エースの6歳年上の姉。海軍本部中将で青キジの直属の部下。掲げる正義は「仁こそ正義」詳しくはネタにて。
冬来りなば春遠からじ【完結】
名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
微かに漏れるレギーナの嗚咽と、壁に掛かっている振り子時計の時を刻む音だけが響く室内。
ルフィはレギーナに声をかけるでもなく、じっとレギーナの様子を見つめていた。サボもまた、そんな2人の様子を静観していた。
レギーナの呼吸が落ち着いた頃、ルフィが口を開く。
「そういえば、伝言預かってたんだった」
「……でんごん…?」
「『愛してくれてありがとう』って!」
「!…ゔ〜〜っ!!!」
にかり、満面の笑みでレギーナに言伝の内容を告げるルフィに、落ち着いた筈の涙が溢れ出すレギーナ。小さく唸りながら背中を丸めたレギーナは、それが誰からの言葉だったのかすぐさま理解した。
世界一の嫌われ者の鬼の子が、誰かに愛されていたことがレギーナにとっては何より嬉しいことだった。レギーナはエースからの言葉が自分にも当てられていることなど思いもしない。
一方、ルフィの言葉に息を呑んだサボは帽子のツバを下げ表情を隠す。
『愛してくれてありがとう』その一言でサボとレギーナが、二年前に負った心の傷が少し癒えた気がした。
「にしし!レギーナは泣き虫だったんだなァ」
「ながぜるようなごど、いうがら、でじょっ!!」
「何言ってんのかわかんねぇ!」
尚もレギーナを揶揄るように笑うルフィにサボはホッと小さく息を吐いた。
あの戦争の当事者だった、立場も目的も、何もかも違った2人。どちらもエースを大事に想っていたことだけが共通点だった。
記憶を無くし、全てが終わった後に嘗ての記憶を取り戻したサボにはルフィとレギーナの再会の場を設けることしかできなかった。当時のことを2人にはとてもじゃないが何も言えることはなかった。伝えられたのは再会の喜びと、生きていることへの感謝。
誰もサボを責めなかった。少なくとも、3人全員が心の何処かにある後悔が消えないからだろう。
サボはレギーナとルフィの様子を見て、一度席を外した。泣き過ぎて赤くなっているであろうレギーナの目元を冷やすためにタオルと桶に水を入れに席を立ったのだった。
途中、応接室の前を通ったが、麦わらの一味は婦長とエルマーを交えて賑やかに会話を楽しんでいる様子だった。
気のいい仲間たちだな、とわずかに頰を緩めたサボは、レギーナの目元を冷やすべく部屋へと足早に戻った。
レギーナの部屋の前に行くと、何やら言い争うような声が聞こえてきた。怪訝に思いながらもサボは声をかけながら扉を開く。
「何騒いでるんだ?」
「あー!サボ、聞いてくれよ!」
「ちょっとサボ!また部屋のノックしてない!」
「はいはい、ルフィちょっと待て。レギーナ、これで目元冷やせよ」
「ああ、ありがとう」
案の定少し目元の赤くなっているレギーナに冷えたタオルを渡すサボ。水の入った桶は壁側の机の上に置くことにした。
ベッドに腰掛けたままのレギーナと、ルフィは椅子を引っ張ってレギーナの目の前に腰掛けていた。サボは2人の話を聞くために迷わずベッドのレギーナの隣に腰掛けた。
「それで?」
「レギーナがおれはレギーナに勝てないって言うんだ!」
「そりゃ勝てないでしょう。私を誰だと思ってるの?」
「いやいや、一体何の話だよ」
「鍛錬の話よ。昔散々したでしょ?私がボコボコにしたアレよ」
「ああ…、アレな」
「おれ、あれからすげェ強くなったんだぞ!」
「まぁ億越えの賞金首なんだから能力も使いこなせなかったガキの頃に比べればましでしょうよ」
「なんだと!?」
「レギーナは煽るなよ!なんかデジャヴだなこれ」
レギーナに煽られたルフィは勢いよく立ち上がり、椅子を倒してしまう。鼻息荒く対峙したルフィを、レギーナは愉しげに見上げている。
サボはコルボ山で過ごしたあの頃を思い出していた。記憶が戻ってから再会したレギーナは心も体も憔悴しきっていた。あの頃とはかけ離れた姿だった。しかし、ルフィと対峙する今のレギーナは、嫌味で高飛車で、幼い頃は少し恐ろしかった年の離れた姉に間違いなかった。
「久しぶりにやる?私に片膝つかせてみなさいよ」
「望むところだ!」
「ちょっと待てレギーナ、お前っ、」
サボの静止の声も虚しく、自由奔放な弟と傍若無人な姉は立ち上がり、お互いに距離をとって構えている。
ルフィは先手必勝とばかりに伸びる腕を駆使して、窓際に立つレギーナに拳を打つ。
「ゴムゴムの"
見聞色を取得しているレギーナは最小限の動きでルフィの拳を避ける。その拍子に窓ガラスが割れた。
「ちょっと、」
追撃とばかりにルフィは、レギーナとの数メートルの距離を一瞬で詰めると、再び拳を振り上げる。
ルフィの耳にレギーナの声は届いていなかった。
サボは頭を抱えて、割れた窓ガラスと、部屋の一部を壊され今にもキレ散らかしそうなレギーナ、そしてすっかり煽られ乗せられたルフィを見つめる。
そもそも左半身に大火傷を負い、片腕をなくしたレギーナは一線を退いた元海兵。義手を付けているとしても、あくまでそれは日常生活に支障をきたさないようにするためのものだった。今や億越えの海賊となった最悪の世代のルフィとタイマンを張って壊れないわけがない。そう思っての静止だったが2人は聞く耳持たず。サボは頭を抱える他なかった。
麦わらの一味とすっかり仲を深めたエルマーは静寂を保つ二階の住人たちに思考を飛ばした。
あの革命軍の参謀総長と己の上司が義姉弟だと知った時は、火拳とエースの実姉だと知った時と同様にひどく驚いたものだった。
2人の関係は良好のようで、憔悴しきっていたレギーナが徐々に笑顔を取り戻していったときは安堵した。
サボが同じく義弟のルフィを連れて二階へ登った時は心配だったが、聞きなれた上司の怒号や、億越え海賊の叫びが聞こえないとなると上手くいったようだった。
と、思ったのもつかの間。窓ガラスが割れるような甲高い音が明らかに上の階から聞こえた。
「!?」
「な、なんの音だ?」
「上から聞こえたけど、ルフィとサボかしら?」
「なんだ?兄弟喧嘩か?」
「…いや、そんな可愛いもんじゃねェと思う……」
「?どうしたんだよ、エルマー。顔色が悪いぞ」
呑気な一味の言葉に、否定の言葉を続けるエルマー。音が鳴ってから明らかに顔色の悪くなったエルマーに一味の視線が集まる。
時を同じくして、2人の男は頭を抱えていた。
次の瞬間、嫌になる程聞いた女の怒鳴り声と先程のガラスが割れるなど比じゃない、何かが壊れる物音がした。窓の外には何者かが二階から林の中へと飛び出していく影。
「最悪だ…」
「えっ!!!?今外に飛び出してきたのルフィ!?」
「何ィ!?」
「おい!また誰か上から降ってきたぞっ!」
「兎に角外に行くぞ!」
エルマーの呟きは誰にも拾われることなく一味は慌ただしく外へ向かった。
一味が目にしたのは知らない金髪の女と己らの船長が激しい動きで攻防を繰り広げている様だった。
2人の力は拮抗しているようで、実力に差があるようには見えなかった。
「誰だ、アレ」
「なんて麗しいレディなんだー!」
「け、喧嘩か!?」
「喧嘩じゃねェ、鍛錬だ…多分」
「サボ!」
混乱する一味の元へ現れたのはルフィを連れ立って部屋を出ていったサボ。頰をかき苦笑いするサボに、首を傾げた一味。そんな一味を追い越してサボに掴みかかったのはエルマーだった。
「おい!サボ!お前何やってんだよ!」
「いや、悪い」
「思ってねェだろ!!」
「怪我する前にどうせ早く終わるよ」
「そういう問題じゃねェ!」
胸ぐらを掴み何度も揺らすエルマーと能天気に受け答えをするサボ。事情は全くわからないが、やはりルフィの兄だな、と思う一味。
そんな折、ルフィの蹴りを左手で受け止め、勢を殺しきれずにサボたちの元まで下がってきたレギーナ。
「ちょっと!レギーナさん何やってるんですか!」
「あぁ、エルマー。今ちょっと鍛錬中だよ」
「いやいや!鍛錬するのに何だよあの騒音!?」
「ちょっとね」
「ちょっとね!!?」
心底面倒そうにエルマーの話を聞くレギーナの顔にある大きな火傷跡に、一味の数名は驚いた。思わずサボを見るが、顔は全く似ていない。
各々がやり取りしている間もルフィからの攻撃は続く。今度は避けることはせず、武装色の覇気を纏った腕で拳や足を受け止めるレギーナ。
しかし、その攻防も長くは続かず、レギーナの義手が壊れることによって終結した。
「あっ」
ルフィの伸びた腕がパシッと元の長さに戻ったと同時に義手に亀裂が入り、パキン、と軽い音と共に左腕が地面に落ちた。
左半身が突然軽くなったことにより、ふらついたレギーナを難なく受け止めたのはサボだった。
「ルフィ!終わりだ、レギーナの義手が壊れた!」
「義手!?レギーナ、腕どうしたんだよ!」
サボの声で慌てて駆け寄ってきたルフィ。心配そうにレギーナの顔を覗き込むルフィに、レギーナは感慨深く感じた。あの頃、能力をうまく使いこなせずに力を持て余していた少年。痛くても唇を噛んで泣くのを耐えていた少年はもういない。
「ルフィ、」
「ん?うぉっ!」
ルフィの腕を右手で掴んで引き寄せたレギーナ。特に抵抗をすることなくルフィはレギーナの肩口に顔を埋める。
サボに支えられているレギーナはルフィを引き寄せたことによって2人の弟に抱きしめられているような形になったことに、思わずふっ、と笑みをこぼす。
「私、エースが死んだ後、後を追おうとしたの」
背後のサボの身体が強張ったのがわかった。ルフィの右手は、今はもうなくなった、左腕の付け根を掴んでいる。
「でも、死に損なっちゃって、…今はまだ死ぬのは惜しいなって思うよ」
サボに体重をかけるように重心を背後に倒し、右手でルフィの背中に手を回してきゅ、と抱き締める。
「ルフィ、サボ、生きててくれてありがとう!」
顔を上げたルフィは笑みを浮かべるレギーナと目を合わせ、頰を緩める。
「ししし!おれも、レギーナにまた会えて嬉しいぞ!」
ルフィの言葉に目を見開いたサボ。いつかサボがルフィに伝えた言葉だった。
エース、おれはもう後悔したくねェから、そっちに行くのは遅くなる。
ルフィとレギーナの体温を噛みしめるようにルフィ背中まで腕を回す。レギーナは圧迫感によりカエルが潰れたような声を出しているが、それを気にする男はここには居ない。
サボからの抱擁に嬉しくなったルフィは腕を伸ばしてぐるぐると3人まとめて抱き込む。
レギーナからは聞いたことのないような声が聞こえた。
鍛錬をしていた船長と謎の女は、いつのまにかサボを含めて親しげに抱き合っている。その様子を間に入ることもできず困惑気味に眺めていた一味。エルマーはそれを見兼ねて3人に声を掛ける。
「ちょっと、レギーナさん生きてます?麦わら、腕を退けてくれ」
「おっ!?レギーナ、顔が白いぞ!」
「ルフィ腕解け!レギーナは片腕ないんだから身動き取れねェよ!」
ルフィやサボと親しげな様子から、もしかしたら旧知の仲なのかもしれない、と推測するクルー達。
3人が何とか落ち着きを取り戻した頃、ルフィがレギーナにクルーを紹介する!と一味の元へ引っ張ってきた。
「レギーナだ!」
「どうも、レギーナです」
「ああ、こりゃどうも」
丁寧に頭を下げたレギーナに倣い、軽く挨拶を交わす一味にエルマーは半目になった。それじゃあ全く関係性がわからねぇだろ…とエルマーの呟きを聞いたナミがハッとなって尋ねる。
「えーと、あなたとルフィは一体…?」
「ああ、姉です」
「あねー!!?」
「血は繋がってないけどな」
「じゃあサボとエースと同じ?」
「レギーナはエースの実の姉だ」
「えええええぇぇぇぇ!?」
「賑やかなクルーだね」
「面白い奴らだろ!」
ルフィと親しげに話すレギーナの顔にロビンはピンときた。嘗て海賊界隈では、鬼のように強い恐ろしい女海兵が現れたと話題になった将校ではなかろうか。
「もしかして海軍中将『青剣のレギーナ』さん?」
「懐かしい名だなぁ」
「ほぅ…」
「えぇぇええぇ!?ルフィの姉ちゃん海軍中将ー!?」
「やべー!!捕まる!!」
「もう海兵じゃないよ」
「そうなんですか?」
「血筋がバレて赤犬に内密に殺されそうになったの」
「じゃあその火傷と左腕は…」
「いや、腕は自分で斬った」
「はっ!?聞いてねェぞ!」
「聞かれてないし」
ロビンの話したレギーナの2つ名に対して、ゾロは口角を上げ、チョッパーとウソップは絶叫した。
亡くした左腕に関してはこの場においてレギーナ本人とその場に居合わせたエルマーしか知り得ないことだった。左半身を丸々マグマに飲み込まれ、死に掛けたレギーナの咄嗟の判断だった。当時のことを聞いてサボは絶句する。
レギーナは話を変える為に咳払いをすると、クルー達に向かって声をかけた。
「いつかルフィのクルーに言わなきゃ、と思ってたんだけど」
「何かしら」
「ルフィって末っ子だし、ガープじいちゃんの実の孫だし、すごく自由に育ってきたんだ。そして何より仲間や兄弟の為に無茶すると思う。幼少期に一緒に過ごした時間は、サボやエースに比べると短かったけど、…私の大切な弟なの」
真摯な瞳でクルー全員を見つめて行くレギーナに一味全員が静かに言葉を待つ。
「ルフィには手を焼くと思うんだけど、よろしくね」
ルフィやサボとは似ても似つかない少し拙い笑顔と共に投げかけられた言葉は、ルフィの兄2人から既に聞いたことがある言葉だった。
ふっ、と誰かが漏らした笑い声に呼応してクルー全体に笑いが広がる。
何故か突然笑われ呆然とするレギーナと、上司と共に困惑するエルマーだけが蚊帳の外だった。
ルフィは何処かで聞いた言葉だなぁと頭を捻り、サボは何処か言った言葉だな首を傾げる。
エースやサボを知るクルー達は姉弟に血の繋がりは関係ないのだとしみじみと感じていた。
「え、なに?何でそんなに笑ってるの」
「やっぱり姉弟って似るもんだな」
ゾロの言葉にやはり困惑した表情を浮かべるレギーナだった。