エースの6歳年上の姉。海軍本部中将で青キジの直属の部下。掲げる正義は「仁こそ正義」詳しくはネタにて。
冬来りなば春遠からじ【完結】
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海兵となったレギーナは、自ら突き放した弟を守ろうと手を尽くした。その一つが、ガープに引けを取らない鍛錬だった。痛い、やめて、と泣こうが喚こうが怒鳴り、罵倒し、何度も心も体も傷付けた。心を殺し、弟が気を失うまで痛めつけた。地面に投げられた短い四肢には、青黒いあざや擦り傷、幼い顔には涙の跡がこびり付いていた。血の気が引いた。
急いで小さな身体を抱えて、山賊のアジトへ駆け込んだことを今でも覚えている、忘れるはずもなかった。
喧嘩にしてもやり過ぎだ、と声を上げる山賊に、レギーナはコルボ山に来て初めて涙を流した。気の強い女山賊もギョッとして、訳を聞いた。
『私は、海兵になるから、エースから離れなきゃならない。私が離れたら、エースを守れるのはエースだけ。だから、エースを守るために、エースに酷いことするの。エースには、死んでほしくないから』
涙ながらに語ったレギーナの言葉に、情に厚い山賊たちは涙を流した。
不慣れな手当てを施すレギーナを見て、また涙を流す。
いつからだったか、増えた弟に、レギーナは安堵していた。独りにしてしまった罪悪感で、ずっとレギーナの心は蝕まれていた。
『嗚呼、もう大丈夫だ。エースは大丈夫。私と違って、エースの側には誰かが居てくれる。孤独はない、寄り添い合って、助け合って生きていける。この子達は、エースの心を守ってくれる』
弟の隣を、そして後ろから、共に歩んでくれる2人の新たな弟にレギーナは人知れず感謝した。
彼らが祖父、ガープの言いつけを破って海賊になろうとしていることを知っていたレギーナ。海賊として、犯罪者になってしまえば、周りは己を殺す敵しかいなくなる。
可愛い弟たちを、決して死なせたくないと、レギーナは思ったのだった。
自分の半分程の背丈しかない弟達を痛めつけるのに、心が痛まないわけがない。
末の弟は能力者であるが、未熟も未熟、痛くても泣くまいと耐える姿は酷く痛ましかった。
実弟は言わずもがな、嫌悪と憎悪が含まれる眼光は、何よりレギーナの心を切り裂いていく。
不思議だったのは、上の弟。少しばかりレギーナに怯える様子を見せたことがあったが、慣れてきたのか純粋に強さを求めるようになっていった。煽っても冷静に判断し、簡単に挑発に乗った実弟を諌める余裕があるほどだった。
上の弟が、天竜人に撃たれた。その後消息は不明、おそらく、いや、きっと既に亡くなっている。
花屋で買った白いカーネーションを、海に流して彼の死を悼む。彼らは、まだ世界を知らない。理不尽が横行するこの世の、本当の姿を。
決意を新たにしたレギーナは、海兵として正しいと信じる道へと歩みだした。
血や硝煙でむせ返る戦場に、希望の光が落っこちてきた。実弟が一等大切に思っている、末の弟だった。
圧倒的な力を目の前にしても、決して諦めずに立ち上がり、兄の元へと駆け出す姿は幼い頃と重なった。
『おれは……!!弟だ………!!!』
末弟の言葉は、処刑台から離れた位置で戦うレギーナの耳にも届いた。
『……私も、』
無意識に呟いた己の声でハッと我に帰った。まだ、レギーナの目的は達成されていたい、ここで全てを投げ出すことは、まだレギーナにはできなかった。
実弟が死んだ。その恐怖の瞬間は訪れた。末弟に力なく凭れかかっている。マグマに身体を貫かれる姿を、確かにこの目でレギーナ見た。
一瞬だけ交わったような視線、小さく笑った気がする唯一無二の弟は、その後小さく何かをつぶやき息を引き取った。
駆けつけた赤髪によって戦争は終結した。まるで立ったまま気絶していたようで、気が付いたら辺りの喧騒は落ち着いていた。足元がおぼつかないまま、祖父に手を引かれ連れてこられたのは弟の元。
「あんたらは…」
「孫と弟分を亡くしたんじゃ、気を遣えんのかお前らは」
声をかけてきた海賊に、悲しみを押し殺して言葉を投げる祖父。周りには終戦したとはいえ、敵である海賊だけ。後ろに控える祖父は、まるで彼らへ向けて壁になるようにレギーナを守るように佇んでいた。
足元には、穏やかに眠るような表情の弟。
「…全部、悪い夢みたい……」
レギーナはゆっくりと弟の側に座り、冷たくなった頬を撫でる。
弟が家族と呼んだ海賊は、少し殺気立ったが、レギーナにとってはどうでも良いことであった。レギーナの生きる意味は、もうこの世には存在しないのだから、この場で海賊に殺されても構わないと思った。
「…ねぇ、本当に死んだの…?」
氷のように冷たい肌は、さらに冷え、硬さも増していた。弟の身体は、人形のように無機質にでも変わってしまったようだった。
「馬鹿だねぇ、…私とじいちゃんの言うこと、聞かないからよ…」
続いた言葉に、祖父は思わず唇を噛んだ。
「…姉より…、姉より先に死ぬことをね、姉不幸者って言うのよ。…姉不幸者は、地獄に落ちちゃうんだから」
辺りを囲んでいた海賊のうち数名は、思わず息を飲んだ。もし、それが本当ならば、この女海兵は…、そう思い誰も口には出さなかった。
レギーナの独白は続く。
「私は、まだ泣けない…、海軍中将だから、海賊のあんたを想って、まだ泣けないの」
レギーナの姿は、スーツに正義と書かれた白いコート。誰が見ても疑うはずもない、海軍将校である。怪我をした部下も、亡くなった同僚たちを悼む事もまだしていない。
後から、すぐ行くわ、誰にも聞き取られないように、弟の頭を抱え、小さく零したレギーナ。
「おやすみ、エース。大好きだよ」
落とした唇に触れたのは、凍えるほど冷えきった額だった。
ポートガス・D・エース様へ
拝啓 普通ならば、ここで季節の挨拶をするところですが、残念ながら私にはそのような教養はございません。貴方にもそんな教養はないでしょうが。
わたしは貴方に言わなければならないことが沢山あります。謝らなければならないことも、数え切れないほどあります。
たくさん貴方を傷つけて、申し訳ありませんでした。貴方を独りにしてしまって、本当にごめんなさい。私は貴方の姉なのに、姉らしいことなど、何一つできなくて、本当にごめんなさい。
たくさん貴方を泣かせてしまいました、悲しませてしまいました、裏切ってしまいました。心の傷が、そう簡単に癒えるものではないと、身を以て知っている私が、貴方を傷つけてしまいました。なにが海兵か、と笑える話です。弟の心を守れない、ダメな姉でごめんなさい。
だけど、貴方も貴方ですよ。じいちゃんや私の言うことが聞けないところ、全く胃が痛いです。貴方の人生、全部の責任は貴方にある、なんて言葉は、私にはとてもではないけれど言えません。
貴方は私の事を、姉なんて思っていなかったでしょうが、私は貴方のことを大切な弟だと思い、今まで生きてきました。
鬼の子として、生まれてきてしまった私達は、世界一の嫌われ者でしょう。そんな私の唯一の弟の貴方を、大切に思わないわけがありません。可愛い可愛い貴方が、誰かにいじめられて泣いている世界など、私は決して許せませんでした。
大好きな貴方が、少しでも生きやすい世界になるように変えてやる、というのが私のちっぽけな野望でした。
なのに貴方はもういません。貴方は先に逝ってしまいました。悔やんでも悔やみ切れません。私があの場で、貴方の代わりになれたのなら、そう思わずにいられません。何のために海兵になったんだか、私は私を殺したくてたまりません。間に合わなかった哀れな姉を、どうか笑ってください。
貴方がいない世界など、生きていて意味があるでしょうか。私には何も残っていません。弟1人守れない海兵が、一体何を救えるというのでしょうか。
もうすぐ、愛する貴方に会いにいきます。敬具
貴方の姉より
追伸
貴方の姉が、貴方に会いにいくのはもう少し先にします。だから首を長くして、再開を待っててください。
あと、俺はまだそこには居ません。驚かせて悪い、お前の姉ちゃんを貰うことも許してください。まぁ、許されなくても貰うけど。
貴方の兄弟より