エースの6歳年上の姉。海軍本部中将で青キジの直属の部下。掲げる正義は「仁こそ正義」詳しくはネタにて。
冬来りなば春遠からじ【完結】
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死んだと思ったらどうにも親切な医者に助けられた。無様にも片腕も無くし、特に頓着もしなかった顔の左半分に醜い火傷を負った。新聞なんかは読んでいないから私のことが報道されているかはわからない。これは憶測に過ぎないが、本部では死んだことにされてる、と思う。死体は見つかっていないけど私も死んだと思ったし彼方さんも殺したと思ってる。確認のしようはないけれど、死んでるんだろうな。
きっと親切な医者も私が何者かわかっていないであろう。バレているのだったら今頃海軍の連中が私を引き取りに来るか、CPか何かをつかって私を殺しにくるしな。まぁ結果的に海軍は辞職できてラッキーである。
生きているのか死んでいるのかよくわからない状態のまま治療されて数ヶ月、殆どベッドの上で過ごしつつ極稀に家の中を練り歩いてはナースに部屋に戻れと叱られ、ベッドの上へと逆戻りといった生活を続けていた。そんなある日黒いコートを着たどうにも怪しい男女2人組が私の元へ訪ねてきた。
「初めまして、元海軍中将青剣のレギーナ殿」
「何?私を殺しに来たの?」
「滅相もありません!お願いというか…我々は勧誘に参りました」
「勧誘…?」
「是非、革命軍で共に戦士として戦いませんか?」
「断る」
まさか革命軍の連中だったか。全貌は知らないが、厄介な連中であることは分かる。どういった情報網を使ったのか知らないが、死にかけた女が私だと知っているなんて、やはり侮れない組織だな。
「貴女は海軍に捨てられた身…それでもまだ正義だ何だと言うのですか」
「随分言ってくれるじゃん犯罪者」
「何だとっ!?」
「傷に触るから帰ってくれる?」
海軍にできないことをやってのける革命軍。しかし結局それは犯罪行為にしかならない。気の毒な組織だと思うけれど、犯罪者は犯罪者。私の血筋がどうであれ、エースのために人生掛けるつもりで海軍に入ったのだ。確かに海軍には見捨てられたかもしれないが、元々辞職するつもりではあったので結果オーライである。そんな私が、存在が罪である私が、革命軍になんて入ったら、世界的にみても本当の犯罪者になってしまう。これ以上じいちゃんの心労も増やすわけにはいかない。
革命軍の勧誘を断ってからと言うもの、奴らは何度も私の元へ訪れては入らないか、どうだと言ってきた。何度も言っているが私は犯罪者に成り下がるわけにはいかない。
私を助けてくれた親切な人たちは何と革命軍支援者だったらしい。本心では入って欲しそうだが私の血筋がバレればそうも言ってられないだろう。
だが予測できないことがその日は起きた。特に意味もなくベッドの上から窓の外を眺めていると、私の部屋に訪問人が。ドクターやナースは必ずノックをしてくれるが飛んだ無礼者が訪ねてきたようだ。
黒いハットに黒いコート、随分小綺麗で上品な無礼者だ。
「レディの部屋にノックをしないで入るなんて随分な紳士ね」
「レディ?あんたのことか?」
なんということだ。想像をはるかに超える失礼な男だ。私が本調子なら今頃ぶっ飛ばしてる。
「そう殺気立つなよ。別にあんたとやり合おうって訳じゃない。俺個人としてあんたと話がしたい」
「あんた個人として?革命軍のNo.2が死に損ないの元海兵に一体何の用?」
「なんだ、知ってたのか」
「元中将なんだから犯罪者の顔くらい覚えてる」
「犯罪者の顔か…じゃあさ、弟の顔は?」
「は、」
「なんだよ…あんたも記憶喪失か?」
弟ってなんだ、なんで私に弟がいたことを知ってるの。私には3人の弟がいた、本人たちが私のことをどう思っていたから知らないけれど。実弟のエースは死に、ルフィは戦争を離脱後、行方知れず。10年前に死んだらしいサボ…、
「……えっ、……サボ?」
「何だよ覚えてるじゃん。同じ名前で手配書出てるのに知らなかったのかよ元中将さん」
「んな…、まさか死んだって聞いた人間が元気に犯罪者やってるとは思わないでしょうよ…」
「そりゃそうだな。……なぁ、最初に言ったが、話がしたいんだ」
死んだと思っていた弟が生きていて、今まで何をしていたか、どういう状態だったのか話してくれた。
「……殴らないのか?」
「あんたの不遜な態度に対してなら何度も殴ろうかと思ったけど」
「エースを助けに行けなくて、ごめん」
「…それをあの場に居て何もできなかった私に言うの?」
あの時の光景が脳裏にフラッシュバックする。
目の届かない場所に居てでも、決して死なないように、と思って厳しく接してきた。だのに、いざ目の届く範疇、私の目の前で、エースが死んだ。私は一体何の為に海軍に入ったのか、ここまで地位もあげて、何をしていたのか。考えないようにしていたことが現実が押し寄せてくる。
クザン大将は私の辞表を受け取ってくれなかった。エースが死んじゃった今、海軍に居ても意味ないって言ったのに。
じいちゃんは私に何も言わない。あの時、海軍に入るって決めたあの時「エースを守れ」って言われたのに。
サカズキ大将に言われた。「存在が罪」、そんなこと知ってる。子供の時から知ってる。直接言われたことは無かったけれど、私のせい…私とエースのせいで罪もなく死んで言った人たちを知ってる。でも、それでも母の死を無駄にしたくなかった。愛するエースを守りたかった。でも、その愛しのエースは死んでしまった…死なせてしまった。
「何で私はまだ生きてるの……!!」
口にすることのできなかった思いがこぼれるように、心から押し出すように溢れてくる。醜い、本当に醜い。火傷で爛れた顔も、腕をなくした身体も、私の心も、私の血筋も、全部全部、ゴール・D・レギーナという存在が醜い!
「俺たちがいる」
静かな声だった。真っ暗な私の世界に灯った小さな小さな灯火のような。迷子の私を、決して離さないというような、意志の篭った声でもあった。
ぎゅっとシーツごと握っていた拳に暖かい掌が重なる。
「言ってくれただろ?エースの兄弟なら私の弟だって。ルフィはまだ生きてる、俺も生きてる。今度は俺たちのために…だから何で生きてるんだ、なんて言わないでくれよ姉ちゃん」
「サボと、ルフィ、?」
「俺は、あんたが生きててくれて嬉しい。醜いなんて言わないでくれ。俺にとってレギーナはどんな時でも、どんな姿をしていたって、綺麗で強くてかっこよかった」
下がっていた目線をサボへと向ける。10年も前の記憶の中のサボと、今のサボ。大きくなったなぁ…背も手もちっちゃくて、腕も足も首も細かったのに。今じゃすっかり私を追い越したんだ。左目を覆うような火傷跡は痛々しい。
エースは本当にいい兄弟を得た。私にはこんなに立派になった弟がいたんだ。…もちろん、エースのためにインペルダウンまで行って、マリンフォードに駆けつけたルフィも。
目頭が熱くなってサボの顔がぼやけてくる。顔も引きってきて自分でも表情が歪んでいるのがわかる。火傷が痛むし、顔半分を覆う様な大きなガーゼが酷く邪魔だ。
「サ、ボ……サボ、」
「なんだ?」
「私、エースにお姉ちゃんらしいことなにもできながった、こんなっ、こんなことになるんだったら、もっど一緒にいてあげればよがっだっ!!」
「うん」
「あのとき、どうすればよがっだのかなぁ…!?」
「そんなの、わかんねぇよ…」
赤髪が来て、戦争は終結した。その後私はじいちゃんと共にエースの側に向かった。海軍側には私とエースとの関係は、どちらも保護者をじいちゃんとするため、一応弟分として通してあった。横たわった体に大きな風穴を開けた"火拳の"エースの体はとても冷たかった。だけど、顔は見たことが無いほど穏やかだった。なにを思って己の最期に笑みを浮かべられるだろうか。悔いはなかったというのか、エースは。人生を全うできたというのだろうか。
「俺はあんたほど不器用に弟を愛し続けた姉なんか知らねえし見たことない。エースにも伝わってるよ。…何度でも言うよ、姉ちゃん、生きててくれてありがとう」
「…う"っ、うぅ、」
サボは私の失わなかった手を握ったまま傷に触らない様に優しく抱きしめてくれた。久しぶりに人の暖かさに触れた気がする。誰かに縋ったのも随分久しぶり…いや、幼い頃以来だ。
重かった。中将という地位も、部下の命も、救いたいと思った一般人も、海軍の正義も、血筋も、エースの人生も。肺に、真新しい空気が入って来た気がした。真っ黒に染まった私の身体に透き通った綺麗な空気が入り込んで、悪いもの全部追い払ってくれたような。
エースの事、生き急ぐなって何度も思ってたけど、生き急いでいたのは私も同じだったようだ。そんな簡単に、最終目標だった元帥になれるわけなかったし、エースもルフィも勿論サボも海賊になるのを止められないだろうなってわかってたのに。
「サボ……」
「ん?」
「貴方も、生きててくれてありがとう」
「……………おう」
泣きすぎた私を見かねたサボは、その後部屋を出て、コップ一杯の水と濡れタオルを持って来てくれた。
「痛々しいな…」
「久しぶりにこんなに泣いたから明日はすごい腫れると思う」
「そっちじゃねぇ」
てっきり充血した目と、擦って赤くなった目元のことを心配されてるのかと思ったが違うらしい。サボはそっとガーゼの上から私の頬を撫でる。火傷に障らないよう、丁寧に触れる手が、なんだかくすぐったかった。
「跡、残るんだろ」
「別に今更顔に傷の1つや2つ増えたくらいで感傷的になんないよ」
「顔もそうだが顔だけじゃねぇだろ。腕だって…まだ嫁入り前なのに」
「なにそれっ、嫁入りって…別に結婚しなくても生きていけるわよ」
思わず可笑しくて笑ってしまったが火傷で顔を引きつってうまく笑えた気がしない。そしてサボの表情も曇ったまま。
「…私ね、自分の顔あんまり好きじゃなかったの。じいちゃんは……爺馬鹿だからさておき、周りの海兵から言い寄られることもあったから多分見てくれは悪くなかったと思う」
「あんたは綺麗だよ」
「ふふっよく恥ずかしげもなくそんなこと言えるわね。私の顔、エースと全然似てないでしょ?目つきも全然違うし、雀斑だってない。髪だって色も違えば髪質も違う。」
「そ、んなこと…」
「あるよ。全然似てないなってちゃんとわかってる。でも今は顔に火傷跡できちゃったから、可愛い弟とお揃い」
「は?」
「だから!サボとお揃い!でしょ」
エースと似ていない自分の顔に価値が見出せなかった。じいちゃんは母さんと瓜二つ、なんて言ってたけどやっぱり姉弟なんだから似てる要素は欲しかったとずっと思ってた。でも今は、サボとお揃いだ。前よりは自分の顔が好きになれそうだと思った。
きっと親切な医者も私が何者かわかっていないであろう。バレているのだったら今頃海軍の連中が私を引き取りに来るか、CPか何かをつかって私を殺しにくるしな。まぁ結果的に海軍は辞職できてラッキーである。
生きているのか死んでいるのかよくわからない状態のまま治療されて数ヶ月、殆どベッドの上で過ごしつつ極稀に家の中を練り歩いてはナースに部屋に戻れと叱られ、ベッドの上へと逆戻りといった生活を続けていた。そんなある日黒いコートを着たどうにも怪しい男女2人組が私の元へ訪ねてきた。
「初めまして、元海軍中将青剣のレギーナ殿」
「何?私を殺しに来たの?」
「滅相もありません!お願いというか…我々は勧誘に参りました」
「勧誘…?」
「是非、革命軍で共に戦士として戦いませんか?」
「断る」
まさか革命軍の連中だったか。全貌は知らないが、厄介な連中であることは分かる。どういった情報網を使ったのか知らないが、死にかけた女が私だと知っているなんて、やはり侮れない組織だな。
「貴女は海軍に捨てられた身…それでもまだ正義だ何だと言うのですか」
「随分言ってくれるじゃん犯罪者」
「何だとっ!?」
「傷に触るから帰ってくれる?」
海軍にできないことをやってのける革命軍。しかし結局それは犯罪行為にしかならない。気の毒な組織だと思うけれど、犯罪者は犯罪者。私の血筋がどうであれ、エースのために人生掛けるつもりで海軍に入ったのだ。確かに海軍には見捨てられたかもしれないが、元々辞職するつもりではあったので結果オーライである。そんな私が、存在が罪である私が、革命軍になんて入ったら、世界的にみても本当の犯罪者になってしまう。これ以上じいちゃんの心労も増やすわけにはいかない。
革命軍の勧誘を断ってからと言うもの、奴らは何度も私の元へ訪れては入らないか、どうだと言ってきた。何度も言っているが私は犯罪者に成り下がるわけにはいかない。
私を助けてくれた親切な人たちは何と革命軍支援者だったらしい。本心では入って欲しそうだが私の血筋がバレればそうも言ってられないだろう。
だが予測できないことがその日は起きた。特に意味もなくベッドの上から窓の外を眺めていると、私の部屋に訪問人が。ドクターやナースは必ずノックをしてくれるが飛んだ無礼者が訪ねてきたようだ。
黒いハットに黒いコート、随分小綺麗で上品な無礼者だ。
「レディの部屋にノックをしないで入るなんて随分な紳士ね」
「レディ?あんたのことか?」
なんということだ。想像をはるかに超える失礼な男だ。私が本調子なら今頃ぶっ飛ばしてる。
「そう殺気立つなよ。別にあんたとやり合おうって訳じゃない。俺個人としてあんたと話がしたい」
「あんた個人として?革命軍のNo.2が死に損ないの元海兵に一体何の用?」
「なんだ、知ってたのか」
「元中将なんだから犯罪者の顔くらい覚えてる」
「犯罪者の顔か…じゃあさ、弟の顔は?」
「は、」
「なんだよ…あんたも記憶喪失か?」
弟ってなんだ、なんで私に弟がいたことを知ってるの。私には3人の弟がいた、本人たちが私のことをどう思っていたから知らないけれど。実弟のエースは死に、ルフィは戦争を離脱後、行方知れず。10年前に死んだらしいサボ…、
「……えっ、……サボ?」
「何だよ覚えてるじゃん。同じ名前で手配書出てるのに知らなかったのかよ元中将さん」
「んな…、まさか死んだって聞いた人間が元気に犯罪者やってるとは思わないでしょうよ…」
「そりゃそうだな。……なぁ、最初に言ったが、話がしたいんだ」
死んだと思っていた弟が生きていて、今まで何をしていたか、どういう状態だったのか話してくれた。
「……殴らないのか?」
「あんたの不遜な態度に対してなら何度も殴ろうかと思ったけど」
「エースを助けに行けなくて、ごめん」
「…それをあの場に居て何もできなかった私に言うの?」
あの時の光景が脳裏にフラッシュバックする。
目の届かない場所に居てでも、決して死なないように、と思って厳しく接してきた。だのに、いざ目の届く範疇、私の目の前で、エースが死んだ。私は一体何の為に海軍に入ったのか、ここまで地位もあげて、何をしていたのか。考えないようにしていたことが現実が押し寄せてくる。
クザン大将は私の辞表を受け取ってくれなかった。エースが死んじゃった今、海軍に居ても意味ないって言ったのに。
じいちゃんは私に何も言わない。あの時、海軍に入るって決めたあの時「エースを守れ」って言われたのに。
サカズキ大将に言われた。「存在が罪」、そんなこと知ってる。子供の時から知ってる。直接言われたことは無かったけれど、私のせい…私とエースのせいで罪もなく死んで言った人たちを知ってる。でも、それでも母の死を無駄にしたくなかった。愛するエースを守りたかった。でも、その愛しのエースは死んでしまった…死なせてしまった。
「何で私はまだ生きてるの……!!」
口にすることのできなかった思いがこぼれるように、心から押し出すように溢れてくる。醜い、本当に醜い。火傷で爛れた顔も、腕をなくした身体も、私の心も、私の血筋も、全部全部、ゴール・D・レギーナという存在が醜い!
「俺たちがいる」
静かな声だった。真っ暗な私の世界に灯った小さな小さな灯火のような。迷子の私を、決して離さないというような、意志の篭った声でもあった。
ぎゅっとシーツごと握っていた拳に暖かい掌が重なる。
「言ってくれただろ?エースの兄弟なら私の弟だって。ルフィはまだ生きてる、俺も生きてる。今度は俺たちのために…だから何で生きてるんだ、なんて言わないでくれよ姉ちゃん」
「サボと、ルフィ、?」
「俺は、あんたが生きててくれて嬉しい。醜いなんて言わないでくれ。俺にとってレギーナはどんな時でも、どんな姿をしていたって、綺麗で強くてかっこよかった」
下がっていた目線をサボへと向ける。10年も前の記憶の中のサボと、今のサボ。大きくなったなぁ…背も手もちっちゃくて、腕も足も首も細かったのに。今じゃすっかり私を追い越したんだ。左目を覆うような火傷跡は痛々しい。
エースは本当にいい兄弟を得た。私にはこんなに立派になった弟がいたんだ。…もちろん、エースのためにインペルダウンまで行って、マリンフォードに駆けつけたルフィも。
目頭が熱くなってサボの顔がぼやけてくる。顔も引きってきて自分でも表情が歪んでいるのがわかる。火傷が痛むし、顔半分を覆う様な大きなガーゼが酷く邪魔だ。
「サ、ボ……サボ、」
「なんだ?」
「私、エースにお姉ちゃんらしいことなにもできながった、こんなっ、こんなことになるんだったら、もっど一緒にいてあげればよがっだっ!!」
「うん」
「あのとき、どうすればよがっだのかなぁ…!?」
「そんなの、わかんねぇよ…」
赤髪が来て、戦争は終結した。その後私はじいちゃんと共にエースの側に向かった。海軍側には私とエースとの関係は、どちらも保護者をじいちゃんとするため、一応弟分として通してあった。横たわった体に大きな風穴を開けた"火拳の"エースの体はとても冷たかった。だけど、顔は見たことが無いほど穏やかだった。なにを思って己の最期に笑みを浮かべられるだろうか。悔いはなかったというのか、エースは。人生を全うできたというのだろうか。
「俺はあんたほど不器用に弟を愛し続けた姉なんか知らねえし見たことない。エースにも伝わってるよ。…何度でも言うよ、姉ちゃん、生きててくれてありがとう」
「…う"っ、うぅ、」
サボは私の失わなかった手を握ったまま傷に触らない様に優しく抱きしめてくれた。久しぶりに人の暖かさに触れた気がする。誰かに縋ったのも随分久しぶり…いや、幼い頃以来だ。
重かった。中将という地位も、部下の命も、救いたいと思った一般人も、海軍の正義も、血筋も、エースの人生も。肺に、真新しい空気が入って来た気がした。真っ黒に染まった私の身体に透き通った綺麗な空気が入り込んで、悪いもの全部追い払ってくれたような。
エースの事、生き急ぐなって何度も思ってたけど、生き急いでいたのは私も同じだったようだ。そんな簡単に、最終目標だった元帥になれるわけなかったし、エースもルフィも勿論サボも海賊になるのを止められないだろうなってわかってたのに。
「サボ……」
「ん?」
「貴方も、生きててくれてありがとう」
「……………おう」
泣きすぎた私を見かねたサボは、その後部屋を出て、コップ一杯の水と濡れタオルを持って来てくれた。
「痛々しいな…」
「久しぶりにこんなに泣いたから明日はすごい腫れると思う」
「そっちじゃねぇ」
てっきり充血した目と、擦って赤くなった目元のことを心配されてるのかと思ったが違うらしい。サボはそっとガーゼの上から私の頬を撫でる。火傷に障らないよう、丁寧に触れる手が、なんだかくすぐったかった。
「跡、残るんだろ」
「別に今更顔に傷の1つや2つ増えたくらいで感傷的になんないよ」
「顔もそうだが顔だけじゃねぇだろ。腕だって…まだ嫁入り前なのに」
「なにそれっ、嫁入りって…別に結婚しなくても生きていけるわよ」
思わず可笑しくて笑ってしまったが火傷で顔を引きつってうまく笑えた気がしない。そしてサボの表情も曇ったまま。
「…私ね、自分の顔あんまり好きじゃなかったの。じいちゃんは……爺馬鹿だからさておき、周りの海兵から言い寄られることもあったから多分見てくれは悪くなかったと思う」
「あんたは綺麗だよ」
「ふふっよく恥ずかしげもなくそんなこと言えるわね。私の顔、エースと全然似てないでしょ?目つきも全然違うし、雀斑だってない。髪だって色も違えば髪質も違う。」
「そ、んなこと…」
「あるよ。全然似てないなってちゃんとわかってる。でも今は顔に火傷跡できちゃったから、可愛い弟とお揃い」
「は?」
「だから!サボとお揃い!でしょ」
エースと似ていない自分の顔に価値が見出せなかった。じいちゃんは母さんと瓜二つ、なんて言ってたけどやっぱり姉弟なんだから似てる要素は欲しかったとずっと思ってた。でも今は、サボとお揃いだ。前よりは自分の顔が好きになれそうだと思った。