぬ」
ぐっ、と息がつまる。レギーナは、いつものようにサボたちを煽るつもりで言っているのではない。真実を淡々と述べているだけだった。
「それにしたってエースに対しては特段に当たりが強いじゃないか」
「えっ、嘘。強いかな?」
「はぁ~~??自覚なしかい!?数年前の自分を忘れたか!?」
「ちょ、うるさいよダダン。三人が起きる」
人差し指を立て、それを口元に持っていき、ダダンに静かに、とジェスチャーするレギーナ。
うっそだろ…レギーナ、自覚なかったのかよ。あんなにエースのこと煽りに煽っておいて、全部無自覚だって言うのかよ。ダダンも声がでかすぎるし、ていうかもうオレ起きてるし。
半ば呆れながらもサボは2人の会話に聞き耳をたてる。
「もうね、エースに優しい自分とは決別したの。優しくしたって、エースは海に出る。だったら嫌われたっていい、それでエースの生存率が上がるならそれでいい」
「あんた…」
「エースは私が守る。姉ちゃんだからね。あ、勿論サボとルフィも」
三人とも、私の可愛い弟だから。そう言ってダダンに見せた下手くそな笑顔。横顔であったが、この笑顔がオレには忘れられないものとなった。
さらり、とエースの前髪を掻き上げ、優しく額に触れる。同じ手で殴られ、掴まれ、投げ飛ばされていたなんて考えられなかった。
オレはこの瞬間からレギーナに恋をしていたんだ。本当は優しい、不器用な彼女に。
*
記憶を取り戻し、エースの死に絶望したとき彼女はどうしているのか心配になった。青剣のレギーナが、レギーナだとはすぐ気がついた。
新聞で彼女が任務中に事故死したと読んだときはまた目の前が真っ暗になった。しかし、革命軍で医者をしていた男からすぐに連絡が入った。海兵を匿っていると。一番はじめに彼女の元に訪れた部下2人からは確かに青剣のレギーナだと確認が取れた。
そしてそれからすぐ、ルフィの報道も入った。オレの兄弟は、まだ生きているんだ。
報告は受けていたが実際に会ったレギーナの姿に、少なからずショックを受けた。片腕はなくなり、全身包帯だらけで綺麗な顔には大きなガーゼが貼ってあった。凛々しかったレギーナが、暗く濁った目で俺を見ていた。
何故自分は生きているのか、自分が醜いと吐露する彼女が酷く愛おしくなった。何年も忘れていた彼女の存在、そしてそれと一緒に淡い恋心も忘れていた。それが今になって「淡い恋心」なんて可愛いもんじゃなくなり、蘇ってきた。
「俺は、あんたが生きててくれて嬉しい。醜いなんて言わないでくれ。俺にとってレギーナはどんな時でも、どんな姿をしていたって、綺麗で強くてかっこよかった」
エースに対してどうしてあたりが強いのか、レギーナの本心を聞いた日から彼女がずっとキラキラ輝いて見えていた。
俺の言葉に俯いていた顔を上げる。エースと異なる目の形、その瞳から涙がこぼれだす。表情はくしゃり、と歪んで…端的に言えば下手くそな泣き顔だ。泣こうとしているのに、泣くまいと表情筋の何処かが力み、表情が不自然に歪んでいる。
なんだよレギーナ、お前笑うのも泣くのも下手くそなのかよ。
「私、エースにお姉ちゃんらしいことなにもできながった、こんなっ、こんなことになるんだったら、もっど一緒にいてあげればよがっだっ!!」
レギーナの言葉に胸が締め付けられる。レギーナが一体、何を思ってエースに厳しく接していたのかあの日、聞いてしまったからだ。遣る瀬無い、彼女の胸の痛みなんて俺には計り知れない。
悲痛で歪む表情が、後悔してもしきれないレギーナの言葉に、涙に、胸が張り裂けそうだった。
「俺はあんたほど不器用に弟を愛し続けた姉なんか知らねえし見たことない。エースにも伝わってるよ。…何度でも言うよ、姉ちゃん、生きててくれてありがとう」
「…う"っ、うぅ、」
エースは確かに意地を張っていた節はある。きっと気づいてる。気を失うまで鍛錬していたが、眼が覚めると必ず施されている治療。あのダダンの家でこんなに綺麗に包帯を巻けるやつなんていなかった。エースは俺より長くあそこにいたんだから、気づかないはずがない。
姉ちゃん、生きててくれてありがとう。俺はレギーナを姉と慕っている…慕っていた。好きだ、レギーナ。この気持ちを、まだあんたには伝えられない。だけど弟としてのこの思いは、嘘偽りのない本心だよ、生きててくれてありがとう。
弟として抱きしめた姉の身体はとても小さく、頼りなく、震えていた。強くてかっこいい姉ちゃんは、本当はこんなにも小さかったのだ。
「サボ……」
「ん?」
「貴方も、生きててくれてありがとう」
「……………おう」
レギーナの言葉に少し泣いたのは俺だけの秘密だ。会いに行けなくてごめん。助けに行けなくて、ごめん。こんなにも大好きで、大切だったエースと、ルフィ、レギーナのこと、忘れててごめん。でも、また会えてうれしい。あぁ、そうさ、どうしようもなく、嬉しい。
レギーナが泣いて、しばらく落ち着いた頃。赤く腫れ上がった目元と声をあげて泣いた所為で痛んできたであろう喉を労ってナースから濡れタオルとコップ一杯の水を取りに席を立った。戻ってきて、レギーナにそれらを渡し、イスに腰掛ける。
彼女の顔半分を覆うガーゼ越しに頬に触れる。火傷に障らないよう、うんと優しく触れる。ガーゼで隠れているが、この下にはきっと痛々しい火傷が広がっているのだろう。俺の痛む心より、レギーナの心と身体の方が何億倍も痛い。
「私ね、自分の顔あんまり好きじゃなかったの。じいちゃんは……爺馬鹿だからさておき、周りの海兵から言い寄られることもあったから多分見てくれは悪くなかったと思う」
「あんたは綺麗だよ」
そうだよな、モテるよなレギーナは。なんて言ったってこんなに綺麗なんだから。
「ふふっよく恥ずかしげもなくそんなこと言えるわね。私の顔、エースと全然似てないでしょ?目つきも全然違うし雀斑だってない。髪だって色も違えば髪質も違う。」
「そ、んなこと…」
「あるよ。全然似てないなってちゃんとわかってる。」
確かにレギーナとエースは似てない。レギーナが要素を上げる通り、容姿の似ている要素はほとんどない。自分の容姿についてそんなふうに思っていたことは知らなかったが。
「でも今は顔に火傷跡できちゃったから、可愛い弟とお揃い」
「は?」
「だから!サボとお揃い!でしょ」
間抜けな声が出てしまったが、それはレギーナが突然俺の目元に触れてきたから。記憶を無くしたあの日に負った火傷痕を、なにかを確かめるように撫でられる。包帯だらけの、豆だらけの温かい手で俺に優しく触れる。レギーナの表情は、あの日見た、下手くそな笑顔と一緒だった。